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ネットワーク中立性についての議論 ~IGCJ 15報告その2~

投稿者 dom_gov_team on 2016年10月20日

先立って、第15回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ 15)の報告第1弾として「アジア太平洋地域の俊英が集まった熱い合宿 ~IGCJ 15報告その1~」と題して、Asia Pacific Internet Governance Academy (APIGA)についての模様をお伝えしましたが、それに引き続いたプログラムでは、「ネットワーク中立性」について議論が行われました。今回のブログではIGCJ15報告の第2弾として、この「ネットワーク中立性」に関しての発表・議論内容について報告します。

■米国の議論とルール化の様子

まずはじめに、寺田真一郎氏から、「ネット中立性 (net neutrality) - 米国の議論とルール化の様子 - 」と題して、ネット中立性の定義、米国での議論、米国連邦通信委員会(FCC)によるルール化過程についてお話しいただいた後、質疑応答となりました。

米国での議論の特徴は、さまざまな分野で議論が発生し、専門家だけでなく一般の人も議論に参加すること、賛成派と反対(懐疑)派に分かれてディベートが行われること、賛否がルール化の是非に直結すること、ということでした。例示された論点は次の通りです。

  • エンド・ツー・エンド原則
  • 垂直統合
  • イノベーション
  • 言論の自由

FCCルール中の三大原則は、次の通りです。

  1. ブロックしない
  2. 帯域を絞らない
  3. 有料での優先順位付けを行わない

その後、賛成派と反対(懐疑)派の陣容が紹介され、ネット中立性のルール化への過程として、FCCによる意見募集、オバマ大統領によるネット中立性への支持声明、FCCオープンミーティングでの承認に至る過程についても共有いただきました。

■日本におけるこれまでの議論

その後、石田慶樹氏より「ネットワーク中立性 - 日本におけるこれまでの議論 -」と題し、関連する日本の法律、日本における論点、2005年から2008年にかけて総務省で行われた「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」および「ネットワークの中立性に関する懇談会」などでの議論の紹介など、これまでの日本での経緯についてお話しいただきました。

総務省の懇談会でネットワーク中立性について議論がなされた際は、利用の公平性(市場支配力の濫用防止)、コスト負担の公平性(混雑への対処)に大別して議論されました。日本では固定ブロードバンドサービスが競争環境にあったこと、垂直統合でなく水平分散であったことなどにより、結果としてネットワーク中立性が維持されてきました。しかし、米国や世界での議論の高まりや、固定ブロードバンドサービスにおけるハイパージャイアント由来のトラフィックの爆発的増加、モバイルブロードバンドでの従量課金制への意向、コンテンツ層の強力なプレイヤーによるネットワークへの参入および「ゼロレーティング」の導入などにより、「あらためてネットワーク中立性が脚光を浴びつつあるのが日本の現状である」と紹介がありました。

■ISPから見たネット中立性

立石聡明氏より、「ISPから見たネット中立性」と題し、主に日本のISPの置かれた状況についてお話しいただきました。他には、インド、アフリカ、南米の国々における状況、途上国対先進国の南北問題についてもお話しいただきました。例として、インドでコンテンツプロバイダー(Facebook社)が始めた無料ネットアクセスサービスが、自社以外のコンテンツへのアクセスに高額な料金を課したため、その国はそのサービスを実質禁止し、サービス提供が中止された例がありました。他にも、途上国で費用を掛けてネットワークを整備しても、お金は先進国のコンテンツ企業にばかり流れるという現実があること、それに加え国内でも南北問題(東京から離れたプロバイダーほどアクセス回線とトランジット費用がかさむ)があることなどが共有されました。

■参加者による議論

その後の参加者による議論では、国内での審議会「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」「ネットワークの中立性に関する懇談会」「インターネット政策懇談会」などでの関連議論に参加経験のある東京大学の江崎氏および、総務省で当該審議会を担当された経験のある高村企画官より、議論の背景および歴史について共有されました。

まず背景として、日本では以下のような規制があるため、米国のような問題は起こりにくいとされています。

  • 憲法21条(通信の秘密)および電気通信事業法第4条(通信の秘密)、第6条(電気通信役務に関する不当な差別的取り扱いの禁止)
     → DPI (Deep Packet Inspection)などによる通信の仕分け・ブロックが難しい
  • 支配的事業者とみなされたNTTへの規制(NTT法)
     → 垂直統合が禁じられているため、インフラとコンテンツの両方を提供し、他コンテンツ企業へのトラフィックをブロック/制限する動機が生まれにくい

国の懇談会などでの議論の流れとしては、光ファイバー網を国営に戻しては、という議論が行われた際には各社が競争的に設備を構築するという線で落ち着きました。が、その後動画配信サービスが開始されてトラフィックが跳ね上がり、レイヤー単位での規制を考えていたところ、垂直統合も併せて考えないと、ということになりました。そこへ米国のケーブルテレビ会社の一つがインターネットサービスで動画のトラフィックを止めてしまい、ネットワーク中立性が議論の土俵に上ってきた、という流れとなったとのことです。

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今回3名からの発表を経て、議論もありましたが、日本においてはこの問題についてはようやく認識が始まったばかりで、これからも継続的な情報交換が必要だと感じました。議論の詳細については、「第15回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)レポート」に掲載されていますので、もしご興味があればご覧ください。

次回第16回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ 16)は「Internet Week 2016」の一部として、2016年11月29日(火)19:00~20:30に東京・浅草橋のヒューリックホールで開催されます。
https://internetweek.jp/program/j1/