データから読み解くIPv6の普及率
ip_team IPアドレス前回の「IPv6の普及期は目前? ~IPv6対応セミナー in 名古屋を開催しました~」の記事では、IPv6の普及に向けた取り組みをご紹介しましたが、今回はIPv6普及・高度化推進協議会およびIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースによる調査結果から、IPv6の普及率について実際の数字を交えながら考察してみたいと思います。
日本においてIPv6の普及促進活動が始まってから15年くらいが経過しました。
その間、関係者にはよく「IPv6っていつ来るの?」といった質問がなされてきたと思います。もちろんIPv6は単なる通信規格であり、自ら能動的にやって来ることはなく、インターネットの仕様策定や運用に関わる人たちの努力と貢献のたまものとして、「IPv6が来た状態」=「広くみんなが使える状態」になるわけです。当然、先の質問をする側もそれは理解しながらも、そういった努力や貢献を自分以外の誰かがやってくれて、その状態を生み出してくれることを期待しつつ聞いていたのだと思います。
さて現在、IPv6普及・高度化推進協議会およびIPv4アドレス枯渇対応タスクフォースでは、日本におけるIPv6普及状況の調査を継続的に実施しています。この中で、日本で最もインターネットへのアクセス回線として利用されているフレッツ光ネクストのIPv6普及率が、最新の2015年9月のデータで、10%を超える結果となりました。 これについては、先月開催されたIPv6 Summit TOKYO 2015においても、何人かの登壇者が話題として挙げていました。
この調査の中で同様に、アクセス回線としてIPv6の普及率が計測されているものに、KDDI株式会社のauひかりと、中部テレコミュニケーション株式会社(CTC)のコミュファ光もあり、それぞれ普及率としては100%と78%と、とても高い値を示しております。それと比較すると、フレッツ光ネクストの10%というのまだまだ、という印象を受けるかもしれません。
しかし、フレッツ光ネクストは全国規模で約1,700万契約あり、そのうちの約180万契約がIPv6に対応していると考えると、その規模感と意味合いが少し理解できるのではないかと思います。
ちなみに、この普及率の計測方法が、IPoE方式の契約数はほぼ実数として集計されていますが、PPPoE方式の場合は、計測に協力いただいているISP各社さんの3ヶ月間にPPPoEアクセスのあったユニークな契約者の数を集計したものの合計であるため、本当の実数としてはもう少し上振れする可能性があるものです。(詳しい集計方法については、この普及状況調査のページに解説があります。)
しかも、下のグラフを見ていただくと分かる通り、フレッツ光ネクストの契約数の伸びが若干頭打ちになりかけてきている一方で、IPv6契約数が急速に増えていいます。実際に2014年9月時のIPv6契約数が613,000ですので、契約数は1年間で約3倍の数に増えていることになります。
さて、普及率という観点で、総務省の情報通信統計データベースで公開されているいくつかのデータと比較してみました。 ちょうどインターネット普及率の推移と携帯電話・PHS加入契約数の推移というデータがありましたので、一つのグラフにプロットしてみて、これまでの普及度合いの比較と、今後の推移についての予測を立ててみましょう。
携帯電話・PHSの普及率データは、1988年のデータからです。1995年に9.4%、1996年に一気に21.5%となり、そのまま急角度で上昇して、2000年に52.6%と人口の半数以上に普及したことになっています。普及率が10%を超えるまでにだいたい7年かかって、半数を超えるのに12年費やしたことになります。
インターネットの世帯普及率データは1997年からとなっており、1998年11.0%と10%を超えています。日本において商用のインターネット接続サービスが開始したのが1992年ですので、そこを起点とすると、10%超えまでに6年かかったことになります。2000年に31.4%、2001年に60.5%、2002年には81.4%と、半数を超えるのに10年かからず、10年目には普及率8割を超えているということで、かなり短期間で急速に普及していったことがわかります。ちなみに携帯電話が普及率8割を超えたのは2007年ですので、20年近く要したことになります。
さて、ではIPv6の普及率について考えてみた場合、フレッツ光ネクストがPPPoE方式およびIPoE方式によるIPv6接続を提供開始したのが2011年ですので、おおよそ4年間で10%を超えており、上記の二つの普及率の推移よりも早い展開で推移していることが分かります。1年間で契約数が3倍に増えていること、また全体の契約数自体が少し落ち着いている状況から、フレッツ光ネクストユーザーのほとんどがIPv6を利用している状態になるのは、それほど先の話ではないと考えられます。
ただし、上記のグラフで、2010年以降の状況を見てみると、インターネットの世帯普及率は徐々に減少してきており、一方携帯電話の人口当たりの普及率は一段と上昇し、100%を超えている状況になっています。 これは、いわゆるスマートフォンの普及により、1人で複数台の携帯電話を保有することがそれほど珍しくなくなったことと、同じくスマートフォンの影響により、自宅に固定のインターネット回線を保有する世帯が減少してきていることによるものだと推察できます。
そして、このトレンドがこのまま続いていくとすれば、フレッツ回線でのIPv6普及率が上昇したとしても、スマートフォンユーザーも含めたインターネットユーザー全体の中ではやはりマイノリティとしての扱いになる恐れもあります。
スマートフォンが、携帯電話のネットワークや街の公衆無線LANなどで、普通にIPv6で通信できるようになることが、本当の意味で「IPv6が来た状態」と言えるのだと思います。