モバイルWANルーターでのNW構築とトラブル
tech_team インターネットの技術JPNICでは、全国各地域のオペレーター様と共催により、年に数回IPv6ハンズオンセミナーを開催しております。
ルーターやサーバーを参加者の方に操作いただいて、IPv6の利用を体験いただくハンズオンセミナーとなっており、その動作環境はJPNICのオフィス内に設置された物理サーバーに作成された仮想サーバーです。JPNICオフィスと遠隔地とのVPN (Virtual Private Network)を利用した接続により、ネットワークを提供します。
IPsecとEtherIPにより、JPNIC内に構築されたハンズオンネットワークを現地会場まで拡張する構成となっているのですが、会場で利用可能なネットワークによっては、VPNを経由して通信を確立できないことがありました。
問題発生時の対処のため、昨年度より、モバイル回線をWANとして利用できるルーターを用意することにしました。これにより、モバイル回線が利用できる場所であればどこでも、現地ネットワークを提供することが期待できます。
装置には、格安SIMと呼ばれる仮想移動体通信事業者(MVNO; Mobile Virtual Network Operator)各社提供のSIMを利用できるものを選定しました。そして、実際に2017年7月に広島でセミナーを開催した際に、モバイルWAN回線を利用してセミナーを実施しました。12:00から13:00の間、急激に品質が低下する課題を確認しましたが、そのほかは問題なく会場ネットワークの提供をすることができました。
しかしその後、2018年3月に島根県松江でセミナーを開催させていただいた際、トラブルを経験してしまいました。同じモバイル回線の利用を試みたのですが、どうしてもVPNを経由しての通信ができなくなってしまっていました。ハンズオンは、内容を一部修正する必要などがあるため、VPNの利用ができることが望ましいのですが、最終手段としてVPNがなくても利用可能な代替手段があるため、問題なく開催できました。しかし、担当者としては、モバイルWAN構成が予備として機能しなかったことが課題となりました。
事後の動作確認で、フレッツ回線でNAT (Network Address Translation)を利用した環境ではやはり動作に問題は無いことから、モバイル側の何らかの仕様変更が原因だろうと判断し、試験用のSIMを他社より借用して試験を行いました。結果、新たなSIMでは問題なくVPN接続ができ、既存のSIMでは利用しようとしている構成に関係する、何らかの問題があることがわかりました。
新しいSIMでは、端末にグローバルIPが割り当てられましたが、一方、問題の発生したSIMでは、ISP Shared Address(100.64.0.0/10)が端末のアドレスとして割り当てられており、キャリアグレードNAT (CGN)に類する何らかの装置が導入されていることが想像されました。確認したところ、昨年の利用できていた時点でも既にCGNが利用されていたようなので、これが直接の原因ではないかもしれません。しかしながら、VPNを利用する構成の場合は、NATの有無やその動作、またアクセス制限の有無によって利用可否が変わってしまうことがあるため、利用前の動作確認が必要と感じます。
前述のようなトラブルはありましたが、ネットワークの携帯性やサービス提供の安価さなど、格安SIMを利用したネットワーク構成にはメリットがあると考えられます。特にJPNICでは、ハンズオンのほか遠隔地で開催するイベントで配信などを行う場合もあり、自前で予備回線を用意できれば安心感が違ってきます。
格安SIMを選定する際には、法人契約の可否、サービスプランの比較に加え、若干指針に頭を悩ませる移動体通信事業者(Mobile Network Operator; MNO)をどうするべきかなどの問題があります。さらに、冗長性を担保しようと複数回線を用意しようとすると、MNOがどの会社から選択できるか、契約するMVNOのほかに仮想移動体サービス提供者(Mobile Virtual Network Enabler; MVNE)として協力されている事業者がいるかどうか、そしてMVNEを含めて考えた時、実態として冗長になるかどうかなども確認する必要があり、選定業者をリストアップするだけでもなかなか大変な作業になります。
提供されているサービスとしても、固定IPアドレスサービスがあるかどうか、事前の貸し出しが可能かどうか、利用しようとする装置で動作確認が済んでいるか、またIPv6が提供されているかなども比較要素としてあるかもしれません。
個人の利用以外では、IoTデバイス向けのサービスとしてデータSIMの利用を薦める広告を見ることがありますが、将来起こり得るISDN回線の巻き取りなど、より広く利用を検討する場合が出てくるかもしれません。
本格的な調査は必要性が出てから確認することになるかもしれませんが、お時間のある際に回線サービスの選択肢として、動向をウォッチしてみるのはいかがでしょうか。