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.amazon gTLD問題の状況

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7年間にわたり続いている、.amazon gTLD申請に関する米国発祥のオンライン小売企業Amazon.com, Inc.とアマゾン協力条約機構(ACTO/OCTA)[1]側との係争について紐解いてみたいと思います。

.amazon gTLDは2012年にICANNが募集を行った、いわゆる新gTLDの申請の一つです。国および都市名gTLDの申請の場合は、当該自治体による支持もしくは反対しない旨の表明が必要でした。しかし、.amazonについては新gTLDの審査基準を記載した「新gTLD申請者ガイドブック[2]」に該当する明確な基準はなく、後付けで議論が進んだのが実情といえるでしょう。

類似の、かつ対照的な例では、.patagoniaを米国のアウトドア用品を販売する企業が申請したもののGAC早期警告が出され、アルゼンチン政府が反対を表明し、ICANN46北京会合のGAC助言にて申請審査を進めないとなった後、申請者が申請を取り下げています。

仮に世界的な多国籍企業が「Edo」というブランド名だったとして、TLDを取ろうとしたら日本はどう対応したでしょうか。

以下、Amazon EU S.à r.l.[3]ルクセンブルクに設立されたAmazon.com, Inc.の欧州子会社。以下アマゾン社)による最新の提案をICANN理事会が2019年5月15日に承認した決議[4]に記載された、時系列順の経緯を順に追ってみます。

2012年

gTLD募集期間中に、アマゾン社が「.amazon」(ドットアマゾン)および他にAmazonに相当する国際化トップレベルドメイン名(TLD)である、「.アマゾン」「.亚马逊」(Amazonの簡体字中国語表記)の計3つを申請(これら3申請を合わせて以降「.amazon申請」とします)しました。これらの.amazon申請はICANNの政府諮問委員会(GAC)早期警告[5]の対象となりました[6]

2013年

3月に独立異議申立者(Independent Objector)が.amazon申請の各々に対しコミュニティからの異議申立[7]を行いましたが、2014年1月にアマゾン社が勝訴しました。

7月に開催されたICANN47ダーバン会議で出されたGACダーバン声明において、.amazon申請はGAC助言の対象となり、助言では同申請を進めるべきではないと記載されました。

2014年

ICANN理事会[8](以下理事会)は5月に.amazon申請を進めないことをICANN事務局(以下事務局)に指示するという内容のGACダーバン声明中の勧告を受け入れました[9]

2015年

10月にアマゾン社は加盟国に対して提案(内容は非公開と思われます)を行いましたが、ACTO側に却下されました。

2016年

3月にアマゾン社が理事会を相手取り独立審査プロセス(IRP)[10]を申請しました[11]

2017年

7月にアマゾン社がIRPで勝訴。その裁定[12]では、理事会に対しアマゾン社の申請を迅速に再評価するよう求め、アマゾン社の申請を却下する場合は根拠が十分ありかつ能力に基づいた公共政策上の理由があるかどうかに関する、客観的で独立した判断を下すよう求めました。

10月に理事会はGACに対し、.amazon申請に関するGAC助言に関して追加の情報提供を求めました。その直後のGACアブダビ声明では、理事会はTLDとしての.amazonの利用が許される、双方が受諾可能な解決策に至ることができるよう、アマゾン社とACTO加盟国間での交渉促進を継続すること、との助言がなされています。なお、アブダビ会議の際には、アマゾン社から日本政府に事前のバイ会談[13]申し入れがあり、.amazon委任に反対している諸国との合意方策について議論されたとのことです[14]

2018年

2月にICANN理事会はアブダビ声明中のGAC助言を受け入れました。同月アマゾン社はアップデートされた提案(内容は非公開と思われます)を送付しました。

9月5日にはACTO加盟国が、アマゾン川流域諸国は.amazon TLDの委任に関して本提案がACTO加盟国の権利を保護するための適切な土台に基づいていない、との声明を発しました。同月16日にはICANN理事会が事務総長に対し、.amazon申請に含まれる文字列の委任のための解決策の策定を支援するよう指示しました。これにはアマゾン川流域諸国の文化遺産への支援を行うための.amazonドメイン名空間の共有も含みます。加えて、理事会が.amazon関連申請に記載されている文字列の委任に関する決定を行えるよう、.amazon申請に関する提案を行うよう求めました。

10月25日には理事会は.amazon申請に関する「続行しない」となっている状態の変更および申請処理の再開を事務総長に指示しました。理事会はまた、事務総長に対し.amazon申請の状況を定期的に理事会に報告するよう求めました。

理事会は2018年2月から10月まで、ACTO加盟国との何回もの議論を推進し、10月25日の決議に引き続きACTO加盟国との協議を何度も設定を試み、実際日程も設定されましたが、ACTO側の都合によりキャンセルされるなどして[15]実施されませんでした。

ACTO側はICANN63バルセロナ会合後、合意が十分でなかったとして手続きの停止の維持を求めました。11月5日に、ACTOは前述の10月25日の理事会決議に対し、再検討要求18-10を提起しました。

理事会説明責任機構委員会(Board Accountability Mechanisms Committee, BAMC)が再検討要求18-10を注意深く検討した結果、12月21日に同要求は却下(=理事会決議を支持)されました[16]

2019年

2019年2月21日[17]にブラジル政府からICANN理事会及びGAC議長宛の、および3月5日[18]の、エクアドル政府からGAC宛のレターにて、アマゾン社との解決策に至るために追加の時間を要求しました。前者のレターでは、ICANN65での.amazon申請に関する最終決定を延期するよう求めており、少なくともその時点ではそのようなスケジュールになっていたことが推察されます。これにより理事会は、.amazon申請によって代表される文字列の委任を進めるかどうかについての決定を行う前に追加の時間を得たと認識しました。

2019年3月10日に、理事会は両者が次の4週間で、.amazon申請に関する相互に受け入れ可能な解決策に向けて、誠意を持って取り組む最後の機会をACTOとアマゾン社の両者に提供する決議を行いました[19]。同時に、もし相互に受け入れ可能な解決策に到達した場合には、2019年4月7日までに理事会に知らせるよう要請しました。さらに、双方が合意に達した場合には期限を4週間延長できることになっていました。ただし、延長に関する双方の合意がない場合は、理事会はアマゾン社に対し4月21日までに提案を提出するよう求めました。

ICANN64神戸会合後4週間以内にアマゾン社とACTO諸国間の協議は完了しませんでした。そのため4月17日付でアマゾン社は修正した提案を公開しました[20]。23日付で理事会へ送付されたレター[21]の中でアマゾン社は、ACTOが提出した公益に関する誓約(Public Interest Commitment, PIC)は受け入れられないとしています。

ここで、アマゾン社側とACTO側の主張を比較したいと思います。

 

アマゾン社側の主張

ACTO側の主張(とアマゾン社が主張するもの)

ACTO側の主張[22]

a. ドメイン名登録業務の運営主体

アマゾン社(のみ)が実施

ACTOおよび加盟国が拒否権および全般の監督を通じて関与

レジストリ運営者はACTO加盟国がガバナンスおよび管理、 .amazon TLDの利用に関与できるよう確約。ただし、c. で定めているリストに記載されたセカンドレベルドメイン名は完全にACTOまたはACTO加盟国により管理されるとなっている。

b. ACTO加盟国によるドメイン名登録への拒否権および全般の監督

アマゾン地域住民の文化と遺産を守るという目標に整合せず、かつレジストリ契約のSpecification 13の下で.amazon申請対象TLDを運営したいため反対

加盟国3ヶ国による3つの提案に共通して盛り込まれている

実施を求めている

c. ACTO加盟国が利用できるセカンドレベルドメイン名

アマゾン川流域の文化と遺産において十分に認識された重要性を持つものをACTOおよび各加盟国につき各9ドメイン名まで

加盟国への商用利用目的での無制限の数のドメイン名の付与、および第三者への利用許可(一部加盟国が主張)

ACTOと加盟国に対しアマゾン川流域の文化と自然遺産において国際的に、または十分に認識された重要性を持つ主要なもの、および関連する2文字および3文字コードに関するドメイン名のリスト作成を行い、リストは運営委員会が承認

d. 利用を禁止するドメイン名の定義

不明

不明

アマゾン川流域の文化と遺産において国際的に、または十分に認識された重要性を持つ主要なもの、および混同や誤解を招く単語をドメイン名として使わないことを誓約

e. 予約ドメイン名の数

各.amazon TLDにつき1500までのアマゾン川流域の文化と遺産において十分に認識された重要性を持つもの

 

アマゾン川流域の文化と自然遺産に対主要、国際的またはよく認識された重要性を持つ4500までのドメイン名、およびその英語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語へ翻訳したものを合わせて永続的に予約

f. アマゾン社がPICに基づきドメイン名として提供できない文字列の、ACTO側への一般名詞ドメイン名利用の許可

当該文字列に関連する数十万の製品とサービスを扱っているため、および自社のオンライン小売店で一般名詞を使うことができるようにしておく必要があるため反対

一部加盟国が主張

公益において誤解や混同が起きる場合にあり得る(5月7日のレター[23]による)

g. ACTO加盟国国名をドメイン名として加盟国に割り当て

反対

賛成

不明

h. 運営委員会の位置付け

PIC外でアマゾン社とACTO間の覚書(MoU)に基づき設立

PICの一部

レジストリ運営者は、レジストリ運営者とACTO向けに運営委員会を設置し.amazon TLDのガバナンスと利用に関する共同責任を果たす。

i. 紛争処理

ICANNの公益に関する誓約の紛争処理手続き(PICDRP)に基づく

ICANN外の第三者による紛争処理機関を設立

PICはICANNによりまたPICDRPを通じて執行可能とする。紛争解決はUNESCO世界遺産センター、もしくはACTO加盟国およびアマゾン社が相互に合意可能な第三者が行う。

j. 登録ドメイン名のACTO加盟国への事前通告

事業遂行上およびブランド戦略上自由度と厳格な秘密保持が必要なため、反対

一部加盟国が主張

不明

k. ACTO加盟国への商用利用目的での無制限の数のドメイン名の付与、および第三者への利用許可

反対

一部加盟国が主張

そのような主張はしていない(5月7日のレター[24]による)

l. ドメイン名登録者がレジストラおよびネームサーバーを自由に選べる権利

Specification 13はレジストリ/ブランド保持者がTLDの利用とドメイン名登録を完全に管理するとなっているため、および国際的な商標法およびAmazonの内部セキュリティポリシーのため付与に反対

一部加盟国が主張

不明

これに対し、5月7日にブラジル政府よりICANN理事会議長に宛てたレター[25]では、ICANN理事会側に誤解を招いたかもしれないので訂正したい旨、以下の点が記載されています。

  1. 運営委員会が扱う課題は限定された数の課題および充分に定義された用語に関するものに限定され、全般的な監督や拒否権は持たない。
  2. 運営委員会はアマゾン社側とACTO側とで等しく代表し、職務執行はコンセンサスに基づいてのみ行う(多数決を取ったりACTO側の投票権の比重を増すことは行わない)。
  3. .amazonに関連するドメイン名の文字列はアマゾン地域の自然および文化的遺産およびその人々を保護するためのもので、民間の商業目的のための電子商取引のためではない。
  4. 保護されるべき用語の定義は公益において誤解や混同が起きる場合にのみ拡張される。例えば“ecotourism.amazon”、“hotels.amazon”、“acai.amazon”、アマゾン川流域の都市名、河川名または現地の料理などである。

5月15日には理事会が次の内容の決議を採択しました[26]

  • アマゾン社が4月17日に提出した提案を受領可能と認め、事務総長に.amazon申請の処理を進めることを指示
  • アマゾン社が4月17日に提出したPIC=提案を30日間意見募集にかけること

筆者が6月7日現在認識する限りでは、後者の意見募集はまだ開始されていません。

【2019年6月21日追記】ICANN事務総長からACTO宛のレターによれば、確定ではないが7月上旬には意見募集開始を見込んでいるそうです。

その後、5月26日付でアンデス大統領諮問会議による特別声明がボリビア、コロンビア、エクアドル、ペルー大統領の連名で公開[27]され、6月4日付でICANN理事長宛てに送付されました[28]。内容は5月15日のICANN理事会決定に対して、ACTO加盟国の反対にもかかわらず、およびGACの勧告に反したとして、懸念を表明するものになっています。なぜかブラジルが入っておらず、ACTOではない組織名での声明となった理由は不明です。

今後どうなるかについては予断を許しませんが、ACTO側も黙っているとは思い難いですので、アマゾン社のPIC提案に対しコメントを行うのみならず、再度ICANN理事会の決定に対し再検討要求または独立審査プロセスを申し立てるのでしょうか。ICANN側もいつ最終的な決着をつけられるのか、興味深いところです。


[1] 正式名称は英: Amazon Cooperation Treaty Organization / 西: Organización del Tratado de Cooperación Amazónica / 葡: Organização do Tratado de Cooperação Amazônica。アマゾン川流域の8つの加盟国(ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム、ベネズエラ)からなる、持続的開発および社会的包摂を促進するためのアマゾン協力条約(Amazon Cooperation Treaty, ACT)に基づく政府間組織 http://www.otca-oficial.info/

[2] 新gTLD申請者ガイドブックとは https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/agb.html

[3] Société à responsabilité limitée、日本法の旧有限会社に相当、ルクセンブルグ会社法で定められた企業形態。

[4] Consideration of Amazon Corporation’s Proposal on ACTO Member States Continuing Concerns re: .AMAZON New gTLD Application, Approved Board Resolutions | Special Meeting of the ICANN Board, 15 May 2019 https://www.icann.org/resources/board-material/resolutions-2019-05-15-en#1.c

[5] GAC Early Warning、2012年の新gTLD募集締め切り後に導入された、正式な異議申立ではなくある申請が1ヶ国もしくはそれ以上の政府にとって問題がある可能性がある場合に発せられる警告です。

[6] GACメンバーであるブラジルおよびペルーの2ヶ国から提起されています。https://gac.icann.org/download/attachments/27131927/Amazon-BR-PE-58086.pdf?version=1&modificationDate=1353452622000&api=v2

[7] 新gTLD申請の最新状況について(ドメイン名を中心としたインターネットポリシーレポート) 2012年10月号https://www.nic.ad.jp/ja/in-policy/policy-report-201210.pdf

[8] 厳密には、2012年4月から2015年10月までは利害関係者を除いた理事会内の「新gTLDプログラム委員会」が新gTLDに関する決議を理事会に代わって行いました。
新gTLDプログラム委員会の設立決議:https://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics/2012/20120423-01.html

同廃止決議:https://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics/2015/20151029-01.html

[9] 新gTLDプログラム委員会(2014年5月14日開催)決議概要>2. .AMAZON(および関連するIDN)に対するGAC勧告について https://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics/2014/20140522-01.html

[10] 独立審査パネルとありますが同じものを指します:独立審査パネル(Independent Review Panel; IRP)とは https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/irp.html

[11] Amazon EU S.à.r.l. v. ICANN (.AMAZON) https://www.icann.org/resources/pages/irp-amazon-v-icann-2016-03-04-en 申請から裁定まですべての関連資料を掲載しています。

[12] https://www.icann.org/en/system/files/files/irp-amazon-final-declaration-11jul17-en.pdf

[13] 二国間(bilateral)、二者間会談の意。

[14] ICANN政府諮問委員会(GAC)報告(スライド14)@第50回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20171205-ICANN/icann50-3-tsunoda.pdf

[15] 総務省内藤氏による、ICANN政府諮問委員会(GAC)報告@第53回ICANN報告会 https://www.nic.ad.jp/ja/materials/icann-report/20181206-ICANN/icann53-3-naito.pdf

[16] https://www.icann.org/resources/pages/reconsideration-18-10-acto-request-2018-11-29-en

[17] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/zaluar-to-icann-board-21feb19-en.pdf

[18] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/mena-to-ismail-05mar19-en.pdf

[19] ICANN通常理事会(2019年3月10日開催)決議概要 https://www.nic.ad.jp/ja/icann/topics/2019/20190424-02.html

[20] https://amazontld.moi/

[21] 23 Apr 2019 Letter from Brian Huseman to Cherine Chalaby [Published 25 April 2019] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/huseman-to-chalaby-23apr19-en.pdf

[22] 英訳:18 Apr 2019 Letter from Amb. Alexandra Moreira Lopez to Cherine Chalaby [Published 24 April 2019] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/moreira-to-chalaby-18apr19-en.pdf

[23] 7 May 2019 Letter from Achilles Zaluar to Cherine Chalaby [Published 10 May 2019] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/zaluar-to-chalaby-07may19-en.pdf

[24] Ibid./同上

[25] Ibid./同上

[26] https://www.icann.org/resources/board-material/resolutions-2019-05-15-en#1.c

[27] Declaración Especial del Consejo Presidencial Andino sobre Uso de Nuevas Tecnologías y el Dominio de Primer Nivel .amazon(スペイン語) http://www.comunidadandina.org/Prensa.aspx?id=11081&accion=detalle&cat=NP&title=declaracion-especial

[28] (上記声明の英訳)Letter from Arturo Jarama to Cherine Chalaby [Published 5 June 2019] https://www.icann.org/en/system/files/correspondence/jarama-to-chalaby-04jun19-en.pdf