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APNIC 58でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案のご紹介

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2024年8月30日(水)~9月6日(金)の日程で、APNIC 58カンファレンスが開催されます。

 

開催地はニュージーランド・ウェリントンです。会議への参加にはWebサイトからの参加登録が必要となりますので、参加を希望される方はご登録をお忘れなくお願いします。

APNICでは、ポリシーSIG (Special Interest Group)において、IPアドレス・AS番号の分配ポリシー(以下、ポリシー)に関する議論を行っています。平時はポリシーSIGのメーリングリストで議論や意見交換を行い、ポリシーの改定を行うための提案はメーリングリストで公開され、年2回開催されるAPNICカンファレンス期間中のオープンポリシーミーティング(OPM)でface to faceでの議論を行います。この議論を通じて、提案の改善、コンセンサスの形成へ向けたやりとりが行われます。

今回のオープンポリシーミーティングでは、継続議論1点、新規提案が3点の計4点の提案に関して議論が予定されています。

  1. prop-157: Temporary IPv4 Transfers(一時的なIPv4アドレス移転)
  2. prop-159: Reduction of minimum IPv6 allocation size form /32 to /36(IPv6の最小割り振りサイズを/32から/36へ変更)
  3. prop-160: Change IPv6 Initial assignment to /44 for Organizations Eligible for /23 IPv4(/23IPv4アドレス分配可能組織へのIPv6アドレス初期割り当てサイズを/44へ変更)
  4. prop-161: Using IPv6 for Internet of Things (IoT)(IoTへのIPv6アドレス使用)

以下で各ポリシーの概要や、議論のポイントについてご紹介します。

prop-157: Temporary IPv4 Transfers(一時的なIPv4アドレス移転)

前回APNIC57から継続議論となっている提案です。

IPアドレスの「リース」と呼ばれる、接続性のない組織へのIPv4アドレスの貸与を行っている組織が存在する問題について、IPアドレスレジストリの仕組みの中に「リース」を取り込んでしまうことで、レジストリの管理下に置こう(=水面下での違反行為を排除しよう)という提案です。

IPv4アドレス移転はその履歴をWebページ上で公開していますが、そこには「移転日」が記載されています。本提案で提案されている「一時的な移転」ではこれに加え「移転終了日」を設定することで有期限の移転を作ろうしています。前回提案では最大サイズ/22まで、終了の延長は30日前までにAPNICへの申請を行うことなどが挙げられていましたが、前回議論を経て削除されました。一方で、遵守事項として規定するもの(不正利用時の移転取消、IPv6アドレスの広報、RPKI/IRR/Geolocation/MANRSの実装・更新)は前回から引き続き残っています。

レジストリシステムの外で分配管理が行われ、不透明であることが問題視されてきた「リース」を取り込み、レジストリ管理下で行えるようにしようという考え方には一定の理解ができるものの、現行の移転制度下でも双方向の移転を行うことで同様の対応ができ、わざわざ新しい制度を作る必要性は薄く思われます。また、IPv6アドレスの広報を義務付けることは、一時移転そのものとは直接の関連性はありません。さらにMANRSはAPNICがコントロールするポリシーとは異なることなどから、どこまで監視・管理ができるかなど疑問が残されています。

提案者の意図するところに理解は示すものの、必要性を感じない、条件とするところに関連性がないことから、本提案をそのまま実装させることは難しいと思われます。RIPE NCCでは「一時的な移転」のような制度は存在するものの、このような遵守事項の定義などは行われていないと前回議論で情報共有されています。コンセンサスを目指すのであればRIPEのように条件設定はなし、あるいは最低限にする必要があるのではないかと思われます。

 

prop-159: Reduction of minimum IPv6 allocation size form /32 to /36(IPv6の最小割り振りサイズを/32から/36へ変更)

現在のポリシーでは、APNICおよびJPNICからIPv6アドレスの「割り振り」を受ける際には、最小で/32を割り振っています。メンバーシップ料金(JPNICではIPアドレス維持料)の計算はIPv4アドレスとIPv6アドレスそれぞれの保有量から計算し、高い方を採用とします。現在のIPv4アドレスの最大割り振りサイズ/23を保有している場合、IPv6アドレス/32を取得すると、計算上IPv6アドレスの方が高額となり、経済的負担が大きくなります。

  APNIC JPNIC
IPv4(/23)のみの場合 AUD1,546※2024年度の料金計算に基づく \71,500
IPv4(/23)+IPv6(/32)の場合 AUD2,025※2024年度の料金計算に基づく \92,950

IPv6アドレスの実装が経済的障壁で憚られてしまうことを防ぐため、IPv6アドレスの最小割り振りサイズをIPv4/23よりも安価となる/36までダウンサイズしようという提案です。

しかし、IPv6アドレスはその膨大な数から、節約性よりも経路集成を重要視してポリシーを作ってきました。その中で/36へダウンサイズしようというのは趣旨に沿っていません。そもそも経済的問題への解決アプローチはポリシーを変更するのではなく、料金制度側を変更するべきであると考えます。

メーリングリストでも同様の見解を示す方が多く、コンセンサスに至るのは難しいかと思われます。

 

prop-160: Change IPv6 Initial assignment to /44 for Organizations Eligible for /23 IPv4(/23 IPv4アドレス分配可能組織へのIPv6アドレス初期割り当てサイズを/44へ変更)

現在のポリシーではAPNICからIPアドレスの割り当てを受ける(PI(プロバイダ非依存)アドレスホルダーとなる)場合のIPv6アドレスの初期割り当てサイズは/48となっています。提案者は、現行の/48分のIPv6アドレスでは/23以上のIPv4アドレスを必要とするような組織においては効率的なサブネット構築は難しいとし、これがIPv6実装の障壁となっていると主張しています。この解消のため、以下のように変更しようという提案です。

1.      /24のIPv4アドレス割り当てを受けることが可能ものは/48のIPv6アドレス割り当ての資格を持つ。

2.      /23のIPv4アドレス割り当てを受けることが可能なものは/44のIPv6アドレス割り当ての資格を持つ。

IPv6アドレススペースは一般的に/56をベースに考えられていることを鑑みると、/48は/56*256分のスペースがあり、必要十分な量があると考えられます。また、IPv4アドレスを基準にIPv6アドレスのサイズを規定しようとしていますが、スケールが異なるため尺度とするのは不適当であるように考えられます。

コンセンサスを得るためには、/48では多くの人が不足していること、/44というサイズが適当であるということを客観的に証明することが必要になると思われます。

 

prop-161: Using IPv6 for Internet of Things (IoT)(IoTへのIPv6アドレス使用)

現在のポリシーでは、IPアドレスはインターネットに接続する電子機器に対しての割り当てを想定していますが、昨今のIoT分野では非電子機器を含むIPv6アドレスの割り当てを行い、識別子として活用しようという動きが見られます。現行のポリシーではこれに対応する規定が存在しないため、本提案で非電子機器を含むIoTオブジェクトに対するIPv6割り当てを規定しようというのが本提案です。

エンドポイントが電子機器であればインターネットとの通信・接続性が考えられるものの、非電子機器にIPv6を割り当てることでそこにインターネット通信・接続性と呼べるものは起こり得るのか、他の識別子を利用した方が良いのではないか、とメーリングリストでも多様な意見が出ている段階です。そもそもIPアドレスの管理におけるポリシーを議論する場の前に、IETFやその他コミュニティなど、技術・標準化のフィールドで議論が行われるべきではないのかといった考えも示されています。

本提案に関しては、コミュニティの理解を深めるべく9/4(水)にAPNIC58内でInternet of Things(IoT)BoFの開催が発表されています。BoFも含めて動向を注視していきたいと思います。

 


以上、4件のポリシー提案をご紹介してまいりました。prop-161はIoT分野という、今まであまり想定してこなかったフィールドの関連する提案になりますので注目していきたいと思います。その他のポリシー含め、気になるものはぜひAPNICのWebページも確認する、カンファレンスに実際に参加するなどして追ってみてください。カンファレンスでの議論結果に関しては、JPNICのメールマガジン-JPNIC News & Views-でご報告を予定しています。みなさまと現地会場でお会いできますことを楽しみにしております。

 

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