JPNIC Blog JPNIC

IETF国際動向 – 第120回IETFより [前編]

tech_team 

今週末の2024年11月2日(土)から、アイルランド・ダブリンで第121回IETFミーティングが開催されます。そこで本稿では、2024年7月にカナダのバンクーバーで開催された第120回IETFミーティング(IETF 120)の話題を中心に、IETFにおける国際動向をお届けします。IETF 120が開催されて以降、関連するブログ記事が出ていますので、それらも参照しながら話題を紹介していきます。

■ 概要

IETF 120は、カナダ・バンクーバーで2024年7月20日(土)から7月26日(金)までの期間、ハイブリッド形式で開催されました。参加登録者数は1,535名で、前回の第119回IETF (ブリスベン)の1,459名から増加しています。ただ、事後アンケートの結果(*1)によると、旅費が高すぎるという回答が47.17%、滞在費が高すぎるという回答が33.96%で、前回のプラハでは両方4%代であったことを踏まえると、費用の要素がなければ参加者はもっと多かった可能性があります。

内訳として、リモートからの参加者は中国からの参加者が17.5%と、アメリカからの参加者の30.5%に次いで多く、中国からの参加者が増加傾向にあるようです。

(*1) IETF 120 post-meeting survey

■ WGチェアの動向

全体会議(プレナリー)では、IETFチェアから、WGチェアの最近の傾向について統計的な分析の話がありました(*2)。現在のWGチェアのうち、59%が前年のチェア経験がない人で構成されています。また46%が4年以下の在任期間となっている一方、在任期間が12年という人もいる状況です。

日本からの参加者でWGチェアをされている方は4名で(*3)、そのうちの2名は前回のIETF 119のタイミングで新任となったところからも近年の変化が感じられます。

(*2) IETF 120 Vancouver Plenary Session

(*3) IETF国際動向 – 第119回IETFより [前編]

■ IABワークショップ

IAB(インターネット・アーキテクチャ・ボード)チェアからは、「AI-CONTROLワークショップ」と「次世代ネットワーク管理の運用に関するワークショップ(NEMOPS)」の二つのワークショップが紹介されました。

– AI-CONTROLワークショップ

機械学習の機能を使ったWebのクローラー(Webページの情報を大規模に読み込んで処理し、検索結果の表示などに利用するアクセスプログラム)に対してWebサイト提供側が提供コンテンツを指示する「robots.txt」を使って、適切にデータ収集をコントロールする話題を発端としたものです。2024年9月に開催されました。

IAB Workshop on AI-CONTROL (aicontrolws)

– NEMOPSワークショップ

2002年6月に行われた”ネットワーク管理ワークショップ”から22年経ち、当初のワークショップから何が達成され、どのような提言や要求が変化したか、あるいはまだ取り組む必要があるかを評価する時期にきているとされ、下記について扱うワークショップを2024年12月に開催するとのことです。

– 2002年のワークショップの成果と結果(現在の導入状況、技術の現状)
– 技術が広く導入されることを妨げる運用上の障壁(制限、ハードル)
– 将来のネットワーク管理運用のための新たな要件
– IETFに対する行動計画と提言を策定

IAB workshop on the Next Era of Network Management Operations (nemopsws)

■ ANRW(Applied Networking Research Workshop)

IETF 120ではACM(Association for Computing Machinery)との協力で行われるANRW 2024が開催されました。IETFで扱われている技術や運用に資するテーマを扱う学術論文を募集して、採録されるとIETFにおける発表枠の提供や旅費支援が行われます。一部を紹介します。

– HTTP/3の拡張可能な優先順位付けスキーム(EPS)の実装状況と影響

ベルギー・ハッセルト大学のジョリス・ハーボッツ氏らによるこの研究では、HTTP/3で提案された優先順位付けスキームの現実のWebブラウザやサーバにおける実装状況とその影響について述べられました。

– ネットワーク計測における観測効果

イスラエル工科大学のタル・ミツラヒ氏らが、ネットワーク測定におけるオーバーヘッドやトレードオフについての分析を発表しました。この研究では、計測結果の不確かさや影響、観測ファクタといった要素が議論されています。

– Anycast IPネットワークにおけるロケーション・アウェア広告の調査

英国のランカスター大学、サヴァス・カスタナキス氏らは、anycastネットワークにおける遅延の原因とその影響についての調査を行い、ネットワークパフォーマンス改善のための提案を行いました。

 

その他、ANRW 2024のプログラムは下記で閲覧できます。

ANRW’24 Program

■ BoF(Birds of a Feather)

IETF 120では、五つのBoFセッションが開催されました。

IETF-Wide “Dispatch” Session

IETF全体での”ディスパッチ”セッションでは、IANAレジストリポリシーに関する専門家レビューの導入が提案されました。また、NomCom(ノミネーティングコミッティー)のジェンダー多様性の向上に関する議論も行われ、より多様な参加者が選出されるような制度改善の議論が行われました。

Secure Communication of Network Properties

このセッションでは、QUICプロトコルを利用したセキュアな通信ネットワークプロパティに関する新しいプロトコルが議論され、ストリーミングビデオのパフォーマンス向上に向けた技術的な提案が行われました。

Digital Emblems

インターネットに関する活動主体を示すもので、国際的に通用する”デジタル・エンブレム”の提案。例として赤十字の旗印があり、MLで継続議論が行われることになりました。

Getting Ready for Energy-Efficient Networking

エネルギー効率に関する議論が行われました。エネルギー使用量を測定・報告・最適化するための、デバイス、ネットワークレベルでのデータモデル(YANGを使ったモデル)や、情報を集約するフレームワークの開発、ユースケース等について取り上げられました。

Network Attestation for Secure Routing

このセッションでは、NASR(ネットワークアテステーションに基づくセキュアなルーティング)に関する課題が議論され、特にネットワーク経路の検証と証明に関する新しいアプローチが紹介されました。

■ IETF 120に関するブログ等

最後にIETF 120に関連するブログ記事等を簡単に紹介します。

 

この記事を評価してください

この記事は役に立ちましたか?
記事の改善点等がございましたら自由にご記入ください。

このフォームをご利用した場合、ご連絡先の記入がないと、 回答を差し上げられません。 回答が必要な場合は、 お問い合わせ先 をご利用ください。