【開催レポート】APNG Camp Japan 2025 ― 飯塚から世界に「信頼とは何か」を問う、運営メンバーが語る国際次世代キャンプの挑戦 ―
event_team 他組織のイベント2025年3月13日から16日にかけて、福岡県飯塚市の九州工業大学にて、アジア太平洋地域の若者が集う国際次世代キャンプ「APNG Camp 2025(第17回 Asia Pacific Next Generation Camp) 」が開催されました。日本での開催ということで、JPNICでも協賛するとともに、役職員が講演者・参加者として参加し、若手フェロー2名の派遣も行いました。過去の京都および広島に続いての日本開催となった今回は、24カ国/地域から約150名が参加し、技術・文化・社会の交差点に立つテーマ「What Can We Trust Today?」をめぐり、活発な議論と交流が行われました。
東京でも京都でもなく、あえて「飯塚」から世界へ挑む形となったこの試みは、単なるイベントを超え、多くの若者たちに大きな刺激と学びを与える場となりました。その熱量は、つい先だって公開された300ページを超える開催報告書でも確認することができます(報告書必読です 🙂 )。
今回は、その舞台裏で活躍したコアの運営メンバーたちに集まっていただき、APNG Camp Japan 2025実現までの経緯、運営の苦労、そして手応えについて語っていただきました。
- Md. Mahfuzus Salam Khan氏(第17回 APNG Camp 2025実行委員会委員長)
- 片岡友香氏(第17回 APNG Camp 2025実行委員会共同委員長)
- 正田英樹氏(第17回 APNG Camp 2025ローカル運営委員長、株式会社chaintope 代表取締役 CEO)
APNG Camp とは?
アジア太平洋地域の若手世代が国際的な視野と協働スキルを育むことを目指す次世代リーダー育成プログラム。APNIC、AP*、 APAN、 DotAsiaなどの地域インターネット機関とも連携し、技術・社会課題をテーマに、多様な文化・背景を持つ参加者が議論と実践を行う。
APNG Camp Japan 2025概要
- 名称:第17回 Asia Pacific Next Generation Camp(APNG Camp 2025)
- 開催日程:2025年3月13日(木)~16日(日)(4日間)
- 開催場所:九州工業大学 飯塚キャンパス(福岡県飯塚市)
- 主催:APNG Camp 2025 実行委員会
- 共催:九州工業大学
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参加者数:約150名(24カ国/地域からの大学生・高校生・講演者・運営スタッフ含む)
- 内訳
- 海外からの応募者数:1,207名(100カ国/地域以上)
- 選抜された海外フェロー:38名
- 日本国内の大学生:35名(九州工業大学、立命館アジア太平洋大学など)
- 地元高校生:30名(嘉穂高校、飯塚高校、近畿大学附属高校)
- 内訳
- テーマ:What Can We Trust Today? ~AI、ブロックチェーン、Web3を活用した信頼の醸成~
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プログラム:
Day 0(3月13日) • 登録・オリエンテーション:参加者の受付とキャンプの概要説明
• アイスブレイクセッション:参加者同士の交流を深める活動
• グループワークセッション1:チーム編成と初回のディスカッションDay 1(3月14日) • 基調講演:江崎浩教授(東京大学)による基調講演「カーボンニュートラルを実現するデジタルインフラ」
• グループワークセッション2:サブテーマに基づくディスカッションDay 2(3月15日) • グループワークセッション3:ディスカッションの深化とプレゼンテーション準備
• ウェルカムパーティー:麻生本家にて開催され、地域の関係者とも交流Day 3(3月16日) • 最終プレゼンテーション:各チームによる成果発表(5分間のショートプレゼンとポスター展示)
• 表彰式:優秀なチームに対する賞の授与
きっかけは「日本で、飯塚で開催しよう!」発言から

── まずはAPNG Campを日本で開催するに至った経緯を教えてください。
正田:
2023年12月に、APNG およびAPNG Camp アドバイザーの松本敏文さん(元JPNIC副理事長)から突然「2024年2月のバンコクでAPNG Campがある。次は日本でやってほしい」と相談されました。その場所が「飯塚」であると。正直「本当にやれるのか」と不安でしたね。APNG Campは過去にタイや韓国などで開催されていて、レベルも非常に高い。地方大学で受け入れられるのかと。東京や京都のような有名大学がある都市でないと難しいと思いましたね。
── 実際に2024年2月のバンコク大会も視察されたそうですね。
正田:
はい。九州工業大学の学生2人と参加しましたが、彼らは完全に打ちのめされて帰ってきました。自分の英語力の無力さ、議論のテンポにまったくついていけないことを痛感して。だからこそ逆に、「挑戦する価値がある」と思うようになりましたね。
テーマは「What Can We Trust Today?」 ― 技術と社会の交差点で
── 「信頼を問う」、今回のテーマはどう決まったのでしょうか?

Kahn:
AI、Web3、ブロックチェーンなど、次々に登場する新しい技術を受けて、「何を、誰を信頼するのか?」という問いがバンコクでも議論されていました。APNG Campの実行委員会の中でも、社会課題やフェイクニュースなどとの関連も含めて議論を重ねて、自然につながりました。
正田:
私がブロックチェーンを扱っている立場からも、「信頼」というテーマは非常に親和性が高かったです。Web3の観点も取り入れてほしいという希望も出しました。
運営の裏側 ― 想像を超える準備と構成
── 実際のプログラムはどのように構成されたのですか?
片岡:
3日間にわたり、基調講演、グループワーク、地元飯塚のローカルコミュニティ訪問(エクスカーション)を組み合わせました。せっかくの開催なので、多くの人に有意義になるようさまざまな観点を考慮した結果、プログラム全体が非常にタイトで、運営側も「これは詰め込みすぎかもしれない」と感じるほどでした。

── プログラム設計で工夫された点は?
片岡:
セッション設計には特に力を入れました。招待講演は、専門家や技術者だけでなく、言語学者や高校生など多様な視点を盛り込むようにしました。高校生が発表しやすい雰囲気づくりのため、発表前にワークショップも開催しました。高校生が自分の言葉で「信頼」について向き合って、発表してくれたことが印象的でしたね。私も若い方から学んだ、贈り物をもらった体験となりました。
— 運営面でのご苦労はありましたか?
正田:
「大変でした」の一言ですね。最終的に150人以上が参加し、運営メンバーは数名。ほぼボランティアで支えました。開催中に気を失ったことも。そして直後は体調を崩して寝込みました(笑)。人生経験の中で、圧倒的に大変なイベントでした。
Kahn:
ビザ取得や移動手段など、飯塚にたどり着くまでに苦労した海外参加者もおり、サポートも課題でしたが、多くの方が自力で、しかも強い意志を持って参加してくれました。
フェローシップへの応募者はなんと1,200人超 ― 想定外の人気と選考の苦労
— 海外参加者は、フェローシップを勝ち取って参加していますよね。そういうところからレベルも熱量も高い人が参加されたのではないでしょうか?
Kahn:
そうですね。フェローシップの応募数はなんと1,200件以上。特に東南アジアや南アジアからの応募が多かったです。
— そんなに?選考するのも並大抵の苦労ではなかったのではないでしょうか?
片岡:
AIによるエントリーシートの1次スクリーニング(盗用チェック)を活用しつつ、最終的には実行委員会のメンバーが一つひとつ人力で選考しました。性別や国籍のバランスも配慮しましたね。
── 日本でのキャンプということで、来日経験のない方の支援も必要だったのではないですか?
片岡:
はい、そうです。言葉が通じない土地に来る不安、アクセスの難しさなどが課題でした。中には深夜に博多に着いて漫画喫茶に泊まる方も。
また、そうした来日に向けた移動の支援だけではなく、いきなりキャンプになじんでもらうのも大変なので、事前にZoomによるオンラインのオンボーディングでグループ間の交流を促進しつつ、会期中のグループワークをスムーズにできるようグループワークのやり方を説明したり、さまざまな工夫もしていました。その際に、Zoomに気軽につなげない国や地域の方もいたので、「最終的な合意形成はキャンプ中の議論を通して対面で行うこと」を念頭にオンボーディングには参加してもらい、ネットワークの格差による“置いてきぼり”を防ぐ配慮もしましたね。

日本の学生、海外フェローのリアクション
── やる気にあふれた海外フェローを前にして、日本の参加者の反応はどうでしたか?
正田:
それはもう、強烈なインパクトだったと思いますよ。いわゆるカルチャーショックですね。日本にいながら留学したのと同じような、ある意味人生観が変わるようなインパクトだったと思います。日本の学生が最初に「レベルが高すぎる」と逃げ出さないか不安でした。でも今回は「全員を同じホテルに宿泊させる」という工夫を入れました。これが功を奏して、学生たちは逃げずにやり切れましたし、そこでの交流も生まれて結果として大成功だったと思います。

片岡:
特にバンコクのキャンプにも参加した九州工業大学の学生2名は、前回のバンコクでの挫折を乗り越え、今回はリーダーシップを発揮して、賞を受賞するまでに成長しました。高校生の発表も、こちらの想像以上にテーマを自分ごととして捉えてくれて驚きました。
報告書づくりと今後への展望
── お話を聞くとそのスケールと熱量に圧倒されますが、それを実現する労力や資金面は課題だったとも伺いました
正田:
はい、本当にそうです。資金については企業版ふるさと納税でも資金を集める予定でしたが、行政の判断で白紙に。危機的な状況の中、最終的に九州工業大学と立命館アジア太平洋大学の補助金を活用することができて、なんとか開催にこぎつけました。
── 大変でしたね。でも振り返ってみて、それだけの手応えがあったように見えます
片岡:
短期間ながら、多くの若者が成長する様子を目の当たりにできたことが本当に大きな喜びですね。

正田:
正直、飯塚での開催も最初は「田舎すぎる」と思われるのではと心配でした。でも麻生泰会長からの温かいお招きで「麻生本邸でのウェルカムパーティー」を組み込んだことで特別感を出せました。麻生グループの方々にも炊き出しなど全面協力いただき、飯塚開催ならではの体験になったと思います。当初は不安だらけでしたが、運営側も参加者も、限界を超えてやり切ったと思います。今回の報告書も力を入れて作成しました。報告書作成にも費用や労力がかかりましたが、行政や次の開催地への“信頼の証”として残すべきだと考えました。
── そうですね、“信頼の証”を残すことは有益なことだと思います。次の展開にもつながりそうです
正田:
そうなんです。あれだけのことをなし遂げて、それで灯を絶やしてしまうのはもったいない。同じことはそうやすやすとはできませんが、福岡を拠点とした「ミニキャンプ」の開催を検討しています。定期的に若者の挑戦の場を設けて、次のジャカルタ開催に繋げたい。今回の経験は、私たち自身にとっても未体験ゾーンで、レベルアップの機会となりました。
(編集注:このページの画像はすべて、主催者の了承の元、開催報告書より利用させていただきました)