IETF国際動向 – 第123回IETFミーティング概要とBOFより –
tech_team IETF 他組織のイベント 標準化とアーキテクチャカナダ・モントリオールで開催予定の次回IETFミーティング(IETF 124)の早期割引は、2025年10月20日(月)までです。本稿では、第123回 IETFミーティング(IETF 123)の話題を中心にIETFにおける国際動向をお届けします。
■ 第123回IETFミーティング(IETF 123)について
スペインのマドリードで開催された第123回IETFミーティング(IETF 123)は、 2025年7月19日(土)から25日(金)の日程で行われました。IETFは近年、参加者が順調な増加傾向にあり、今回は1,737名(筆者集計)と多くの参加登録がありました。国・地域別では米国、ドイツ、中国、英国、インド、スペイン、日本などが上位となっており、全体で77の国や地域から参加登録があったと報告されています。
本稿では、IETF123の全体的な動向と、BOF (Birds of a Feather)での議論を中心に紹介します。

■ 主なトピック
IETF123の会期中には、ハッカソン、IEPG (Internet Engineering and Planning Group)、Quick Connections(新規参加者向けの人同士の繋がりを図るセッション)、Hot RFCライトニングトーク、全体会合(Plenary)などが、 前回同様の構成で行われました。
全体会合では、IAB (Internet Architecture Board)による二つのワークショップが紹介されました。一つは 「オンラインコンテンツへの年齢制限」に関するIAB/W3C合同ワークショップで、 2025年10月の開催が予定されています。参加者に必要とされるポジション・ペーパーの提出は2025年8月8日まで受け付けられ、多くのペーパーが集められています。
- IAB/W3C Workshop on Age-Based Restrictions on Content Access (agews) https://datatracker.ietf.org/group/agews/about/
ポジション・ペーパーが掲載されている資料ページ https://datatracker.ietf.org/group/agews/materials/
もう一つのワークショップは、IPアドレスによる位置情報の利用と改善に関するものです。IPアドレス地理位置情報データの公開、ディスカバリー、利用に関する現在のユースケースを理解することを目的としており、このための方法の変更や置き換え、もしくはIPアドレスに依存せずにユースケースの目的を満たすメカニズムの検討という、多面的な検討を行うワークショップです。 ポジション・ペーパーの締め切りは2025年10月3日締め切りです。
- IAB Workshop on IP Address Geolocation (ip-geo) (ipgeows) https://datatracker.ietf.org/group/ipgeows/about/

■ BOF
今回のIETF123では、以下の四つのBOFが開催されました。それぞれ簡単に紹介します。
expat – TLS Exported Attestation
IoTデバイス等の実行時コード等の完全性を検証するための、リモート・ アテステーション(Remote Attestation)をTLSの仕組みで拡張する提案の議論です。TLS 1.3ハンドシェイク後にRFC9261″Exported authenticator”(エクスポートされた認証子)を交換する仕組みに関する議論です。
- TLS Exported Attestation (expat) https://datatracker.ietf.org/doc/bofreq-fossati-tls-exported-attestation-expat/
Web Bot Auth (webbotauth)
AIサービスの学習のためのWebサイトに対するクローラーやフェッチャーが”正規のもの”であることを暗号技術で認証する方式についての議論が行われました。IPアドレスにもとづくフィルタリングの限界が指摘されていました。セッション中の参加者の反応は問題理解と解決を望む声が約70%、ドキュメント協力の意思が約40%でした。今後、IETFでWG設立に向けた動きが出てくる可能性があります。
- Web Bot Auth (webbotauth) https://datatracker.ietf.org/group/webbotauth/about/
fantel – Fast Notification for Traffic Engineering and Load Balancing
AIや大規模ネットワークにおけるパケットロス、リンク障害の迅速な通知を目的とした仕組みについて議論されました。通知先がアプリケーションであるため、E2E原則と齟齬が指摘されがちです。議論では「状態通知」であり「状態制御」ではない点が強調されていました。
- Fast Notification for Traffic Engineering and Load Balancing (fantel) https://datatracker.ietf.org/group/fantel/about/
ptth – Protocol for Transposed Transactions over HTTP
HTTP CONNECTを拡張し、HTTPを介してTCPやUDPセッションをプロキシーサーバにおいて逆(内向き)の方向でも扱えるようにする議論です。
- Protocol for Transposed Transactions over HTTP (ptth) https://datatracker.ietf.org/group/ptth/about/
■ ピックアップ
〇IETFハッカソンの盛況ぶり
今回、筆者もIETFハッカソンに現地参加しました。前回よりもチーム数が多く、会場が二つに分かれたり、成果発表の時間が1時間以上延長されたりして盛況でした。
〇耐量子暗号
米国NIST (米国標準技術研究所)で量子コンピューターに備えて、耐量子暗号のアルゴリズムの標準化が進んでいることを受け、IETFでも話題が増えています。WGにおいて扱われる、新しい技術標準の話題の追加を控えているとされるLAMPS WG(Limited Additional Mechanisms for PKIX and SMIME)でも、趣意書に記載されるようになってきました。
〇AIとIETF
LLM(大規模言語モデル)を使ったオンラインサービスが発展している中、IETFでも技術的に関連する議論が増えてきました。AI用のネットワークにおける輻輳が、AIの学習や応答に大きな影響を与えることや、学習のためのWebサイト等のクローリングに対する制御の話題が活発になってきています。
■ 今後のIETFミーティング予定
次回IETF 124以降のミーティングは、それぞれ下記の日程での開催が予定されています。
IETF 124:2025年11月1日~7日 カナダ・モントリオール
IETF 125:2026年3月14日~20日 中国・深圳
IETF 126:2026年7月18日~24日 オーストリア・ウィーン
IETF 127:2026年11月14日~20日 米国・サンフランシスコ
IETF 128:2027年3月6日~12日 (アジア)