WSIS+20 High-Level Event 2025報告
dom_gov_team インターネットガバナンスCC BY-NC-SA 4.0 ©ITU/Pierre Albouy https://flic.kr/p/2rfeUNu
WSIS+20 High-Level Eventは以前はWSISフォーラムと呼ばれていたイベントで、2024年と今回2025年についてはこのように呼ばれています。国際電気通信連合(ITU)とスイス政府が主催し、ITU、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連開発計画(UNDP)、国連貿易開発会議(UNCTAD)により準備され2025年7月7日(月)から11日(金)にかけて開催されました。昨年2024年に引き続きAI for Good Global Summitとの併催(同8日から11日)となりました。
WSISフォーラムは2003年のWSISジュネーブ会議の成果文書の一つである「行動計画[1]」に基づき、情報通信基盤の整備、能力開発、情報通信技術の利用における信頼とセキュリティの醸成を含む、11のWSISアクションライン(行動方針)実施に関する進捗状況を議論するため、毎年開催されてきた国際会議です。アクションライン※4の一覧は以下の通りです。
- C1. 開発のためのICT利活用における政府およびすべての関係者の役割
- C2. 情報インフラ:あらゆる人々が参加する情報社会のために不可欠な基盤
- C3. 情報・知識へのアクセス
- C4. 人材開発
- C5. ICTの利用における信頼性とセキュリティの確立
- C6. 環境整備
- C7. ICTアプリケーション:生活のすべての面における利益
- 電子政府
- e-ビジネス
- e-ラーニング
- e-ヘルス
- e-雇用
- e-環境
- e-農業
- e-サイエンス
- C8. 文化的多様性と独自性(アイデンティティ)、言語の多様性、ローカルコンテンツ
- C9. メディア
- C10. 情報社会の倫理的側面
- C11. 国際的および地域的協力
WSISアクションラインの実施状況については、 2006~2008年は個別のWSISアクションラインに関する会合が複数開催されました。 2009年以降は、 ITU他の国連機関が毎年開催するWSISフォーラムで実施状況がまとめて評価されています。
会議の規模
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本イベントには169ヶ国から11,000人以上が現地参加し、加えてオンライン参加者も大勢いた(数字不明)とのことです。参加者のジェンダーバランスは44%が女性で51%が男性でした。セッション数は約250で話者数は1000人以上となっています[2]。
トラック・セッション
本イベント/会議中のセッションは概ね次のように分類されます。本稿では、その中からアクションライン会議とWSIS+20評価関連セッションを取り上げます。
- 大臣級円卓会議(Ministerial Roundtable):日本政府からは今川拓郎総務審議官が出席されました。また、ITU電気通信標準化局長の尾上誠蔵氏も出席されたと思われます[3]。
- 規制省庁円卓会議(Regulators Roundtable)
- 国連各組織からの高位指導者による対話
- アクションライン会議
- 各アクションライン進行役が集まって行った会議
- WSIS+20評価関連セッション(特別トラック)
- ユース特別トラック
- Leaders TalkX:WSISアクションラインに沿ったトピックに関する対話
- WSIS Prize: 各アクションラインに関連する開発プロジェクトで応募のあった973件から選ばれた賞で、イベント初日に受賞者への授賞式(セッション135)および最優秀者への授賞式(同287)が行われました。
アクションライン会議の具体例
C1 グローバルサウスにおける有意義な接続性へのアプローチ
本セッション(215)では、アフリカとラテンアメリカの専門家が登壇し、デジタル格差を埋めるための課題と機会について議論しました。アフリカのユニバーサル・サービス基金(USF)の課題としては、透明性の欠如や実施の遅れが指摘され、一方で協力と柔軟性の成功例についても共有されました。
ラテンアメリカにおけるインクルージョン(包摂)の重要性については、アマゾンの先住民コミュニティにおける接続性の課題が共有され、 政策は現地のニーズに合わせて、意味のある参加と文化的な要素を考慮したものでなければならず、WSISの文書において、先住民コミュニティを脆弱な集団として明確に認識することが重要である旨強調されました。
最後に、デジタル格差が単なる接続性の問題ではないことが指摘されました。例えばスマートフォンを所有していても、データの高コストや一貫したアクセスの欠如が、教育や仕事探しなどの生産的な利用を妨げていたり、インターネット利用や金融包摂の割合が低かったりするなどです。全体を通じて、参加者は、デジタル格差の解決には、資金、政策、そして最も重要なインクルージョンが不可欠であるという点で一致しました。
C10 情報社会の倫理的側面:人工知能(AI)および集中する技術
本セッション(401)では、特にAI・神経技術・量子コンピューティングなど急速に進化・融合する技術において、倫理がデジタル変革の基盤的かつ横断的支柱でなければならないことが再認識されました。
パネリストは、高次元の倫理原則に根ざし、新たな技術を再構築することなく適応可能な、先見的かつ適応型のガバナンスモデルの必要性を強調し、特に人間の認知から得られるデータがよりアクセス可能かつ機微になる中、AIや神経技術の受容と展開における重要な推進力として、公共の信頼と責任あるイノベーションが重要視されました。次いで、法的・規制的枠組みと同様に、倫理的ガイダンスやステークホルダー参画といったソフトガバナンスの役割が不可欠であると述べられました。さらに、技術設計・規制・利用の全ライフサイクルにおいて社会的価値との整合性を確保するため、倫理が指針となるべきだと講演者および参加者は訴えました。
なお、20年間のアクションライン別のマイルストーン、挑戦、2025年以降の新たな傾向などについて、ITUのページに掲載されています。
WSIS+20関連セッション
WSIS+20レビューの今後の針路を描く:WSIS+20共同ファシリテーターとの対話
本セッション(539)は、国連総会による「世界情報社会サミット(WSIS)成果の20周年包括的レビュー(WSIS+20)」を主導する共同進行役と参加者との対話です。主な目的は、デジタル格差を埋め、情報社会の進歩を確実なものにするための今後の方向性を議論することでした。
共同進行役の視点
- コネクティビティ:スエラ・ジャニーナ(H.E. Ms. Suela Janina)国連大使(アルバニア)は、2003年の7億人から現在50億人以上が接続されるまでになった進展を評価しつつも、26億人が未接続のままであり、その多くがグローバル・サウスの女性や女児であることを強調しました。
- マルチステークホルダーモデル:エキテラ・ロカアレ(H.E. Mr. Ekitela Lokaale)国連大使(ケニア)は、人間中心の情報社会というWSISの本来のビジョンが依然として重要であるとし、ユース、女性、先住民コミュニティなど、多様なグループの声を最終文書に反映させるべきだと述べました。
参加者からのフィードバックと課題
- 国家レベルのプロセス:国レベルでのマルチステークホルダープロセスを再確立し、WSIS行動計画へのコミットメントを強化する必要性が指摘されました。
- 意識の向上と連携:多くの政府関係者がWSISプロセスを十分に理解していないという懸念が示され、幅広い社会セクターへの教育と連携の強化が提言されました。また、国連駐在調整官とWSIS/IGFプロセスの連携を強めることが推奨されました。
- 基本的ニーズ:一部の地域では、デジタル接続を追求する前に、エネルギーや水といった基本的なインフラ問題を解決する必要があるという現実が提起されました。
共同進行役の対応と今後の計画
- IGFの恒久化: ロカアレ氏は、IGFを国や地域レベルを含めて恒久化し、持続的な資金を確保するという提言を支持しました。また、未接続の人々に関する問題は、経済や貧困といったより広範な構造的問題と関連していると認めました。
- マルチステークホルダー・モデルの適用: ジャニーナ氏は、マルチステークホルダーモデルを国レベルでも積極的に統合し、政府とコミュニティがこれを支援することの重要性を強調しました。
- 今後のスケジュール: 6月20日に要素文書(elements paper)が公開された後、ゼロドラフトが8月下旬に発行され、改版された成果文書の、12月16日から17日に国連本部(ニューヨーク)で開催されるハイレベル会合での採択を目指して、本格的な交渉が続く予定です。
デジタル時代における拡大協力:WSIS+20 における概念からコミットメントへ
拡大協力/協力強化/強化された協力(Enhanced Cooperation)という概念は2005年のチュニス・アジェンダで導入されて以来、インターネットガバナンスにおける重要なマイルストーンであり続けているとされています。本セッション(400)での議論の要点は以下の通りです。
- 現状の認識:一部のステークホルダーは進展があったという考えや、目標達成にはさらなる努力が必要だという意見もある一方で、日常的な技術的・運用上の問題とは切り離された、インターネット関連の公共政策に関する国際的な議論を形成し続けているという点では広く合意が得られています。
- 実践的な課題:長年議論されてきたにもかかわらず、具体的な実施方法については合意が得られていません。ステークホルダーは、その機関的帰属、範囲、およびプロセスを明確にする必要性を強調しています。
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進捗とギャップ
- 2016年のIANA機能の監督権限移行は、マルチステークホルダーコミュニティへの重要な一歩でした。しかし、より広範な国際公共政策問題における拡大協力は、さらなる進展が必要です。
- 拡大協力に関する過去の作業部会(2013-14年、2016-18年)は、意見の相違により勧告について合意に達しませんでした。
- 現在のプラットフォームは、サイバーセキュリティ、AIガバナンス、電子商取引といった新たな国境を越えるデジタル政策問題に完全には対応できていません。
- 新たなアプローチ:マルチステークホルダープロセスと多国間プロセスが相互に補完し得るという認識が広まり、一部の政府やステークホルダーは、政策策定における「二重トラック(dual-track)」アプローチを提唱しています。
ビジョンをつなぐ:国連総会のグローバル・デジタル・コンパクト(GDC)とWSIS+20包括的レビューの整合
国連総会によるグローバル・デジタル・コンパクト(GDC)とWSIS+20の全体レビューを調整する本セッション(254)では、WSISの枠組みがGDCを実装するための自然な基盤として広く認識されていることが確認されました。主要な議論点は次の通りです。
- 重複の回避と合理化:参加者は、IGF、WSIS、UNGIS(国連情報社会グループ)などの既存のメカニズムを通じて、デジタル・ガバナンスの重複を避け、合理化する必要性を訴えました。
- WSISの信頼性:過去20年間、WSISがデジタル包摂(インクルージョン)と包括的なガバナンスにおいて築いてきた信頼性が強調されました。GDCはWSISの原則を再確認しており、そのメカニズムを置き換えるのではなく、強化すべきだという意見が多く出ました。
- ハイブリッド・ガバナンス:ステークホルダーは、政府とマルチステークホルダーの関与を組み合わせた「ハイブリッド・ガバナンス」を通じて、システム全体の一貫性を構築することが重要だと強調しました。
- 新興技術への対応:AI、サイバーセキュリティ、プラットフォーム・ガバナンスといった新たな課題に対応するため、WSISが進化する必要性が指摘されました。
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具体的なツールと提言:
- CSTD(開発のための科学技術委員会)は、デジタル包摂、安全なデジタル環境、SDGs支援、途上国の参加という4つの主要分野にわたる共同実施ロードマップを提案しました。
- WSIS進捗報告書データベースやICT開発指数といった具体的なツールをGDCの進捗追跡に活用することが推奨されました。
今後の行動計画として、WSISのアクションラインとプロセスを通じて、実装と調整を導くためのロードマップを策定し、IGFとWSISを監視とレビューの中心的なプラットフォームとして活用していくことが推奨されています。
まとめ
様々な内容が取り上げられ議論されたイベントでしたが、議長による要約では次のようになっています。
進捗と課題
- 過去20年間で、オンライン人口は2005年の10億人未満から55億人(世界人口の68%)へと増加しましたが、依然として26億人がインターネットに接続できていません。
- デジタル格差は、特に途上国、最貧国、小島嶼開発途上国、そしてアフリカ大陸で深刻な問題となっています。
- AIのような新興技術は社会、経済、ガバナンスを変革していますが、同時に先進国と途上国の間の格差を拡大させています。多くの国は、能力のギャップ、ローカルデータの不足、インフラへの不十分なアクセスにより、主要な技術開発から取り残されています。
- デジタル・ガバナンスは、規制だけでなく、包摂性、文化、多様性、および革新についても考慮する必要があります。
今後の方向性
- 青少年への重点: ユース・スペシャルトラックには280人の若者が参加し、意思決定の場における若者の永続的な参画が提唱されました。
- インフラと包摂性: デジタルネットワークは経済の原動力であるだけでなく、社会発展の重要な要素であり、基本的な人権として認識され始めています。包摂性は、単なるアクセスを超えて、手頃な価格、有意義な接続性、デジタルスキル、そして社会への完全な参加能力を網羅すべきです。
- 能力開発: 個々のスキル開発には進歩が見られる一方で、特に途上国における団体の能力開発には大きなギャップが残っています。
- 協力と信頼: サイバーセキュリティの脅威が増す中、国際協力による共通の基準と保護策を確立することが強く求められています。WSISメカニズムは、人権、データ保護、ネットワークの強靭性、および技術標準化の間の対話をつなぐ役割を果たすことができます。
- 継続的なプラットフォーム: 参加者は、WSISプロセスがデジタル協力を推進する中心的なプラットフォームであり続けるべきであるという点で広く合意しました。WSISフォーラムやIGFのような既存のメカニズムは、GDCの原則を実施に移すための理想的なプラットフォームと見なされています。
[1] https://www.itu.int/net/wsis/docs/geneva/official/poa.html 総務省による仮訳:http://www.soumu.go.jp/wsis-ambassador/pdf/wsis_plan_ jp.pdf
[2] https://www.itu.int/net4/wsis/forum/2025/Home/Outcomes
[3] https://www.itu.int/net4/wsis/forum/2025/Agenda/Session/183