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JP-DRPに基づく裁定の傾向分析調査

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JPドメイン名紛争処理方針(JP-DRP)とは、不正の目的によるJPドメイン名の登録または使用があった場合に、権利者からの申立てに基づいて、そのドメイン名を取消または移転するための紛争処理手続のことです。JP-DRPに基づいた申立てが行われると、日本知的財産仲裁センター(JIPAC)が裁定を下し、実際のドメイン名の取消や移転といった作業(裁定の実施)は、.jpのレジストリ(登録管理組織)である株式会社日本レジストリサービス(JPRS)が行っています。このJP-DRPによる裁定結果は、JPNICのWebサイトで公開しています。

JPNICは、JP-DRP紛争処理方針とその手続規則を、2000年11月に施行しました。現在満18年が経過したところで、人間で言ったらもう少しで成人です。

JP-DRP紛争処理方針とその手続規則に基づいて下された裁定を評価する作業を現在行っていることは2018年4月にこのブログでご紹介しました

2019年2月現在、JP-DRP紛争処理方針とその手続規則に基づいて下された裁定は全部で138件にのぼります。裁定が溜ってきたので、これまでの裁定の傾向について分析を行ってみました。今回はその一部をご紹介したいと思います。

まず、約18年で138件という件数が多いのか少ないのか、という点については、単純に申立の件数だけで比較できるものではないかと思います。

というのも、.comや.net等に適用されるUDRP (Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:統一ドメイン名紛争処理方針)とその手続規則に基づいて下される裁定の数に比べると数自体は「とても少ない」のですが、ただ、.comや.net等は登録されているドメイン名の数がJPドメイン名とは桁違いなので、その分紛争も多いのは当り前と言えば当り前なのです。

ちなみに、以下は、2018年10月1日現在のJPドメイン名の登録状況です。登録数は約152万件。ちなみに、この内7割近くを汎用ドメイン名が占めています。

これに対して、gTLDは例えば.comだけでも約1億4,000万件ほど登録されていますので、.comだけ見ても.jpよりも1,000倍近く多く登録されていることになり、桁が違います。

JP-DRP紛争処理方針とその手続規則に基づく申立ては、裁定までいかずに途中で申立てをした人とドメイン名の登録者が和解して、申立てが取り下げられて終わることもあります。その場合、裁定は下らないことになるので、これまでに下された裁定の数が138件とは言っても、申立ての数はもう少し多いです。

ただ、そうは言いつつも割合で見てみると、約152万件のJPドメイン名に対して150件ほどの申立てが過去あったので、おおむねドメイン名1万件あたりにつき1件ほどの割合で申立てがなされていることになります。

一方で、UDRPについて見てみると、ドメイン名約3,000件に1件程度の割合で申立てがなされているので、UDRPに基づく申立ては数も桁違いに多いですが、割合で見ても3倍高いことが分かりました。

そして、JP-DRPに基づく1年あたりの申立件数は下の通りで、大体8件/年ぐらいです。

そして、申立ての半分は海外からとなっています。海外の法人で著名ブランドを持っているような法人等が「自分のブランド名が入っているドメインが.jpとして無関係の人によって登録されている!困ります!」と言って申立てをしてくるパターンが多い訳です。

以下は海外の法人による申立てで、その法人の住所地を国別にグラフにしたものです。約半分が米国でした。その他も、ブランド等を持っていそうな企業の属する国が多いことが分かります。

ちなみに、海外からの申立ての場合でも、日本国内からの申立ての場合でも、申立人のほとんどは法人で、個人はほとんどいません。

申立人は自分の名前(名称)や住所、連絡先を明らかにして申立てを行いますので、当然申立人が誰なのかはハッキリ分かるのですが、紛争対象のドメイン名の登録者については、それが誰なのかよく分からないこともあります。

紛争対象のドメイン名の登録者の内訳を見てみると、意外なことに45%程度は日本の法人です。想像よりも多いと感じた方もいるのではないでしょうか? 次に多いのは、登録されている名前などもデタラメの文字列で連絡もつかず、そもそも誰なのかわからないケースで、おおむね30%ほどを占めます。日本の個人と思われる者が登録者というのは20%程度あります。そして中には、ローカルプレゼンス要件(登録にあたって日本に住所を有する組織や個人であることが必要)のあるJPドメイン名にもかかわらず、外国人らしいと思われる人が日本国外の住所を用いて登録しているケースも見られました。

申立てが起こされると「あなたの保有するドメイン名について申立てがなされましたよ」という通知がドメイン名登録者にいくのですが、郵便物もメールも不達となってしまった場合、結局その人は誰なのか分かずじまいなので、「相手不詳」ということで手続きを進めるしかありません。

簡易・迅速を旨とするJP-DRPでは、審理は当事者からの提出書類のみに基づいて行われ、権利者からの申立書に対して、ドメイン名の登録者はドメイン名の登録や使用に関する正当な理由を主張するための、答弁書を提出することができます。答弁書について見てみると、全体の半分弱でドメイン名登録者から答弁書が提出されていました。答弁書が提出されないということは、ドメイン名の登録者側が反論しないということですから、申立人の言い分が通る可能性が高くなります。

「答弁書」で指定されているフォーマットを満たしてはいなかったものの、別の形で(例えば電子メールで)ドメイン名の登録者が応答したケースもありました。そうしたものも含めると、全体のおおむね48.5%の事案でドメイン名の登録者から応答はあったことになります。そして、先に書いた通り、登録者が「結局誰なのか分かずじまい」という事案や、登録者に連絡がまったくつかなかったケースがあるので(ドメイン名の登録者側に郵便物も電子メールの連絡も届いていないとなると、登録者本人は自分が保有するドメイン名について申立てが起こされたことも知らないということになります)、ドメイン名登録者側もそれなりに(連絡がついた登録者の70%ぐらい)は、申立てに対して応答してきていることが分かります。

そして調べてみて分かったことは、「これはどう考えても誰もが知るブランド名だろう」「ドメイン名の登録者はそれを分かって登録していたはずではないか?」と思われるような事案でも、登録者側が真っ向から反論してきている事案も多いということでした。

無論、中には申立人(ブランドを持つ企業等)からの、申立書での文字列に対する権利の主張に対して、答弁書の中であっさりとその言い分を認めて、ドメイン名の移転等に同意している事案もあります。ですが、答弁書を提出したドメイン名登録者の75%ぐらいは申立人の主張に対して反論していて、自分にもその文字列を使うだけの根拠がある等の理由から、ドメイン名の引き渡しを拒否する主張をしていました。

DRPに基づく紛争処理の仕組みは、基本的にはその名称や文字列について商標を持っていたり、その名称や文字列が事業で使用されていたり、ブランドの名称として使われていたりするなどの場合に、その事実を優位に扱うものです。申立てをする側が、根拠も無く申立てを行うことは通常無いですから、UDRPに基づく紛争でも、JP-DRPに基づく紛争においても、多くの場合は申立人の言い分が認められ、ドメイン名の移転や取消を命じる裁定が下ることが多いです。

JPNICはJP-DRPの運用元ではありますが、これまでは裁定数が十分蓄積されていなかったこともあり、裁定文の内容にまで踏み込んだ統計はあまり採ってきませんでした。もちろん、日々の業務においておおよその傾向の把握はしていましたが、実際に細かく分析を行ってみると、普段の実感が数字として表れると同時に、改めて客観的な事実に気付かされる面もありました。

統計を採る作業には大変な手間と時間がかかります。ですが、数字は嘘を付かないので、かけた手間と時間の分だけ正確なことも分かります。

ひとまず今回はブログで簡単にご紹介しましたが、詳しい分析結果は近いうちにJPNICのWebサイトで公開する予定です。ご興味のある方は、ぜひお目通しいただきたいと思っています。

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