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IPv4アドレスのお値段について考える

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2015年9月24日、ARINでは新たに分配するIPv4アドレス在庫が枯渇したことをアナウンスしました。一応、/10分はリザーブアドレスとして保存していますが、2011年2月のIANA在庫枯渇の前後から開始した、枯渇期のアドレス分配ポリシーが終了したことになります。

また2015年10月1日には、RIPE NCCが、それまでRIPE地域内に閉じて実施していたIPv4アドレス移転を、他のRIR、具体的には同様にレジストリ間の移転を認めているAPNICとARINとの移転が可能になることをアナウンスしました。

こういった状況が、今後のIPv4アドレスの移転にどのような影響を与えるのか考えてみたいと思います。

■移転対象となるアドレスの種類

現在、APNIC、ARIN、RIPEにおいて、IPv4アドレス移転が行われていますが、移転されているアドレスの種別をRIRプールアドレス(CIDR導入以降にレジストリ経由で割り振られたアドレス=プロバイダ集成可能(PA)アドレス)と歴史的PIアドレス(CIDR以前にクラスフルアドレスとして割り当てられたアドレス)に分類して見てみました。

これを見るとAPNICでは、移転されるブロック数ではPIアドレスが多いものの、アドレス数ベースではPAアドレスの方が多くなります。つまり、PIアドレスの移転の場合は/24など細かなブロックが数多く移転され、まとまったブロックの移転はPAアドレスで行われていることが推察できます。

ARINにおいては、逆に移転のほとんどがPIアドレスとなっています。 また、レジストリ間移転については、ほとんどがARINからAPNICへの移転となっており、その対象アドレスもほとんどが歴史的PIアドレスになっています。これは、歴史的PIアドレスとして割り当てられたアドレスの方が、CIDR導入後に審議を経て割り振り、割り当てられたアドレスよりも、余剰となっているもの(空間)が多いことによるものというのが容易に想像がつきます。

RIPEでは、ブロック数、アドレス数ともにPAアドレスの方が極端に多く、PIアドレスの移転がとても少ない状況です。実はRIPE地域はIPv6アドレスの分配数が他の地域よりも突出して多くなっているという事実もあります。これがIPv4アドレスの移転動向に何らかの影響を及ぼしている可能性は考えられないでしょうか。現時点ではこれ以上の手がかりがないためこれ掘り下げませんが、もう少し分析、考察していく価値があるかもしれません。

NRO Internet Number Resource Report September 2015より引用

■歴史的PIアドレスの分布状況

では、ARIN、APNICで主な移転対象となっている歴史的PIアドレスはそれぞれのRIRでどのくらい管理されているのでしょうか。

IANAが管理するすべてのIPv4アドレスのほとんどは、五つのRIRに分配されて管理しています。その各RIRが管理するアドレスのうち、歴史的PIアドレスの数(/8ブロックの個数)を下記の円グラフで示してみました。それぞれのRIRが管理するIPv4アドレスのうち、色の薄い部分が歴史的PIアドレスの/8ブロックの個数になります。

これを見ると、ARIN以外のRIRが管理する歴史的PIアドレスのブロック数がすべて1桁なのに対して、ARINは75個と圧倒的に数が多いことがわかります。

前述の移転対象となるアドレス種別において、ARIN内またはARINからAPNICに対するレジストリ間移転では、歴史的PIアドレスの割合が非常に多かったものの、APNICとRIPEにおいては、むしろPAアドレスの移転が中心です。これはやはりその地域内で管理されている歴史的PIアドレスの数の差によるものと言えます。

レジストリ間移転の対象がRIPEにも拡大したことによって、現時点ではまだ実際の移転は起こっていませんが、今後はAPNICだけでなく、RIPEでも、ARINが管理している膨大とも言える歴史的PIアドレスの空間に対して、IPv4アドレス移転ニーズの期待がかかっていくことが考えられます

■IPv4アドレスの落札価格

IPv4アドレスの移転が可能になってから、IPv4アドレスの取引を仲介する事業者(ブローカー)が登場しています。APNICではこのブローカーにコンタクトできるようにしたリストも公開しています。また、IPv4アドレスの取引のためのオークションサイトも登場しています。

このサイトでは、これまでに落札されたアドレスの価格を参照することができます。

この落札価格に基づいた1アドレスあたりの単価を、アドレスサイズ別に時系列で整理してみました。サイズごとにその月の価格を、複数ある場合は最も金額が高いものをプロットしています。

表をクリックすると大きいサイズでご覧になれます。

実際の落札価格の一覧はこちらで確認できます。

これを見ると2015年10月から少し価格が上昇していることが分かると思います。/24はもともと価格のバラつきが大きく、以前から$10を超える金額がつくこともありましたが、/23の場合は、ほぼ安定して$9前後で推移していたのが、10月以降はすべて$10以上の金額で平均すると$11くらいになります。

10月というのは、タイミングとしてはちょうどARINの在庫枯渇とRIPEのレジストリ間移転が可能になった時期ですが、これがどの程度IPv4アドレスの落札価格の若干上昇に影響をしているのかは、今後もう少し状況を見ていく必要があります。

■最新の落札価格から考えるアドレス取得コスト

上記の落札価格変動によれば、9月までは/23のブロックを入手するためには、約$4,000=約\480,000が必要でしたが、10月からは約$5,600=\672,000かかることになります。

ちなみに、今から5年前であれば、たとえば/18程度のIPv4アドレスの追加割り振りを受けるにあたってかかるコストとしては、審議資料を整える手間がくらいだったと思います。それが、現在/18のアドレスブロックを手に入れるためには、1アドレスあたり$8.00としても$131,072、日本円で約1,570万円かかることになります。/18程度のおかわりというのは、以前なら中規模ISPであれば半年から1年程度で消費する分量だったと思います。この規模の事業者にとって、おかわりのために1,500万円の負担というのはかなり厳しいものと想像できます。かと言って、事業者が顧客の獲得をやめるわけにはいきませんし、ユーザーにコスト転嫁するのも難しいと思われます。こういったコストは、IPv4アドレスを使い続ける限り、インターネット全体にかかるコスト負担にも繋がってくるということも考慮しておかなければいけません。

■今後のIPv4アドレス取引価格の見通し

ARIN地域において新たにIPv4アドレスを入手する方法は移転のみとなりました。地域内で管理している歴史的PIアドレスが非常に多くあるため、これを移転することで需要を満たしていくことになりますが、移転実績も緩やかに増えてきているので、いずれは供給が逼迫していくことは間違いありません。また、APNIC地域では地域内の移転も行われていますが、ARINからの流入も早い段階から行われており、これは今後も継続していくと思われます。RIPEはこれまで地域内の移転が活発に行われており、他地域の3倍以上の移転実績があります。つまり、RIPE地域では他地域以上に需要も供給も旺盛にあると言えます。これがレジストリ間移転が可能になったことにより、現時点ではまだ実績はないものの、ARINから流入が今後増加していく可能性は十分に考えられます。

すでに、1オークションサイトにおける目先の実績ではありますが、IPv4アドレス取引価格が上昇傾向にあることが観測されている中で、上記のようにアドレス需要の傾向が継続していくとすれば、おのずと今後も、それほど急激ではないとしても、上昇傾向は続いていくのではないかと思われますので、上記のインターネット全体のコストという観点においても、引き続きIPv4アドレスの価格動向には注視していく必要があります。