Taiwan Internet Forum 2016レポート
ip_team IPアドレス 他組織のイベント2016年12月12日(月)~15日(木)にかけて、台湾・台北の台大医院国際会議中心(NTUH International Convention Center)にて、Taiwan Internet Forum 2016が開催されました。今回のブログ記事では、このカンファレンスの様子をご紹介します。
Taiwan Internet Forumは、2015年に発足したばかりの「Global IPv6 Summit in Taipei」、「TWNIC IP Open Policy Meeting」、「TWNOG」を融合したカンファレンスです。発足当初は3日間だったところを、今回からセキュリティセミナーを追加して4日間のカンファレンスとなりました。
参加者数はテーマによって大きく異なりますが、セキュリティについてはやはり関心が高く、約500名の参加登録、約250名の当日参加があったということです。カンファレンスでは、参加者間での議論やネットワーキングというよりも、話を聴きに来る方が多い傾向が見受けられました。オープニングスピーチや一部セッションのモデレーションを政府の方が行っていたことが印象的でしたが、全体的にはあまり形式的ではない雰囲気で、国内での業界カンファレンスとさほど変わりはありません。
台湾外からは、JPNICの他、IRINN(インド)、VNNIC(ベトナム)といったNIRのスタッフや、APNICのChief Scientist Geoff Huston氏、Services DirectorのGeorge Kuo氏が招待されていました。
北京語で行われた議論は残念ながら追えなかったため、ここでは筆者の登壇した「Global IPv6 Summit in Taipei」と「TWNIC IP Open Policy Meeting」の一部をご紹介します。
■Global IPv6 Summit in Taipei
キーノートスピーカーを務めたAPNICのGeoff Huston氏からは、IPv6の導入を取り巻く傾向、現在の課題が紹介され、VNNIC、IRINNからの登壇者はそれぞれベトナム、インドにおけるIPv6の導入状況を紹介しました。また、2015年に続き、IPv6の導入が進んでいるマレーシアのTMnetからも取り組みが紹介されました。筆者は、IPv6 Summit Tokyo2016でも紹介した、国連IGFにおけるIPv6 Best Practices Forumの成果を紹介しました。
IPv6 導入状況:Are we there yet?Measuring IPv6 in 2016 (APNIC Geoff Huston)
APNICによるIPv6導入率の計測結果、IPv6導入率が高い国、台湾におけるIPv6導入の状況が紹介されました。
接続率の低い台湾の現状を示して参加者に対応を呼びかけるとともに、アジア太平洋地域内において日本が現状トップではあるが、長い期間取り組んでいるが伸び悩んでいることに対して、マレーシアが過去18ヶ月の間に急ピッチで追い上げを見せ、ほぼ日本と同じ率であることにも言及していました。
また、多くのISPがIPv6を提供することで、接続の遅延をはじめサービスが劣化することへの懸念がある状況を踏まえ、IPv6による接続の失敗率が国別と事業者別に紹介され、それらの要因と対応についての説明がありました。
6to4の利用、IPv4と異なるルーティングの設定、ユーザーが適切な機器のアップデートをしていない等が問題として挙げられています。
インド: India IPv6 Development Status
インドではモバイル事業者のReliance Jio社が商用サービスを開始したことで、今年から飛躍的な普及率の成長を見せ、世界的に18位、11%の普及率まで伸びています。IPv6に対応しているモバイルハンドセットを利用することを前提に、ユーザーに無料SIMを配布しているということです。
ベトナム: IPv6 Deployment in Vietnam
ベトナムでは政府の関連組織であるVNNICがリードして、IPv6の導入を進めています。事業者を連れた視察を行い、導入が進んでる他国の経験から学んでいることが特徴的で、2012年に日本を訪問、その後2013年にシンガポール、2015年韓国、そして2016年はマレーシアを訪問しています。
現在の全体の普及率は5%強ですが、2016年の初めはほぼ0%だったところを、FPT社という事業者がFTTHにおけるIPv6の商用サービスを開始したことで、急ピッチで普及率を上げていることは特筆に値します。VNNICはFPTの事例を基に、他の事業者にもIPv6導入を呼びかける取り組みを表明されているとのことですので、今後の成長に注視したいところです。
国連IGFにおけるIPv6 Best Practices Forumの成果:UN IGF2016 BPF-IPv6
Taiwan Internet Forum開催の前の週に国連IGF会議がメキシコで開催され、対面でのIPv6 Best Practices Forumとしての議論と成果文書を紹介しました。文書の内容に加え、IAB (Internet Architecture Board)による声明、Apple社による取り組み、T-mobile社、Verizon Wireless社等北米のモバイル事業者による普及(70%以上のIPv6導入率)、クラウド/CDNでのIPv6導入が進んでいる傾向を紹介しました。
台湾におけるIPv6の普及:
台湾では、最大手のHinetがIPv6の商用サービスを提供しているものの、ユーザー側が申し込みを行う必要があり、サービスレベルへの影響のためか、積極的な導入に全体的には消極的ということです。現在のIPv4で十分であり困っていないので、「なぜ米国や日本では導入を進めているのか」「何か自分たちが知らず、公開されていない事情があるのか」と質問を受けました。
■TWNIC IP Open Policy Meeting
TWNICのOPMでは、政府から、台湾における米国FCCに相当するとされる國家通訊傳播委員會(National Communications Commission)の方がモデレータを務め、IPv4アドレス移転における各NIRのポリシーや、移転状況が紹介されました。APNICのGeorge Kuo氏は、移転ポリシーの意図を今一度原点に返って紹介し、正しい情報登録の重要性を強調していました。
ベトナム:IPv4 Transfers in Vietnam
ベトナムでは、IPアドレスが国の資産として法律で定められており、国際移転において国外からベトナムへの移転は認められていますが、ベトナムから海外への移転は認めらていない状況です。ベトナムにおける資源管理については、英語で毎年報告書がVNNICのWebサイトに掲載されていますので、.vnドメイン名に関する情報やVNNIXの情報も含めて興味のある方はご覧ください。
インド:IP Address Management and IPv4 Transfers in India
IRINNは、APNICの適用しているIPv4アドレス移転要件に加え、移転後2年間は移転を禁止する要件があるということです。IPv6の分配状況も併せて紹介され、1,728事業者のうち、IPv6の分配も受けている事業者は295組織とまだ低い比率であるようです。
日本:IPv4 Transfer in Japan
JPNICからは、国内における移転に関する取り組みを中心に以下を紹介しました。
- APNIC地域全体の移転のうち、日本における移転は件数、アドレス数ともに比較的活発
- 主な移転先はデータセンター事業者、ホスティング事業者、VPNサービスを提供している事業者
- 移転を受けている事業者のうち約28%がIPv6の分配も受けている。データセンターの多くはIPv6の分配も受けているが、CATVやVPN事業者はIPv4のみ
- JPNIC管理下の指定事業者のうち、約50%はIPv6の分配も受けている
政府の関与:
最後にモデレータから、政府の立場からの質問として、政府が関わるべきことはあるかとの質問を受け、筆者からは、日本において総務省が専門家を集めて報告書の策定を行いつつ、ポリシー策定においてはコミュニティが行っている状況を紹介しました。政府が、台湾としてIPv4アドレスをどの程度確保できているのか等の視点から、関与すべきかどうかという意図の質問であったようです。
■TWNICオフィス訪問
会議の合間にAPNICおよび訪台したNIRスタッフでTWNICオフィスを訪問し、WHOIS登録情報の正確性向上や各NIRを取り巻く状況など個別の意見交換を行いました。大勢のカンファレンスではなかなか踏み込んだ意見交換を行う機会が少なく、少人数で話をする貴重な機会でした。
パネルになっているのは、.twのキャラクター”NIC Baby”(北京語では「にーくぅぱおぱお:NIC baby)」という名前だそうです
TWNICにてアドレス管理を行っている部署。写真手前は各種OS環境によるIPv6の設定ガイド。
APNIC、NIRといったレジスト間の親睦を深めるとともに、このような機会を通して台湾のインターネットコミュニティにJPNICの活動および日本の状況を共有する機会をいただけたことは、大変ありがたいことです。JPNICとしても、Taiwan Internet Forumへの参加を通じて、台湾のインターネットコミュニティに多少でも何かのお役に立てたのであれば幸いです。