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APrIGF 2017 現地レポート

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開催概要

タイ・バンコクで、Asia Pacific regional Internet Governance Forum (APrIGF) 2017ミーティングが開催中です。APrIGFは、アジア太平洋地域におけるインターネットガバナンスに関する議論を行うミーティングで、今年は2017年7月26日(水)~7月29日(土)の3日間にかけて開催されます。毎年開催地は異なり、初回は香港で開催されました。今年で8回目の開催にあたります。

今年は約45ヶ国から700名近い登録者があり、このうち約300名がホスト国のタイからの参加者、全体の40%強が女性ということです。若者を対象としたyouth IGF (yIGF)では、アフガニスタン、バングラデシュ、カンボジア、中国、インド、マレーシア、スリランカ、タイから約60名が参加をしています。

受付周辺の様子
世界地図に参加者自身で自分の所在地を示すピンを押していきます
南アジアからの参加者が多くなっています。ピンが押されてないだけで、日本からも多くの方が参加していました

オープニングセッション

オープニングセッションでは6名のスピーカーのうち、APNICの事務局長でもあるPaul Wilson氏がAPrIGF Chairとして冒頭でスピーチを行い、会議での議論を元に成果文書を策定することを紹介した上で、IGFはみんなと共に作っていくものであると呼びかけました。また、IGFはグローバルなムーブメントであるとして、国連事務局からの参加を歓迎しました。

今年のテーマとプログラム

今年のAPrIGFのメインテーマは、「Ensuring an inclusive and sustainable development in Asia Pacific: A regional agenda for internet governance」です。グローバルな場でも着目されている持続可能な発展に、アジア太平洋地域からの視点を加えることにフォーカスをしています。

これらメインテーマの下、以下四つのサブテーマを元に各種セッションが開催されています。

  • Access, Empowerment & Diversity (アクセス、エンパワーメント、多様性)
  • Cybersecurity, Privacy and Safer Internet (サイバーセキュリティ、プライバシー、より安全なインターネット)
  • Digital Economy & Enabling Innovations (デジタル経済、革新の実現)
  • Human Rights Online (オンラインの人権)

今回のプログラムは以下の通りです。オープニングで触れられた、APrIGFでの議論を元に取りまとめる成果文書について議論するセッションも設けられています。

現在、国内の多くのオペレータはJANOGに参加されているかと思いますが、リモート参加も可能です。

APrIGF 2017 Program
https://2017.aprigf.asia/program/

各サブテーマについて

オープニングセッション開催後、今年は新たな試みとして、先にご紹介した各サブテーマについて、登壇者が語るパネルセッションが開催されました。ハイライトされたポイントは以下の通りです。

また、タイ政府の担当者も、今回の会議で着目していることを語りました。

各テーマごとに登壇者がハイライトを語るパネル

各テーマごとに登壇者がハイライトを語るパネル

アクセス、エンパワーメント、多様性

僻地や地方、太平洋の小さな島々も含めた接続性、ICTへのアクセスが必要。

具体的な取り組みとして、トンガは光ファイバーケーブルの整備に取り組んでおり、バヌアツは国民の90%を2010年までに接続する目標を掲げている。フィジーは世界銀行の接続提供プロジェクトに関わっている。

しかし、アジア太平洋地域全体で見ると接続の提供は40-50%に留まっており、小さな島々においてはさらに低い。さらに高い比率で接続性を提供する上での取り組みが必要。

サイバーセキュリティ、プライバシー、より安全なインターネット

セキュリティに関わる問題として、データプライバシーとデータ保護が挙げられる。これについてはさまざまな規制があり、企業等に混乱と見通しの悪さが生じている。大企業は対応するリソースがあるが中小企業にはなく、多くの関係者にとって障壁となっている。

国をまたがるデータ移転は本来たやすく行えるべきだが、国よって規制が異なるため現実には大変複雑である。個々の規制を見て対応するのではなく、現在はそのようなものはないが、自由な情報の流通を実現できる包括的な規制のセットが必要。

オンライン上の人権

オンライン上の人権はこれまで以上に脅威にさらされており、インターネットガバナンスにおける影響がある。これは人権について問題意識を持った人だけではなく、より幅広い関係者への影響がある。以下、三つの分野で検討が必要。

  1. オフラインにおける影響
    オンライン上の検閲対応のみで問題がとどまるものではなく、オンラインで意見表明をしたことにより活動家が殺されている。これは特に、南アジアにおいて大きな問題。
  2. プライバシーとデータ保護
    昨今プライバシーとセキュリティの名の下、国がNational IDシステムを導入しているが、十分なプライバシー保護対策が取られていない。また、欧州がプライバシー保護対応を強化しているが、その結果、世界の一部ではプライバシーが強く保護され、他の地域では保護が弱いとの格差が生じかねない。
  3. ジェンダーとセクシャリティ
    これは女性の立場を守るといった問題だけではなく、例えば広範囲の監視において、女性の方が男性より精神的な影響を受けやすいということが確認されている。こういった違いを認識した上での、対応の検討が必要。また、オンラインでの女性への虐待についても、対応策として保護するために女性をオンラインにアクセスさせない等の対応に走りがちであり、包括的に十分に検討しないと女性がオンラインにアクセスする権利が阻害されることになってしまう。また虐待対応を、検閲強化や仲介事業者の責任の方便として使われることもある。したがって、ジェンダーの問題だけとして片付けるべきではない。

マルチステークホルダーのアプローチをどう幅広い関係者に広めていくのかも、人権の分野にも関わるテーマ。

デジタル経済と革新の実現

政府は昨今、すべてにおいてデジタル化を進めたがる傾向にあるが、オンラインアクセスできる人が限られている中でこのような対応が進むことは、参画できない人が増えることになるので問題。

また、企業がこれまでにない形で、プライバシーデータへのアクセスを行っているという状況がある。しかし、多くのプライバシー対策は政府にのみ適用される。従って、多くの政府は企業にアウトソースすることで、必要なプライバシー対応を逃れている事例も見受けられる。

そして、法律は一般的に制限を加えるものとの印象が強いが、法により革新を促進する環境を整えることもできる。例えば、適切な税金の適用、起業のしやすさを整備する等。大企業だけに有利な状況ではなく、多くの企業が革新できる環境整備が必要。

タイ政府担当者から見えている課題・会議への期待

タイ政府は、コンテンツ事業者など(OTT; Over The Top)のソーシャルメディアへの規制を検討しているが、規制するべき、規制するべきではない、それぞれの立場でテンションがあり、継続議論中。

関連する事例として、Uberとタクシーの運転手間での論争がある。興味深いことにUberは、サービス提供ができるよう、Uberに関する規制の整備を要求している。また、若干極端な意見ではあるが、OTTを放送者として取り扱い、放送関連の規制を適用するべきかとの議論もある。

マルチステークホルダーは重要だが、非常に象徴的でもある。インターネットを管理する上でのマルチーステークホルダーとは、一体どういうことなのか。環境が変わってきており、政府がトップダウンですべてを規制することはそぐわないと同時に、一定の規制も必要と思われる。しかし、これを一体どのように行えればいいのか。政府は他の関係者との協力強化が必要だが、具体的にどうするのかさらなる議論が必要であり、今回の会議でこのような疑問への答えを見つけられればとよいと考えている。

さらなる情報

リアルタイムで議論を追えなかった方も、動画や発言録が提供されています。興味のあるプログラムがありましたら、後日ぜひご確認ください。

また、ここでご紹介した四つのサブテーマを軸とした、APrIGFでの議論が反映される成果文書は、会議開催後もオンラインで引き続き意見募集が行われます。誰でもコメントを行うことが可能ですので、関心のあるテーマがありましたら、会議の議論を反映した版をご確認ください。(2017年8月28日時点では議論未反映。

Synthesis Documentへのコメント提出プラットフォーム:http://comment.rigf.asia/

Synthesis document に関するインプットセッション

 


Youth IGF (yIGF)の参加者達

Youth IGF (yIGF)の参加者達

ソーシャルイベントの様子

 


2017年8月3日追記:
本記事が英訳され、APNIC Blogにも掲載されました!

APrIGF 2017: A regional agenda for Internet governance

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