地域インターネットレジストリ(RIR)ってなに?
ip_team IPアドレスIPアドレス・AS番号はその一意性・公平性などを保つために集中的な管理構造を有しています。ツリー構造の頂点に当たる組織として、ICANN(IANA)が番号資源管理を行っていますが、アドレスポリシーの策定や一般組織への割り振りはその傘下にある5つの地域インターネットレジストリ(Regional Internet Registry : RIR)が行っています。JPNICは知っているけどRIRってそもそも何?APNICは知っているけれど、他がどうなっているのか知らないよという方へ向けて、今回は改めてRIRとはどんな組織であり、それぞれどのような特徴を持っているのかということをご紹介したいと思います。
地域インターネットレジストリ(RIR)とは
RIRは世界を5つの地域に分け、特定地域における番号資源管理をICANN(IANA)から委任されたレジストリです。一部の国を除き、IPアドレスの割り振りを希望する組織はRIRに申し込むことになります。また、番号資源管理におけるルールとなるポリシーは各RIRで形成されます。ポリシーに関する議論には、メーリングリストや年2回開催されるオンサイトミーティングで参加することができます。
このほかにも、インターネットに関する各種研究や情報提供、発展途上地域へのトレーニングなどもRIRの業務の一部となっています。
APNIC (Asia Pacific Network Information Centre)
APNICは、アジア太平洋地域56の国および経済圏を管轄するインターネットレジストリです。会員数は約7,500、事務局はオーストラリアのブリスベンに置かれています。APNIC地域には、各国における番号資源管理を委任された国別インターネットレジストリ(National Internet Registry : NIR) が存在し、現在は日本(JPNIC)・中国・台湾・韓国・ベトナム・インドネシア・インドの7か国に設けられています。APNICの最大の特徴は、このNIRの存在です。LACNIC(南米地域)にもブラジルとメキシコにNIRがありますが、その他には存在しません。また、日本などの一部のNIRでは各々にアドレス管理ポリシーを持ち、議論を行っているというのもAPNIC地域だけに見られる特色です。
IPアドレスポリシーに関しては、年2回開催されるミーティングを通して議論・決定が行われます。事前のメーリングリスト上での議論は盛り上がりにくい傾向がありますが、オンサイトの会議ではしっかりと意見交換が行われ、円滑に議論が行われています。最近ではprop-132 : RPKI ROAs for unallocated and unassigned APNIC address space (APNIC地域における未割り振りアドレスのRPKI ROA発行)がAPNICを皮切りに他のRIRでも議論されています。ポリシー策定におけるコミュニティの傾向は、いかに効果的であるかを重視するように思われます。
APNICカンファレンスの様子は以下の記事をご覧ください。
JPNIC Blog: APNIC49フォトレポート
ARIN(American Registry for Internet Numbers)
ARINは北米・カリブ海地域29ヵ国を管轄しています。事務局はアメリカ・バージニア州センタービルにあり、会員数約6,200となっています。世界最大のオペレータコミュニティであるNANOGを抱えるARIN地域は、非常にコミュニティ活動が盛んな地域です。番号資源管理においてもその特色は同じで、常にメーリングリスト上では何かしらの議論が行われています。ARINのポリシーは、アメリカの契約社会的な考え方をベースに構成されているように見えます。契約文書に記された文言が二者間の関係のすべてを規定するように、アドレスポリシーも網羅的に、かつ詳細に記すよう努めています。その結果、議論すべきコンテンツが多くなり、議論が活発になっているのではないかと考えられます。一方で細かく詰めていくがゆえに、議論への新規参入の障壁は高くなりがちであるとも言えます。
ポリシー策定プロセス(Policy Development Process: PDP)においても、契約社会的要素を見ることができます。ポリシー議論の際、他のRIRではポリシー提案者(=コミュニティ側)がRIRのPDPに従って策定までのプロセスを進めることになりますが、ARINでは提案を受理した段階でそのイニシアティブはAdvisory Council(AC、ARINメンバーから選出される)に渡されます。コミュニティという関係性が曖昧な存在ではなく、関係の明確なメンバーから選出されるACに裁量を委ねるという方式を採っています。
ARINカンファレンスの様子はこちらをご覧ください。
JPNIC Blog : NANOG74・ARIN 42ミーティング フォトレポート
RIPE NCC(Réseaux IP Européens Network Coordination Centre)
RIPE NCCは欧州および中東地域76ヵ国を管轄しています。事務局はオランダ・アムステルダムで、会員数は約25,000と全RIR中最多となっています。これは欧州地域の先進国の多さに由来するものだと考えられます。中東地域との差には課題を残していますが、現状最もコミュニティとしての成熟度が高いと言えるのがRIPE NCCです。
他のRIRとの違いは、PDPにおけるコンセンサスの形成方法です。他のRIRでは基本的にオンサイトのミーティングを重視し、コンセンサス確認はオンサイト参加者の意見を確認して形成されます。しかしRIPEでは、オンサイトのミーティングではコンセンサスの形成を行わず、メーリングリスト上でコメントを募り、コンセンサスの形成を行います。また、他のRIRはポリシー策定専門のグループを形成し議論を行いますが、RIPEでは多様な専門分野に関するワーキンググループ(WG)を持っており、ポリシーの提案内容がより適しているWGでポリシー策定に関する決議を行うようになっています。
このようにRIPEでは、メーリングリストでのコンセンサス形成による意見の取り込みや、多様なWGを設けることでの議論の活性化等、PDPにおいて一歩進んだ取り組みを行っています。これにより、実際にメーリングリストでの議論は活発に行われており、専門分野に関するポリシー議論もより専門知識を持った人が入りやすい形になっています。
RIPE NCCカンファレンスの様子はこちらをご覧ください。
JPNIC Blog : RIPE 76がマルセイユで開催されました
LACNIC(Latin American and Caribbean Internet Address Registry)
LACNICは南米地域33ヵ国を管轄しています。事務局はウルグアイ・モンテビデオに所在し、会員数は約9,700となっています。ただし、会員の約7割がブラジルの組織となっており、地域内での格差が大きいように見えます。また、LACNICは議論が、公用語として多く採用されているスペイン語、ブラジルの公用語であるポルトガル語、地域外からの参加者のための英語と3言語で行われるという特徴を持っています。
先の3つのRIRと比較すると、発展途上国が多く、ハンズオンやセミナーへの注力という側面が強く、ポリシー分野においては他のRIRを後追いする形で議論されることが多くなっています。ポリシー面での特徴ではPDPがARINと異なりとても簡潔な文言で記されています。先行して誕生したAPNICやARINを追いかける形で2002年に誕生したLACNICは、PDPの基本的部分は同じようにできていますが、ARINのように詳細な文書による規定が存在しないので非常に簡潔な構造となっています。地域性として北米とは異なり、ARINほどの規定を行う必要はないと考えているのだと思われます。
LACNICカンファレンスの様子はこちらをご覧ください。
JPNIC Blog : LACNIC 28ミーティング フォトレポート
AFRINIC(African Network Information Centre)
AFRINICはアフリカ地域55ヵ国を管轄しています。事務局はモーリシャス・エベネですが、南アフリカ・エジプト・ガーナに機能を分散しています。2005年に認定された最も新しいRIRであり、会員数は約1,700と最小です。言語は基本英語ですが、サービスサポートは話者の多いフランス語にも対応しています。
AFRINICは現在、国際移転制度がコンセンサスに至っていない唯一のRIRとなっています。最もIPv4アドレスの枯渇が遅い地域であることから、流出のデメリットを危惧する声が多いことが原因のようです。また、以前には国家によるインターネット遮断を受けて、遮断を行った国へのペナルティを課すというanti –shutdown policyが提案される(コンセンサスには至らず)など、ポリシー分野においても独自の問題・課題を抱えている様子が伺えます。発展登場国が多いAFRINICでは国・地域などさまざまな関係の間で対立が起きやすい状況になっており、メーリングリストではしばしば問題となることがあります。また、AFRINIC自身が特定の属性へ傾くのを防ぐため、メンバーからの理事の選出をサブリージョン(小地域)単位で行う制度を導入しています。
地域としての足並みをなかなかそろえることができていない中で、基盤インフラとしてのインターネットの整備・普及、組織運営の体制強化、地域コミュニティとしての意識形成などの課題の改善に務めています。
AFRINICカンファレンスの様子はこちらをご覧ください。
JPNIC Blog : AFRINIC 26レポート [前編] ~全体概要~
以上RIRの基礎的な情報と特徴についてご紹介しました。
最後に比較しやすいようにまとめると
組織名 | 地域 | 管轄国(地域)数 | 事務局所在地 | 会員数 | 特徴 |
APNIC | アジア太平洋 | 56 | オーストラリア・ブリスベン | 約7,500 | 一部の国はNIRが管理。効果・効率的なポリシー傾向。 |
ARIN | 北米・カリブ海 | 29 | アメリカ・バージニア | 約6,200 | 緻密なPDP。ポリシー提案をACが進める。 |
RIPE NCC | 欧州・中東 | 76 | オランダ・アムステルダム | 約25,000 | 専門WGで議論、MLでコンセンサス決議。 |
LACNIC | 南米 | 33 | ウルグアイ・モンテビデオ | 約9,700 | スペイン語中心。簡略なPDP。 |
AFRINIC | アフリカ | 55 | モーリシャス・エベネ | 約1,700 | 国際移転×。基盤整備・コミュニティ統一感構築が課題。 |
という感じでした。同じRIRといえども、けっこう異なる制度や状況にあるということがわかります。このほかにもさまざまな特徴や違いがあると思います。是非興味がございましたら其々のWebページをのぞいてみたり、メーリングリストに参加してみたりしてください!
今後も各RIRのポリシー動向などをまとめられればと考えております。
ご期待ください!