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Brexitと.euドメイン名

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2020年2月に英国がEUを離脱し、同年末まで移行期間でしたが、それが終わった後、.euドメイン名の登録資格がなくなった英国民が発生したことがニュースになりました。本稿では、英国のEU離脱に伴う.euドメイン名の無効化について追ってみました。

ちなみに、WHOISによればbrexit.euというドメイン名はオーストリアの企業によって登録されているようですが、登録言語はオランダ語で、連絡先メールアドレスで使われているドメイン名はハンガリーのccTLDという摩訶不思議な登録内容となっており、連絡先メールアドレスの文字列はこのドメイン名が売りに出ていることを示しているようにも見えます。

Brexitについて

ご存じの方も多いと思いますが、Brexitとは、英国が欧州連合(EU)を離脱することを指します。2016年に行われた欧州連合離脱の是非を問う国民投票の結果、離脱派が残留派を上回り、離脱が決定しました。欧州連合基本条約と言ってよいリスボン条約第50条の規定では、離脱に関する英国とEUの交渉は2年間とされ、2017年3月に離脱通知が英国からEUに対して行われたので、2019年3月が元々の期限でしたが、英国議会で離脱協定が承認されないため延期が申請され、結局2020年1月末までの離脱延期となりました。同年2月1日にEU離脱が確定しましたが、離脱協定により同年12月末までは移行期間となりました[1]。離脱後の英国とEU間の通商協定が、移行期間が終了する12月末ぎりぎりまで交渉が行われましたが妥結し、2020年12月30日に英国議会で批准され[2]、2021年の早い時点で欧州議会が案を検討することになっています[3]

.eu TLDについて

ccTLDである.euトップレベルドメインは、非営利団体であるEuropean Registry for Internet Domains (EURid)により運営されており[4]、EUの行政府という位置づけである欧州委員会[5]により監督されています[6]。これらの根本の決め事は、EU全域に適用される法律(規則)で定められています。ccTLDですので、ICANNと契約が結ばれています。

ICANNとEURid間で締結された.euスポンサー契約

IANAサイトに掲載されたTLD委任に関する記載

EU規則2019/517が規定していること

本稿執筆時点で.eu TLDについて定めているEU規則2019/517[7]では、.eu TLDを登録できる人を以下の通り限定しています(第3条「適格条件」)。なお、本規則は欧州経済領域(EEA)[8]関連文書(Text with EEA relevance)であるため、以下でEUとある文言はEEAを指すと思われます。

  1. EU市民(居住地を問わない)
  2. EU加盟国のいずれかに居住するEU市民ではない個人
  3. EU内に設立された企業
  4. 国内法の適用への侵害なしにEU域内に設立された組織

Aにより、英国に住んでいるEU市民は移行期間終了後も.euドメイン名を登録し続けることが可能となり、Bにより、EU加盟国に居住している英国国籍を持った人も.euドメイン名を登録し続けることが可能となります。ですのでEU加盟国外に居住する英国国籍を持った人、および英国で設立され、英国に本拠地のある企業がEU離脱後.euドメイン名を登録し続けることができなくなります。

移行期間終了後起こること

EURidが公開しているBrexitに関する告知[9]によれば、2020年12月31日の移行期間終了までは英国で設立された企業や組織、および英国在住者及び英国市民は.euドメイン名を引き続き登録できますが、移行期間終了後は次のようになります。

  1. 2021年1月1日にドメイン名登録資格を失うドメイン名の英国在住の登録者およびそのレジストラに対し、EURidより2020年10月1日に電子メールで通知【通知1回目】
  2. もし登録者が上記A.~D.のいずれかに該当することが示されれば適格性は失われない
  3. 2020年12月21日にドメイン名登録資格を失うことについてEURidは再度通知【通知2回目】
  4. 2021年1月1日0時0分0秒(中央欧州時間)をもって、EURidは英国在住者による新規ドメイン名の新規登録・更新・移転を認めない
  5. 2021年1月1日0時0分0秒(中央欧州時間)にEURidはすべての英国在住の登録者およびそのレジストラに対して、登録されているドメイン名はもはや適格ではなく同年3月31日まで「停止」ステータスに移行したことを電子メールで通知【通知3回目】
  6. 2021年4月1日0時0分0秒(中央欧州時間)にEURidはすべての英国在住の登録者およびそのレジストラに対して、登録されているドメイン名はもはや適格ではなく「抹消」ステータスに移行し、ゾーンファイルから削除されいかなるサービスもサポートしないことを電子メールで通知
  7. 2022年1月1日0時0分0秒(中央欧州時間)にはすべての「抹消」ステータスとなっているドメイン名は廃止され、新規登録が可能となる

移行期間終了後の実態

2021年1月7日付のEURidの告知[10]によれば、前項の5.に該当し電子メールが送られかつ「停止」ステータスとなったドメイン名の数は81,000以上でした。年初から当該告知掲載時点までに、2,500ドメイン名において登録内容が変更され(ドメイン名に紐づく登録者の住所または国籍がEU/EEA加盟国に変更されたと思われます)有効な状態に復帰したとあります。

最後に

2021年4月1日にはすべての「停止」ステータスとなったドメイン名が「抹消」ステータスとなり、2022年1月1日にはすべての「抹消」ステータスとなっているドメイン名が廃止されることとなります。

ccTLDによっては、ローカルプレゼンス要件(ドメイン名登録者を国・地域に住所を有する組織や個人に限定する原則)[11]が定められており、例えば.jpドメイン名ではドメイン名の登録者が日本に住所を有する組織または個人であることとしています[12]が、その要件でなくなる例(ドメイン名登録者である組織または個人が日本から海外に移転/移住)は顕著ではなかったと推察されるため、今回の.euの事例はそれが比較的多数起こった事例だったと言えるでしょう。


[1] Brexit timeline: events leading to the UK’s exit from the European Union,2021年1月13日閲覧, https://commonslibrary.parliament.uk/research-briefings/cbp-7960/

[2] Johnson’s Brexit Deal Clears Parliament With Just Hours to Spare, Bloomberg, 30 December 2020, 2021年1月13日閲覧 https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-12-30/johnson-s-brexit-deal-clears-parliament-with-only-hours-to-spare

[3] No time to rest: EU nations assess Brexit trade deal with UK, AP News, 2021年1月13日閲覧  https://apnews.com/article/business-brexit-europe-global-trade-2989564cc598b790de25d7b18ac27dcf

[4] Articles of Association https://eurid.eu/en/other-infomation/articles-association/

[5] 欧州委員会について教えて下さい, 2021年1月13日閲覧, https://eumag.jp/questions/f0516/

[6] REGULATION (EU) 2019/517 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 19 March 2019 on the implementation and functioning of the .eu top-level domain name and amending and repealing Regulation (EC) No 733/2002 and repealing Commission Regulation (EC) No 874/2004; Article 13 Supervision; https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32019R0517

[7] 脚注4に同じ

[8] EU全加盟国+スイスを除くEFTA加盟国(アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン)
出典:欧州の主要枠組み https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/osce/s_kikou.html

[9] Brexit notice, 2021年1月13日閲覧, https://eurid.eu/en/register-a-eu-domain/brexit-notice/

[10] Update on Brexit-related domain names, 2021年1月14日閲覧,  https://eurid.eu/en/news/update-on-brexit-related-domain-names/

[11] ローカルプレゼンス(国内住所要件)https://jprs.jp/glossary/index.php?ID=0103

[12] 汎用JPドメイン名登録等に関する規則第8条(汎用JPドメイン名の登録資格)https://jprs.jp/doc/rule/rule-wideusejp.html

属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する規則第6条(属性型地域型JPドメイン名の種類・登録資格)https://jprs.jp/doc/rule/rule.html

都道府県型JPドメイン名登録等に関する規則第8条(都道府県型JPドメイン名の登録資格)https://jprs.jp/doc/rule/rule-prefecturejp.html