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News & Views コラム:意識されないテクノロジー

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メールマガジンで配信したインターネットに関するコラムを、このブログでもご紹介しています。2022年3月は、大阪大学 大学院情報科学研究科でセキュアなAS間経路交換に関する研究を行っている梅田直希さんに、意識されないテクノロジーについてお書きいただきました。

 


私は大学院生ですが、自分と同世代や、それよりさらに若い世代はインターネットがあって当たり前だと思っています。人によっては、インターネットがなにか意識すらしていません。意識されないテクノロジーはいいテクノロジーとどこかの誰かが言いましたが、そういう意味ではインターネットはいいテクノロジーになりました。まずは、このような素晴らしいインターネットを作り上げてこられた先人の方々に感謝申し上げます。

では、なぜインターネットは意識されない存在になったのか、なぜかインターネットの存在を意識してしまっている自分のこれまでの経験と照らし合わせて考えてみました。取り立てて書くほど特殊な経験でもありませんが、思い当たるところはいくつかあります。

私が小学校に入る前、家にはデスクトップコンピュータがありました。OSは、確かWindows Meだったと思います。そのコンピュータをインターネットに接続するために、ケースを開けて拡張ボードを取り付けているのを見ていた記憶があります。

数年後、引っ越しをした新しい家では無線接続にしようと、父親が苦労してノートパソコンの設定をしていたことを覚えています。アクセスポイントの設置用アタッチメントを先につけてしまっていたことで、底面に印刷されていた初期パスワードが隠れて見つけられず、相当時間がかかっていました。

こういったことを見ていた私は、なにか通信をするためには作業が必要であり、また無線でつなぐとすれば尋常でない労力がかかるのだという印象を持っていました。そのうち、自分のデバイスをインターネットにつなぐようになりましたが、これまでの刷り込みから、接続する前にはそれなりのタスクがあるという意識があります。

私はたまたまそういうものを見る機会がありましたが、多くの同世代やさらに若い世代は、もっと接続しやすいインターネットになってから利用するようになったのではないでしょうか。家のWi-Fiは、ボタンを長押しするだけでつながるようになりました。人によっては、すでにインターネットに接続されているスマホやタブレットから使い始めたパターンもあると思います。インターネットにつなぐ前のタスクがとても簡単なものになったり、無くなったりしました。いつでもつながっているようになり、つながっているかどうかを意識する必要がだんだんと薄れてきました。このように、接続前の一苦労がなくなったインターネットは、すでにそこにあるものとして、次第に意識されないようになったのだと思います。

時代が進み、技術が進めば、インターネットのように新たな何かがきっと意識されないようになると思います。次に意識されなくなるのは「認証」でしょうか、「検索」でしょうか、それとも「端末」でしょうか。いろんな想像はできますが、綺麗に整いすぎて意識されなくなったテクノロジーは、少し物足りないと感じている自分がいるのも正直なところです。インターネット黎明期の先人から見れば、怒られるくらい贅沢な悩みだと思います。

 


■筆者略歴

梅田 直希 (うめだ なおき)

大阪大学 大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 セキュリティ工学講座(藤原研究室)所属。RPKI、ROA/ROV、BGPsec、ASPA等、セキュアなAS間経路交換に関する研究を行う。

 

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