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第113回IETF報告 [第1弾] ~IETF 113で行われたHotRFCやBOF~

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2022年3月19日(土)から25日(金)にかけて開催された第113回IETFミーティング(IETF 113)は、会場とオンラインでの同時開催となりました。開催地は、オーストリア・ウィーンでした。WGの会合が行われる時間帯は、日本時間の18時から翌日の3時前後でした。参加者は1,300名を超えて、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ参加人数が、2年ほど経ってようやく以前のように戻りつつあります。

アプライド・ネットワーク・リサーチ賞(ANRW)

アプライド・ネットワーク・リサーチ賞(Applied Networking Research Prize)は、技術適用や応用に関わる研究に対して1年に一度ノミネート、選考され、優れたものが表彰される活動です。受賞者は、IRTFオープンミーティングで講演を行うことができ、IETFミーティングへの参加にかかる費用の支弁のほか、IETF全体会合(Plenary)で表彰されるなどします。

2021年の受賞者による発表はIETF 111、IETF 112と合わせて3回に分けて行われており、今回は以下二つが行われました。

太陽のスーパーストーム:インターネットの黙示録に備える(Solar superstorms: planning for an Internet apocalypse)

著者:サンゲータ・アブデゥ・ジョシ(Sangeetha Abdu Jyothi)

予想できないほどに強い太陽風の影響によって機材が影響を受け、インターネットで大規模な不通が発生することを指摘した研究。地上よりも海底ケーブルが、アジアよりも米国が影響を受けるとされる。

Sangeetha Abdu Jyothi (著者のWebページ)

Solar superstorms: planning for an internet apocalypse, ACM Digital Library(論文と発表動画のWebページ)

輻輳したネットワークの実験におけるバイアスの排除(Unbiased experiments in congested networks)

著者:ブルース・スパン(Bruce Spang)他

新たな仕組みを独立した系で比較するA/Bテストであっても、ネットワークにおけるアルゴリズムの比較にはバイアスがかかってしまうという指摘。そのバイアスをかからなくする提案。

Bruce Spang (著者のWebページ)

Unbiased experiments in congested networks, ACM Digital Library(論文のWebページ)

発表の動画は、IETF 113のIRTFオープンミーティングのページでも見ることができます。

 

Hot RFC

Hot RFCのRFCは、「Request for Conversation(対話のリクエスト)」の略で、IETFにおける活動紹介などが行われるセッションです。今回は、これまでのようにライトニングトーク形式に戻りました。発表タイトル訳とURLを紹介します。

アプリケーションにおける簡単なQoS対応(Easy Selection of QoS)

ドナルド・エストレイク(Donald Estlake)

詳細:https://datatracker.ietf.org/doc/draft-eastlake-dnsop-expressing-qos-requirements/

DNSのサービス識別子を使って、アプリケーションがQoSに対応する方式の提案。

コンピューター仕様のインターネット・ドラフト(Computerate Specifying: Verified Internet-Drafts)

マーク・プティハグエニン(Marc Petit-Huguenin)

詳細:https://datatracker.ietf.org/doc/html/draft-petithuguenin-computerate-specifying

インターネット・ドラフト(I-D)のペトリネットや拡張BNF (Backus-Naur Form)、HTTPの構造を自動的にチェックするライブラリ。

IEEE 802.1におけるデータセンター輻輳管理のイニシアティブ(Data Center Congestion Management Initiatives in IEEE 802.1)

ポール・コンドン(Paul Congdon)

データセンターにおける、輻輳管理に関する標準化活動を行うIEEE 802.1 WGの紹介と、サイドミーティングの告知。本WGでは、リモートDMA (RDMA)や、AI/HPC (High Performance Computing)といった技術を使って、低遅延・低損失・高信頼性のEthernetを実現する方式に注目している。

複数者署名DNSSECのためのRFCの調整(RFC Adjustments for Multi-Signer DNSSEC)

ウリッチ・ヴィサー(Ulrich Wiser)

詳細:https://github.com/DNSSEC-Provisioning

サービスプロバイダを移転する際などに利用できる複数社署名DNSSEC、一つのDNSゾーンに対して複数の署名が施されたものにおいて、異なるアルゴリズムを使うためにRFCの修正など。

産業用ネットワークにおけるPLCの仮想化(Virtualization of PLC in Industrial Networks)

キラン・マヒジャニ(Kiran Makhijani)

詳細:https://datatracker.ietf.org/doc/draft-km-iotops-iiot-frwk/

大規模な工場などで使われる、機械の制御で使われるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)の仮想化に関するアーキテクチャの提案。課題定義のインターネット・ドラフトが作成されている。

クラウドアプリケーションのための広域ネットワークの自動スケーリング(Wide Area Network Autoscaling for Cloud Applications)

ベルタ・セラカンタ(Berta Serracanta)

詳細:https://arxiv.org/abs/2109.02967

Kubernetesのような、クラウド・オーケストレータにおいて扱われるアプリケーションに、必要性に応じて帯域を自動的に割り当てるなどする提案。手法とプロトタイプシステムが、研究論文としてまとめられている。

サプライチェーンの完全性・透明性・トラスト(Supply Chain Integrity, Transparency, and Trust)

ヘンク(Henk)

詳細:https://datatracker.ietf.org/doc/draft-birkholz-scitt-architecture/

サプライチェーンに関わる証拠性、ポリシー、エンティティの正当性を検証するために、署名技術を使った枠組みに関する取り組み。

IETFミーティングへの参加に関わる航空旅程の二酸化炭素排出量(Air Flight CO2 Emissions associated to in-person IETF meetings)

ダニエル・ミガルト(Daniel Migault)

詳細:https://mglt.github.io/co2eq/

より持続可能なIETFミーティングのために、ミーティング参加者の航空機での移動による、二酸化炭素排出量をシミュレートしている。その結果、ミーティングを1年に1回にすること、国連連合環境計画と連携することなどが提言されている。

これらの一覧は「HotRFC Session Abstracts」で閲覧できます。セッションの動画は、YouTube動画「IETF 113:HotRFCs」で閲覧することができます。

 

IETF 113で行われたBOF

IETF 113では、三つのBOFが開かれました。

コンピューター資源の最適化に配慮したネットワーク(Computing-Aware Networking)

詳細:https://datatracker.ietf.org/meeting/113/materials/slides-113-can-chairs-slides-05
情報:https://datatracker.ietf.org/group/can/about/

ネットワークリソースの最適化だけでなく、メモリやCPU処理といったコンピューター資源の、最適化に配慮するネットワークの議論です。WG設立ではなく、ディスカッションを目的としたBOFです。

QUICを使ったメディア(Media Over QUIC – MOQ)

詳細:https://datatracker.ietf.org/meeting/113/materials/agenda-113-moq-06
情報:https://datatracker.ietf.org/group/moq/about/

ライブのストリーミングや音声や映像の配信のために、QUICを利用することに関するユースケースの紹介などを通じた、議論のためのBOFです。

ドメイン内とドメイン間の送信元アドレス検証(Source Address Validation in Intra-domain and Inter-domain Networks)

情報:https://datatracker.ietf.org/group/savnet/about/

RFC5210に記述されている、送信元アドレス検証のアーキテクチャ(source address validation architecture – SAVA)は、BGPで言われるドメイン間やアクセスネットワークなど、さまざまなレベルで適用可能です。より厳格に検証するなどの、要件を想定した仕組みが提案されています。

会場とオンラインの同時開催の様子

IETF 113は、ここ2年の開催形態とも違っていました。現地参加者もオンラインツールであるMeetEchoに表示され、現地とオンラインが、少なくともオンライン参加者にとってはシームレスな形になっていました。そのため、現地での参加方法が動画で解説されていました。

Tips for IETF 113 Participants

今後のいわゆる「ハイブリッド」開催されるイベントは、現地参加者とオンライン参加者が互いにどのように見え、どのように関わるものになるのか、IETF 113にあったように、工夫されていくように思いました。

 

IETF 113報告会開催のご案内

IETF 113をはじめとして、旬の話題や議論の動向などをお届けするため、Internet Society日本支部と一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターの共催で報告会を開催いたします。本報告会は、IETF 113の話題に限定せずに中期的な視点で取り組みが必要となりうる技術動向の情報交換・意見交換に重点を置いています。

本イベントは無料で、どなたでもお申し込みいただけます。参加をご希望の方は、下記のWebページよりお申し込みいただきますようお願いいたします。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

IETF 113報告会 – 中期的な動き – 開催のご案内
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2022/20220513-01.html

次回の第114回IETFミーティング

次回の第114回IETFミーティングは、2022年7月23日(土)から29日(金)に、米国・フィラデルフィアで行われます。

 

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