News & Views コラム:インターネットの信頼とは
pr_team Internet Week コラムメールマガジンで配信したインターネットに関するコラムを、このブログでもご紹介しています。2022年10月は、2022年11月21日(月)から30日(水)の7日間で開催する「Internet Week 2022」のプログラム委員としてプログラム作りに参加していただいている、ニフティ株式会社の佐竹茂さんに、「インターネットの信頼とは」と題してコラムをお書きいただきました。Internet Week 2022では、インターネットの信頼とは何であるのかを議論するセッションもございますので、ぜひご参加ください。
「父 母 兄 無事 叔父無事 親族A家全員行方不明 近所B家不明 (高台の)学校破壊 市街地何も無し 生存感謝申し上げます」
発災から4日目の2011年3月14日朝6時24分、東京の自宅にあるテレビの前で憔悴し切った私に、ezweb.ne.jpのアドレスからメールが届きました。メールは何度か送受信できましたが、暫くして通じなくなりました。道路は寸断されて市街地には入れないこと、家は土台から流され跡形も無いこと、このメールは借りた車で峠をいくつか越え、内陸の街に向かっている途中アンテナが立ったので送ったこと、市内は電話もメールもまったく通じないこと、とりあえず衣食はなんとかなるが、ガソリンと現金がまったくないこと、などを話しました。ガソリンを個人で送るのは無理なので、とりあえず当面の現金を用意すると伝えました。ネットバンキングでいくばくかのお金を送り、「当面は現地に入るのは無理だな。水もコメも送れないがネットがあればカネは送れるものだな」と考えたりしました。
Twitterの発信で救助される例が報じられ、程なくLINEがサービスを開始し、誰でも使えてスピード感があるインターネットは復興支援活動を大いに支え、便利なツールとして認識されました。誰が言ったわけでもないでしょうが、「インターネットというのは素晴らしいものだ」という意識が個人、社会に醸成された契機であったように思えます。
それから10年ちょっと経ちました。インターネットは重要な基盤として、より生活に欠かせないものになりました。ありがたさを意識することは少なくなり、むしろ通信障害が発生したときには「叱咤激励」されたり、「ネットがあるから権利が侵害される」と言われたりするようになりました。学校で配られるSNSについてのパンフレットや、駅貼りのインターネット詐欺の警告ポスターを見ると「そんなリスクばかりを煽らなくてもいいのに」という気になりもします。
この1~2年ほどを振り返ってみても、社会の不安が大きくなる事象が続いているように思えます。それにつられて、インターネット上に流通する情報も、根拠が怪しいもの、不安を煽るもの、攻撃的なものが増えてきているように感じられます。インターネットの信頼は揺らいできているのでしょうか。
あの時僕たちは、何かを信じていたような気がするのですが、人が作り、人が運用するものである以上、よくするのも悪くするのも人なのでしょう。インターネットに対して感じていた漠然としたあの信頼は、幻想だったのでしょうか。
飛行機がなぜ飛ぶのかを理解して乗る人は少ないでしょう。とはいえ、漠然としたものであっても、何らかの信頼が無ければ飛行機に乗るのは躊躇(ためら)うでしょう。飛行機然り、原発然り、ワクチン然り。専門的に理解しているわけではないけれども、このような「漠然とした信頼」は社会をワークさせるために必要不可欠なもののように思えます。これは、技術がもたらすのでしょうか。それとも、誰か権威ある人の言葉によるものでしょうか。
もうすぐ「Internet Week 2022」が開催されます。あらためてインターネットの信頼とは何か、これからどうあるべきかを考える「羅針盤」になることを期待します。
■筆者略歴
佐竹 茂 (さたけ しげる)
一級知的財産管理技能士(コンテンツ)、AIPE認定 知的財産アナリスト(コンテンツ)。2018年、ニフティ株式会社入社。法務、権利侵害対応、プロバイダ責任制限法等の業務に携わる。JAIPA行政法律部会員およびインターネットユーザー部会員、テレコムサービス協会サービス倫理委員会副委員長。Internet Week 2021、2022プログラム委員。