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インターネットガバナンスフォーラム(IGF)2022速報

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政策主幹の前村です。2022年11月28日 (月) から同12月2日 (金) まで、エチオピアの首都アディスアベバでインターネットガバナンスフォーラム(IGF)の第17回となる2022年会合 (以下IGF2022) が開催されました。会場は、アフリカ経済委員会(ECA)に併設されている、アディスアベバ国際連合会議センター (UN Conference Centre in Adis Ababa, UNCC-AA, 写真) です。昨年に引き続きハイブリッド開催が打ち出されましたが、現地に赴いて参加しました。サマリーレポートでは、170ヵ国/地域から5,120名の参加者が、オンライン、オンサイト含めていたということでしたが、おそらく現地には2,000名程度いたのではないかと思います。アフリカ大陸での開催ということで、アフリカの参加者が44%に上ったようです。ここでは現地の様子とともに、いくつかのセッションの様子をご紹介します。

全体テーマ、テーマトラック、セッション種別

全体テーマ(Overarchng Theme)として掲げられたのは、「Resilient Internet for a Safe, Sustainable and Common Future (安全で持続的な共通の未来のための復元性のあるインターネット)」ということで、IGF2021(ポーランド・カトヴィツェ) の「Internet United」に比べると長くなっているところに、インターネットへの要請の高さが現れているのかもしれません。昨年に引き続き、テーマによるカテゴリ分けがなされ、以下の5つのテーマが設けられました。

  • Connecting All People and Safeguarding Human Rights (すべての人々をつなぐ・人権の保護)
  • Avoiding Internet Fragmentation (インターネット分断を防ぐ)
  • Governing Data and Protecting Privacy (データの制御とプライバシーの保護)
  • Enabling Safety, Security and Accountability (安全、セキュリティ、説明責任の実現)
  • Addressing Advanced Technologies, including AI (AIを含む先端技術への対処)

IGFで議論される課題の分類分けとしては、方向性が適度に分散していてバランスが感じられますが、その中で「インターネット分断を防ぐ」だけは具体的で、2022年を象徴するテーマのように思います。IGFのプログラムは、マルチステークホルダー諮問委員会 (Multistakeholder Advisory Group) が主となり編成されますが、5つのテーマに対してMAG自身が編成を行うメインセッション、政府や団体が応募して編成するオープンフォーラム、コミュニティからの応募によるワークショップ、オープンスペースで短時間の発表を多数行うライトニングトークといった編成方法の違い、NRI (National Regional IGF Initiative) や ユース向けに割り振られたセッション、ベストプラクティスフォーラム (BPF) 、ダイナミックコアリション (DC)、ポリシーネットワーク (PN)といった継続的協調活動のセッション、これに加えて開会閉会のセレモニーやハイレベルセッションなど実にさまざまで、Day0からDay3までの4日間で実に300セッション以上開催されました。全体スケジュールがスプレッドシートでご覧になれますが、ほぼ常に10セッションが同時並行で開催される形になります。従って、参加するセッションを厳選して参加計画を立てる必要があります。今回私は、2022年の1年間いろいろなところで登壇してお話をしたインターネット分断のテーマや基盤運営の問題を中心に、さまざまなテーマや種別のものに参加するように心掛けました。

オープニングセレモニー

オープニングセレモニーでは、国連から、ECAの事務総長補、Antonio M.A. Pedro氏、経済社会局長に2022年7月に就任した Li Junhua氏と、ビデオメッセージで、Antonio Guterres事務総長、そしてエチオピアのAbiy Ahmed Al首相(写真)の4名から開会の挨拶がありました。Al首相からは、16年ぶり3回目となるアフリカ大陸におけるIGF開催を歓迎するとともに、デジタルエチオピア2025に託した発展への願いが示されました。

続いて、UNESCO の Jelassi氏、ITU次期事務総長 Bogdan-Martin氏、IGFリーダーシップパネル議長としてVint Cerf氏、アフリカ連合委員会議長のMahamat氏、国連事務総長技術使節 (Envoy on Technology) のGill氏、ICANN事務総長のMarby氏がスピーチを連ねました。

いくつかのセッションから

私が、一部だけのものも含んで参加したセッションを数えたところ、16セッションありました。その中でも特に印象深いものをご紹介しようと思います。

一つ目はオープニングセレモニーよりも前、Day0最後に90分で行われた、Day 0 Event #68 Understanding Internet Fragmentation: Concepts and their Implications for Action (インターネット分断を理解する:概念とその影響)です。このセッションでは、Bill Drake氏が全体のモデレータ、Anriette Esterhuysen氏が会場のモデレータを務め、Milton Mueller氏、Wolfgang Kleinwaecheter氏、Andrew Sullivan氏といった論客が一堂に会してインターネット分断について語るというものです(Drake、Mueller、Sullivan各氏は遠隔登壇でした)。セッションは、タイトルにもあるようにインターネット分断を理解するために、経緯や背景を総ざらいにするようなものでした。技術的にはグローバルに単一なインターネットを志向していること、BBSのようなプラットフォームは消え行き、インターネットに取って代わられたこと、この志向性が1990年代から2000年代には公共政策にも影響を与えていたこと、しかし現実には200に上る国がそれぞれの政策を持ち得ること、2000年代にはDNSの分断であるオルタナティブルートの動きがあったが、阻止されたこと、インターネット分断にはさまざまな形、分断点(技術、事業、国家)、程度があり得ること、などなどに触れられました。パネリストには他に、IGFの継続活動の一つであるポリシーネットワーク(PN)で、インターネット分断に関するPNの共同コーディネータを務めるSheetal Kumar氏や、中国伝媒大学のXu Peixi氏からも別の観点からの質問やコメントがなされ、それに対してDrake氏や他のパネリストからの補足説明がなされました。私はInternet Week 2022の「C31 スプリンターネットを読み解く」というセッションで、2022年中に他のカンファレンスで議論してきたインターネット分断について整理を試みたのですが、このセッションのパネリストたちの記述や形容は、私の整理の線上にあることが確認できました。

同じインターネット分断のテーマでたくさんのセッションが開催されました。WS #475 Balancing Digital Sovereignty and the Splinternet(デジタル主権とスプリンターネットのバランス)にも、Mueller氏とKleinwacheter氏が登壇していますが、こちらはユースが企画したセッションで、ユースのオーガナイザーたちが立派にセッションを切り盛りしている姿が印象的でした。また、中国人女性とみられる参加者が、「言論の自由は絶対権ではなく相対権なので、適用は条件による」とコメントしたのに対して、Mueller氏が「定義としては正しいが、それは実態としては検閲の言い訳に使われているのではないか」と落ち着いて切り返すなど、対立も垣間見えたセッションでした。

[NRIs] Multistakeholder and multidisciplinary modus operandi of Internet governance: 20 years after the original WSIS where are we?(インターネットガバナンスのマルチステークホルダー・多領域の手法:WSISから20年、我々はどこにいるのか)は、さまざまなNRIがその経験を踏まえた課題を共有するというセッション。ブラジルインターネット調整委員会(CGI.br)のFlavio Wagner氏は、CGI.brを中心に組織立ても確立したブラジルの手法を紹介。Australia IGFのCheryl Langdon-Orr氏は、2012年から2016年までAUIGFとして活動していたが資金が途絶えたことで中断し、2018年から改めて仕切り直したなどの活動の歩みを紹介。Asia Pacific Youth IGFのJenna Fungは、AP地域の中でもサブ地域ごとに若者の特質が異なることや、若者が公共政策に提言する場合の課題等を共有しました。

IGF2023は京都で10/8(日)から12(木)

今回アディスアベバに乗り込んだのは、セッションを追うだけでなく、日本開催となる来年のIGF2023のプロモーションのために、ブース出展をすることがもう一つの理由でした。ブースには、コンベンションビューローや会場の京都国際会館のご協力で、ピンバッジやポストカードなどのノベルティを配置して、訪問客に配るとともに、場所と会期を示したカードを配って、QRコードからアクセスしてニーズ調査へご協力していただけるようお願いしました。おかげさまで持ち込んだノベルティはほとんどなくなってしまい、会議場でも舞妓さんの絵が付いたピンバッジをつけている参加者をたくさんお見掛けすることができました。

最終日Day3のクロージングセレモニーでは、松本剛明総務大臣のビデオメッセージによって、京都開催が正式発表されました(ブース出展はDay0から行っていましたが、この正式発表までは「公然の秘密」という状態だったわけです)。また、週が明けて12月5日には、総務省から報道発表が行われました。

 

おわりに

以上速報として現地の様子をお伝えしました。セッションに関してほんの少ししかお伝えできませんでしたが、IGFは記録群がしっかりしているので、後からご覧いただくことができます。現在のところ、速記録に関しては大部分のセッションに対して提供されていますが、セッションレポートはまだまだ、YouTubeアーカイブに関しては、1日通しのものに留まっていることが多いようですが、徐々に整備されていくものと思われます。また、IGF2023に向けた国内IGF活動活発化チームでは、IGF2022の報告会のようなものを開催するべきだという議論が始まっていますので、またその時に様子をお伝えすることができると思います。

私にとって、エチオピアは初めての訪問でした。現地の食事は野性味あふれる味付けが多いですが、野菜などおいしく食べられました。感心したことは、通りがきれいなことです。現代的なメインストリートだけでなく、民家が並ぶ素朴な通りでも、毎日道路を掃く方がいて、ごみが落ちていません。人々の振る舞いに、何となく日本人に通ずるものを感じました。

次回のIGF2023は、京都開催です。IGF2023に向けた対応方針を考えていく、日本IGFタスクフォースも発足し、ローカルホストの日本政府だけでなく、民間でもIGF2023を盛り上げていきたいと考えています。できるだけたくさんの方々にIGF2023にご参加いただけるように、これから1年間、いろいろな情報をお伝えしていくと思いますので、ご注視願います!

 

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