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第115回IETF 参加報告 [第1弾] -全体概要・IABの動向ほか-

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2023年3月に横浜で開催されるIETFミーティングの直前回となる第115回IETFミーティング(IETF 115)が、イギリスのロンドンで開催されました。期間は2022年11月5日(土)から11日(金)の1週間で、現地開催かつリモート参加が可能なハイブリッドです。本稿では、IETF 115の全体概要・全体会合・IABの動向と、筆者の観点でピックアップした話題をお届けします。第2弾ではHotRFCを取り上げます。

会場となったヒルトン・ロンドン・メトロポール
IETF 116の開催前に現地開催の様子をみるため現地で参加しました。

全体概要

IETF 115は、現地参加者数とリモート登録者数が合計で1,600名を超え、新型コロナウイルス感染拡大の状況が始まる前の水準に戻ってきました。参加者の属する国ごとの参加者数は、米国、イギリス、中国、ドイツ、日本の順に多く、開催地の国が第2位になるなど、現地開催が行われていた頃の様子に近付いています(図1)。

各回の参加登録者数を示す棒グラフ。筆者集計。
図1 IETFミーティングは1年に3回行われている。参加登録者数は新型コロナウイルス感染拡大の前の水準に戻ってきている。

日本からの参加は10年ほど前よりも低迷していますが、今回は現地参加の人数が増えました(図2)。

日本からの参加登録者数の推移を示す棒グラフ
図2 10年ほど前に比べると低迷しているが今回は現地参加と合わせて前回よりも増加した。

IETFの1週間は、毎回、表1のような構成になっています。WGの会合の前の土曜日と日曜日には、ハッカソン、コード・スプリント、チュートリアルが行われます。ハッカソンはグループで実装や相互運用実験などを行う登録制のイベントです。各自が持ち寄った実装を動作させて相互に接続できるかどうかを試すといった活動が行われています。コード・スプリントは、IETFで使われているDatatracker等のツールのプログラミングや改善を行う会合です。チュートリアルはIETFの考え方や参加の仕方などの簡単なセミナーです。

表1 IETFミーティングの一週間

11/5(土) ~ 11/6 (日)

  • ハッカソン(Hackathon)
  • コード・スプリント(Code sprint)
  • チュートリアル(Tutorial)
  • IEPGミーティング
  • ウェルカム・レセプション(Welcome reception)

11/8(火)
(プレナリーの前日)

  • ソーシャル・イベント

11/9(水) 日本時間では11/10(木)

  • プレナリー(IETF Plenary/全体会合)

11/7(月) ~ 11/11(金)

  • WG会合
  • BoF
  • サイド・ミーティング(Side-meeting)

IEPGミーティングはIETFミーティングへの登録なしで参加できる会合で、運用や研究といったさまざまな観点の発表が行われます。ウェルカム・レセプションは立食形式のパーティで、WG会合が始まる前に現地入りした参加者同士のあいさつや懇親のために行われます。HotRFCのRFCは、Request for Conversations の略です。一緒に相談をしてくれる人を募ったり、サイドミーティングへの参加を呼びかけたりするなどの講演が、ライトニング形式で行われる会合です。

全体会合(Plenary)より

全体会合ではまずIETFチェアから参加人数などの発表の後、今回や今後のIETFミーティングについて話されます。続いてIABやIRTFのチェアから活動報告や告知が行われます。

IETFミーティングでは毎回新型コロナウイルスの感染例が報告されていて、IETFチェアのラース・エガート(Lars Eggert)氏によるとIETF 115では4例あり、2022年7月のIETF 114は17例、2022年3月のIETF 113は9例とのことでした。IETF 115では、抗原検査キットが無料で配布されており、参加者自身で検査できるようになっていました。

エガート氏によると、2023年のIETFミーティングでは、お子様を連れてIETFミーティングに参加できるように託児サービスが用意されるとのことです。横浜で開催されるIETF 116でも用意される模様です。

IETF 115のPlenaryの様子は以下で見ることができます。

インターネットの地球環境への影響に関するIABワークショップ

IABチェアのミラ・キューレビント(Mirja Kühlewind)氏から、2022年12月5日(月)から12日(月)にかけて行われるワークショップ「インターネットのアプリケーションとシステムの環境への影響 ワークショップ(IAB workshop on Environmental Impact of Internet Applications and Systems)」の紹介がありました。ワークショップはポジションペーパーの投稿を受け付け、その内容に応じてグループ分けをして議論が行われます。このワークショップの趣意やアジェンダ、採録されたポジションペーパーは下記のサイトで閲覧できます。

最近、公開されたAPNIC Blogで詳しい内容が紹介されていました。セッションごとのスライドと録画が見られます。

セッション1:ビッグピクチャー(The Big Picture)
セッション2:分かっていることは?(What Do We Know?)
セッション3:改善(Improvements)
セッション4:次のステップ(Next Steps)

話題 -いまのインターネットは何バイトまでのIPv6 拡張ヘッダーであればパケットは届くのか-

最後に、IETF 115期間中のミーティングの中から筆者が選んだ話題をお届けします。

IETFミーティングの前に行われるIEPGミーティングで、IPv6拡張ヘッダーに関する調査研究の発表が3件ありました。IPv6拡張ヘッダーは、IPのヘッダーとしてさまざまなものを加えていくことのできるもので、経由ノードを指定するなどいろいろな機能を実現するために利用できる便利なものと言えます。しかし、インターネットにつながるネットワーク機器は、必ずしもIPv6拡張ヘッダーを期待通りに扱えるとは限りません。場合によっては宛先まで届かないことがありえます。果たしてどのような拡張ヘッダーを付与してもそのIPv6のパケットは届くのでしょうか。

一つ目の発表は「インターネットを通るIPv6拡張ヘッダーテストへのディープダイブ」(Deep Dive into IPv6 Extension Header Testing Across the Internet)で、ムンバイとトロントの間でファイル転送を試み、CDNの有無やサーバからのIPv6パケットに拡張ヘッダーが付いているかどうかなどが調査されました。IPv6かと思いきやIPv4で通信していた、といった拡張ヘッダー以外の出来事も発表されていました。

二つ目の発表「IPv6拡張ヘッダーの伝送エッジの計測」(IPv6 EH Traversal Edge measurements)と三つ目の発表「もう一つのIPv6拡張ヘッダー計測」(Another IPv6 EH measurement )は、拡張ヘッダーが到達性にどのように影響するかに関する調査結果です。

「IPv6拡張ヘッダーの伝送エッジの計測」では、拡張ヘッダーに付ける宛先オプション(Destination Option)やホップバイホップオプション(Hop-by-Hop Options)を使って拡張ヘッダーのサイズを変化させてパケットを送信し、RIPE Atlasのプローブを使ってドロップされたかどうかを観測しました。その結果、TCPでは40バイト以下、UDPでは48バイト以下であれば届きやすかったようです。

「もう一つのIPv6拡張ヘッダー計測」はAPNIC Labsで行われたもので、Webブラウザによる不可視のWebデータのダウンロード・コネクションを使って、フラグメンテーションや拡張ヘッダーの付与など複数の要素を元にパケットがドロップする割合を国別に調査しています。ネットワークの形態や使われやすい機器が異なるのか、国ごとに異なる様相が見られます。地図上に表したドロップ率などは、下記の発表資料をご覧いただければと思います。

          ◇          ◇          ◇

次回のIETF 115 参加報告 [第2弾]では、HotRFCの話題をお届けします。

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