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APrIGF 2023報告

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2023 Asia Pacific Regional Internet Governance Forum (APrIGF 2023)はオーストラリア、クイーンズランド州ブリスベンで2023年8月29日から31日にかけて、オーストラリアの国コードトップレベルドメイン名(ccTLD)レジストリである.au Domain Administration (auDA)のホストで開催されました。今回もハイブリッドイベントとして企画運営されており、事前に申し込めばオンラインで発言も含め参加でき、終了後も録画が公開されています(議員トラックを除く)。現地参加者数は250名以上、オンライン参加者は1,000名以上あったということです。

会期中には次の同時開催イベントが開催されました。8月28日(月)にはオーストラリアの国別IGFであるNetThingの第5回年次会合、およびAPrIGFの若者向けの能力開発セッションが開催されました。 31日から翌9月1日にかけてはAPrIGFの議員トラック(Parliamentary Track)が開催されました。9月1日の議員トラックの冒頭には、国光総務大臣政務官からのビデオメッセージによる挨拶があり、その後のセッションでデジタル庁の方よりDFFTに関する説明があったとのことです。これらイベントの重なり具合は、APrIGFのプログラムページでご確認いただけます。

先住民に対する配慮ということなのでしょうか、NetThingの開会式でも、APrIGFの開会式でも、地元のヤグラ(Jagera/Yuggera)族の方の挨拶がありました。ちなみに2023年10月14日には、先住民に関する事項について、立法府および行政府に対して意見を述べることができる団体を設置することで先住民について認知する、という内容を憲法に追加することの是非を問う国民投票が行われることになっているそうです。

ヤグラ族の方のスピーチ。手に持っているのは尺八を大きくしたような楽器

テーマ

2023年の全体テーマは次の通りです。

Emerging Technologies – Is Asia Pacific Ready for the Next Phase of the Internet?
新興技術 – アジア太平洋地域はインターネットの次の段階に対して準備ができているか?

後ほど説明する統合文書では、人工知能(AI)、拡張/仮想現実(AR/VR)、モノのインターネット(IoT)、ロボット、ビッグデータおよび第5世代移動通信システム(5G)が新興技術の例として挙げられています。

テーマトラックは以下の3つとなりました。テーマトラック名の後に関連する本会合のセッションの数を記載しました。

  • アクセスおよび包摂(Access and Inclusion) 13セッション
  • 持続可能性(Sustainability) 5セッション
  • 信頼(Trust) 11セッション

セッション

APrIGF 2023のセッションは2023年4月13日から5月14日まで募集され、マルチステークホルダー運営グループ(Multi-Stakeholder Steering Group, MSG)中のプログラム委員会(Program Committee)により選定された後、6月23日に選定結果が発表されました。86件あったセッション提案から、34セッションが選定されました。

質問用のマイクに並ぶ参加者

統合文書

APrIGFの成果文書として毎年作成されている、統合文書(Synthesis Document)は今年も作成され、草稿0版については8月21日から9月3日までコメントが募集されました。会期中8月29日と30日にそれぞれ本文書向け意見発表の場としてタウンホールセッションが開催されました。前書きに続き、各テーマトラックについての記載および関連するセッションのまとめが記載されています。今後、コメントを盛り込んだ草稿1版が9月下旬に公開され、意見募集およびその反映の後、10月上旬に公開予定となっています。

マルチステークホルダーインターネットガバナンスの進化に関するセッション

34ものセッションをすべて理解して本稿に記すことは無理ですので、「次の段階のインターネットのためのインターネットガバナンスの進化(Evolving Internet governance for the next phase of the Internet )」というセッションに焦点を当てたいと思います。本セッションでは、インターネットガバナンスの在り方を根底から変える可能性のあるグローバルなプロセス、グローバルデジタルコンパクト(GDC)に対して、我々はオープンなコミュニティおよびマルチステークホルダーが主導するインターネットガバナンスモデルが重要であることを主張する必要がある、ということが主題として挙げられていたと思います。GDCでは別のプラットフォーム(デジタル協力フォーラムDigital Cooperation Forumなど)が必要としていますが、本当にそうなのか、GDCを決定するのは国家(が多国間プロセスで討議)であり、ほとんどの国は自国のフォーラムで議論をしていない。そのような話し合いが行われる場を新たに作るよりも、IGFのような組織が必要である、という主張がパネリストよりありました。また、GDC中で技術コミュニティがステークホルダーとして認識されず、市民社会の一部と見なしていることに対し、異議を唱え、市民社会と同様、技術コミュニティがマルチステークホルダーシステムの重要なステークホルダーであることを認識し、それを変更するような動きは見過ごすべきではない、という意見もパネリストより出ました。また、40ヶ国以上が各国でインターネットに関する国内法を制定しているという統計があり、分断の危険性をはらんでいるためマルチステークホルダーによる話し合いのプロセスも必要である、という意見もパネリストより出ました。

「次の段階のインターネットのためのインターネットガバナンスの進化」セッションの様子

考察

AIについてのセッションが多くなるのではないかと思っていましたが、結果的には2セッションとなり、さまざまな分野について議論するバランスの取れたイベントになったと思います。分野の例としては、インターネットガバナンスそのもの、国際化ドメイン名(IDN)、データセキュリティ、コンテンツモデレーション、さまざまなデジタルスキルレベルを持った利用者に対する技術の開発、デジタル包摂、デジタルトランスフォーメーションと文化および先住民の知識の保護、デジタル技術の持続性などが挙げられます。先に挙げたように、GDCについても議論されており、重要な点はすべてカバーされたのではないでしょうか。

 

最後に

クロージングでは総務省国際戦略局の飯田陽一氏が、1ヶ月と少し先に開催が迫ってきたIGF 2023の開催国である日本の政府を代表して挨拶されました。2024年のAPrIGFの開催地については、.asia理事かつNRO NC/ICANN ASO ACメンバーのNicole Chan氏より台湾・台北が開催地となった旨発表がありました。

遠隔より挨拶を行う飯田氏

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