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IETFアップデート – 第117回IETF [第1弾] 全体概要

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横浜で開催された第116回IETFミーティング(IETF 116)の次の会合であるIETF 117は、米国・サンフランシスコで行われました。2023年7月下旬の開催で4ヶ月ほど経っていますので、本稿では、IETF 117の様子だけでなく、IETF 117での動向について書かれたブログ記事などを紹介します。前半の新たなWG会合やBOFについては、IETF Blog「IETF 117ハイライト」/ IETF 117Highlightsを参考にしていますので、併せてご覧いただければ幸いです。

IETF Blog – IETF 117 ハイライト / IETF 117 Highlights

■ 全体会合より

IETF 117は、横浜開催のIETF 116よりも若干参加登録者数は減少しましたが、1,578名と新型コロナウイルス感染拡大の状況が始まる前の水準に戻っています。日本からの参加登録者数は63名と横浜開催の前の水準に戻り、WIDEプロジェクトやJPNICのフェローシッププログラムを通じて参加した人も現地参加していました。IETF 116で本格的に行われたチャイルド・ケア・プログラムは、IETFミーティング会場に専属のスタッフがいる託児所を設けるもので、全体会合ではIETFミーティング参加者から同プログラムに対して寄せられた声が紹介されていました。

■ 新たなWGの会合

IETF 117では、新たに設立されたWGの最初の会合が四つ行われました。簡単に紹介します。

〇BPF(*1) WG

LinuxやMicrosoft Windowsで採用されている、パケット解析の仕組みの標準化のための議論を行うWG。インストラクション・セット・アーキテクチャ(ISA)・BPFタイプフォーマット(BTF)・BPFのクロスプラットフォーム等が論点となっている。

趣意書:https://datatracker.ietf.org/wg/bpf/about/

(*1) かつてはBerkeley Packet Filterの略語として使われていたBPFですが、趣意書においては「何の略語でもない」とされています。

〇輻輳制御(Congestion Control) WG – CCWG

TCPや関連するトランスポートプロトコルにおける輻輳制御に関するWG。RFC5300(新たな輻輳制御アルゴリズムを使用するためのガイド)の更新や、広帯域化・堅牢化(タイマー・再送)・初期(incipient)輻輳・永続する輻輳(persistent congestionの回避などを議論する。

趣意書:https://datatracker.ietf.org/wg/ccwg/about/

〇ネットワーク・インベントリYANG WG / Network Inventory YANG – IVY WG

製品名、ベンダー、製品シリーズ、組み込みソフトウェア、ハードウェア/ソフトウェアのバージョンなどの情報を管理システムでカタログ化し、ネットワーク管理等で利用できるデータモデルなどを議論する。

趣意書:https://datatracker.ietf.org/wg/ivy/about/

〇オーディオ・コーデックのための機械学習 / Machine Learning for Audio Coding – MLCODEC WG

IETFにおいて標準化された非可逆のオーディオ圧縮形式であるOpus(オーパス)において、伝送中のパケットロスから素早く音質回復できる”ディープ冗長化”技術(Deep Redundancy – DRED)を盛り込むなどの新たな枠組みを扱う。

趣意書:https://datatracker.ietf.org/wg/mlcodec/about/

■ 開催されたBOF

BOF (*2)は特定のテーマについて、WGとしてではなく議論される会合です。WG設立の前に、IETFで十分な注目が得られ活動の目途が立つかどうかを測るために行われたり、WG設立を前提とせず、純粋にIETFにおける議論の様子を見たりするために行われることがあります。IETF 117では、新たなBOFが二つ行われました。

(*2) 以前はBoFと表記されていましたが、近年、IETFのWebページでBOFと表記されるようになりました。本稿でもこれに従って表記します。

以下、簡単に紹介していきます。詳しくは参照先をご覧ください。

〇意図しない位置追跡の検出BOF / Detecting Unwanted Location Trackers (DULT) BOF

Bluetooth等を使う小さなデバイスを使って他者によって位置の追跡が行われてしまうことに対する検出技術。IETFで議論すべきか、何に取り組むべきかについてのBOF。IETF 118でも開催予定。

趣意書案:https://datatracker.ietf.org/group/dult/about/

〇鍵の透明性BOF / Key Transparency (KEYTRANS) BOF

エンド・ツー・エンド暗号化通信で使われるIDと公開鍵の組み合わせ(バインディング)の検証可能性を提供する仕組みについてのBOF。この後、WGとなり、IETF 118では第1回会合が行われる予定です。

趣意書案:https://datatracker.ietf.org/doc/charter-ietf-keytrans/

■ IETF 117トピック

IETF 117全体の中で筆者がピックアップした話題をご紹介します。

〇ランダム化されるMACアドレスに関する情報整理

MAC (Media Access Control)アドレスはデータリンク層のアドレスで、IEEE登録機関(RAC)においてグローバルに一意になるように登録されるものです。ネットワークインタフェースのベンダー等に静的に割り当てられ、各ベンダーが各デバイスに固有なアドレスとして付与します。しかし、近年、静的なアドレスがプライバシーに関する懸念を起こすとされ、ランダム化され変更されるMACアドレス(RCM – Randomized and Changing MAC)が使われるようになっています。

MADINAS (MAC Address Device Identification for Network and Application Services) WGは、IEEEの802グループと協力しつつ、各プロトコルにおけるRCMの扱いについて議論しています。IETF 117では、DHCPの使われる場面ごとに、OpenRoaming、802.11bhや802.11biといった技術がソリューションになり得るかといった整理やOSごとの対応状況について情報共有が行われるなどしていました。OpenRamingを使った実装の、実験結果についての発表もありました。

Agenda IETF 117:madinas
https://datatracker.ietf.org/doc/agenda-117-madinas/

〇ID管理システムに関するヒューマン・オリエンテッドな議論

OpenIDなどで知られるID管理に関わるシステムは、クラウドサービスを使ったシステムにおけるセキュリティを担うとともに、さまざまなサービスやアプリケーションにおける中心的な要素として扱われることがあります。しかし、ID管理の仕組みは、歴史的にもそのアーキテクチャとしてもさまざまで(*3)、IETFとして関連する団体と重複する活動を行っているのではないか、といった懸念があります。

インターネット・アーキテクチャ・ボード(IAB)- アイデンティティ・システムに関するヒューマンオリエンテッドな全体論的な議論
Internet Architecture Board (IAB) – Wholistic Human-Oriented Discussions on Identity Systems (WHODIS)

(SAAGミーテングにおける発表資料)
https://datatracker.ietf.org/meeting/117/materials/slides-117-saag-whodis

(*3) 挙げられている標準:X.509、LDAP、Kerberos、RADIUS、SAML、OpenID、OAuth、OpenID Connect、SCIM等IABではこのID管理に関わる仕組みに関するディスカッション・プログラムを行っており、今後、用語の整理を行ったり、IABワークショップを開催したりするなどして、用語の整理や重複する活動の整理などを行うとしています。

Proposed program on Wholistic Human-Oriented Discussions on Identity Systems (WHODIS)
https://github.com/intarchboard/proposed-program-whodis/blob/main/README.md

■ IETF 117に関するブログ記事

IETF 117の後、読み応えのあるブログ記事がいくつも公開されています。そのうちの一部をご紹介いたします。ブラウザの翻訳機能などを利用すると、日本語で読むことができます。

IETF 117 post-meeting survey, Jay Daley, IETF Blog
https://www.ietf.org/blog/ietf-117-post-meeting-survey/

– IETFミーティング参加者に対して行われるアンケートの結果をまとめたもの。開始時刻といったプログラム構成については最近高評価が続いている模様。

Approaching the IETF – A View from Civil Society, Dan Sexton, RIPE Labs
https://labs.ripe.net/author/dan-sexton/approaching-the-ietf-a-view-from-civil-society/

– インターネット監視財団(Internet Watch Foundation)からの参加者が、IETFミーティングへの参加について経験談や考察をまとめたブログ。市民社会としてのありようについても述べている。

IEPG at IETF 117, Geoff Huston, APNIC Blog
https://blog.apnic.net/2023/08/03/iepg-at-ietf-117/

– APNICのジェフ・ヒューストン氏の記事。IETFミーティングで併催されるIEPGミーティングの内容詳細を紹介している。


第2弾では、リアル開催のIETFに初参加したJPNICスタッフの振り返りをお届けしています。

IETFアップデート – 第117回IETF [第2弾] 参加報告 ~リアルIETF初参戦から得た気づき~

この次の会合となるIETF 118は、2023年11月4日から10日にかけて、チェコ・プラハで開催されました。IETF 118の報告についても、準備ができ次第お届けする予定です。

 

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