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News & Views コラム:真実の世界

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メールマガジンで配信したインターネットに関するコラムを、このブログでもご紹介しています。2023年10月は、インターネット上での迷惑行為や不正行為にあたるAbuseに関する業務に従事しておられ、Internet WeekをはじめとしたJPNICの活動にも大変ご協力いただいている、さくらインターネット株式会社の山下健一さんにお書きいただいたコラムでした。「Abuse窓口」のお仕事を通じて感じられている山下さんの視点は、大変示唆に富んでいます。

 


スタンフォード大学と言えば、カリフォルニア大学と共に1969年10月29日、インターネットが誕生した地です。英語版Wikipediaの”Stanford University”ページにもコンピュータやインターネットの発展における非常に重要な業績が並び、きら星のようです。そんなスタンフォード大学の公式Webサイトに、Digital Safetyというページがあります。

Digital Safety (Stanford 大学 SHARE Title IX)

このDigital Safetyページは、オンラインでの嫌がらせ(Online Harassment, Online Abuse)について、類型、人が心理的、身体的、経済的に深刻な影響を受け得ること、受けた場合に通報したり支援を求めたりする方法を伝えています。特別な知識を有さない学生や職員にも理解が及ぶよう配慮するわかりやすさ、現に嫌がらせに直面する人が読むことを想定したと思われる端的さと文脈の強さ、情報の実用性などから、大学当局が強い危機感を持っている様子が察せられます。

さて、これを語る僕はオンラインの嫌がらせに対応する「abuse窓口」の仕事をしています。さまざまな嫌がらせに遭遇しますが、総じれば自分ではない誰かの「過ち」「悪意」「狭量」「他責」「認知のゆがみ」をレビューする仕事です。ずっと誰かの尻拭いをし続ける、感謝もされないということが立て続いて、「なんで僕が」と考え込んでしまう時もありました。「クソどうでもいい仕事の類型に『尻拭い』がある」とデヴィッド・グレーバーと言う人が述べているということを知り『ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事の理論』を読んでみました。わかったのは、この仕事は「クソどうでもいい仕事(Bullshit Jobs)ではない」「クソ仕事(Shit Jobs)である」「エッセンシャルワーカー的である」ということでした。

Digital Safetyページから伺える危機感は、「オンラインの嫌がらせで死んでしまう人がいる」ここから発せられていると受け止めます。悪質な誹謗中傷、それだけでなくセクストーション(性的脅迫)や、スワッティング(虚偽の犯罪通報により警察を他者の家に突入させる嫌がらせ)、インターネット誕生から五十余年、インターネットが存在することで人が死ぬようになりました。インターネットがあることで巨額の窃盗が起きたり、国家が転覆したりもします。事件のたびにニュースで騒がれます。でも僕は仕事をしながら考えるようになりました。「問題だ、危機感を持ち、対策はしなければならない、しかし驚くには値しない、うろたえるな!」。テクノロジーとインターネットの発展がこれからも爆発的に続くと信じられることと同じくらいに、人々の欲望、暴力、争い、悲嘆、犠牲、努力、愚かさ、生死、希望もまた、インターネットに現れると疑わないからです。真実の世界がどれほどに美しく恐ろしいか、僕は未だ、知りません。

 


■筆者略歴

山下 健一(やました けんいち)

2004年12月さくらインターネット株式会社入社。データセンター勤務、サーバ保守、クラウドサービス運用に従事した後、2016年よりabuse窓口の業務に従事。

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