ARIN 54でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案ご紹介
ip_team IPアドレス 他組織のイベント
2024年10月23日(水)から25日(金)の3日間、カナダ・トロントにおいて、ARIN 54ミーティングが開催されます。ARIN (American Registry for Internet Numbers)は、北米とカリブ海周辺の一部地域を受け持つ地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)の一つです。今回は、10月21日から開催されるNANOGと連続しての開催となります。
APNIC (Asia Pacific Network Information Centre)地域と同様に、ARIN地域においても、IPアドレス・AS番号の分配ポリシーに関する議論は、メーリングリストのほか、オフラインミーティングの場でも行われます。
一方で、各RIRのポリシー策定プロセス(PDP)は独自の手法を用いることがあります。ARINでは各ポリシー提案に対して「Policy Shepherds(ポリシーシェパード)」と呼ばれる担当をARIN AC(Advisory Council)からAC議長が任命します。この担当者はポリシー提案者とともに提案のブラッシュアップに努め、提案の実装へ向けて主体的に導く役割を果たします。また、APNICなどでは提案を次のオフラインミーティングですぐにコンセンサス確認まで行いますが、ARINではまず「Draft Policy」のステータスから始まり、オフラインミーティングでコミュニティによるコンセンサス確認は行いません。ブラッシュアップが完了し、ACによる承認が得られた場合、次のステータス「Recommended Draft Policy」に進むことができ、ここでコンセンサス確認を受けることができるようになります。このように各RIRは各々の独自性のあるPDPの下、ポリシー策定を行っています。各地域の特性は「地域インターネットレジストリ(RIR)ってなに?」で触れていますので、興味のある方はこちらもぜひお読みください。
今回のARIN 54ミーティングで議論される予定の提案は、以下12件となっています。提案内容などの詳細は、タイトルに張られたリンクから確認することができますので、ぜひ一度ご覧ください。ポリシー提案に関する詳細な情報は、ARINのWebページにも掲載されています。
●Recommended Draft Policy(一次コンセンサス確認を行う段階のポリシー提案):5件
- ARIN-2022-12:Direct Assignment Language Update(「直接の割り当て」の用語見直し)
- ARIN-2023-7: Clarification of NRPM Sections 4.5 and 6.11 Multiple Discrete Networks(独立した複数のネットワークへのIPアドレス追加時の条件明確化)
- ARIN-2024-1: Definition of Organization ID/Org ID(組織識別子の定義)
- ARIN-2024-2: WHOIS Data Requirements Policy for Non-Personal Information(非個人情報に関するWHOISデータ要件ポリシー)
- ARIN-2024-9: Remove Outdated Carveout for Community Networks(コミュニティネットワークに関する不要な定義の削除)
●Draft Policy(議論中の提案):7件
- ARIN-2023-8:Reduce 4.1.8 Maximum Allocation(最大割り振りサイズを/22から/24へ縮小)
- ARIN-2024-4: Internet Exchange Point Definition(IXPの定義明確化)
- ARIN-2024-5: Rewrite of NRPM Section 4.4 Micro-Allocation(特殊割り振り要件の見直し)
- ARIN-2024-6: 6.5.1a Definition Update(6.5.1a項の定義見直し)
- ARIN-2024-7: Addition of Definitions for General and Special Purpose IP Addresses(汎用アドレスと特殊用途アドレスの定義)
- ARIN-2024-8: Restrict the Largest Initial IPv6 Allocation to /20(IPv6の最大割り振りサイズを/20に縮小)
- ARIN-2024-10: Registration Requirements and Timing of Requirements With Retirement of Section 4.2.3.7.2(再割り当ての登録期限に関して、4.2.3.7.2の廃止)
ARINポリシーはNRPM(Number Resource Policy Manual)と呼ばれており、その特徴として非常に細やかな部分まで定義を行おうとしています。ドキュメントに書かれていることがルールのすべてであり、例外や裁量による部分を極力排除しようという傾向にあるように思われます。今回の提案でも文章の再考や定義の見直しなどに関する提案が多いのもそういった傾向の表れかと思います。
そのような中で注目したい提案について、2件ご紹介したいと思います。
ARIN-2023-8:Reduce 4.1.8 Maximum Allocation(最大割り振りサイズを/22から/24へ縮小)
IPv4アドレスの最大割り振りサイズ変更に関する提案です。ARINでは既にIPv4アドレスの在庫は完全枯渇に至っており、待機リストに並ぶことで返却されたアドレスから最大/22までアドレスを得ることができます。しかし待機リストには現在700組織が並んでおり、IPv4アドレスの入手に至るまでには相当な時間がかかる見込みであると提案者は述べています。そこで最大サイズを/24へ変更することで、より多くの組織へ迅速に分配可能になると提案者は述べています。一方で/24というサイズでは事業者側からすると不十分であるという反対派や、既に待機リストからの分配は期待すべきないという考えを持つ方、最大/22を維持し、待機リストに並べるのは初めてIPv4アドレスの割り振りを受ける人のみとするといった提案をされる方など、さまざまな考え方がMLでは挙がっていました。APNIC地域ではこのような事態にはなっていませんが、将来的に待機リスト制度を実装する可能性も考え、議論を追いたいと思います。
ARIN-2024-8: Restrict the Largest Initial IPv6 Allocation to /20(IPv6の最大割り振りサイズを/20に縮小)
IPv6アドレスの最大割り振りサイズに関する提案です。現在のARINポリシーではIPv6アドレスは最大/16まで割り振りを受けることができます。IPv4アドレスと比較して莫大な総数を誇るIPv6アドレスですから、以前はどんなに大きな事業者でも/20までの割り振りに留まってきました。しかし、2023年10月に米国の金融系企業が/16のIPv6アドレスの割り振りを受けました。これはあまりに巨大な空間であり、IPv6アドレスと言えど、65,536個の空間、しかもこのうちグローバルルーティングが可能な/16は8,192個しかない中の1つを1組織に割り振るのは過剰であるとして、最大割り振りサイズを/20まで縮小しようという提案です。これまで莫大な空間からあまり検討されてこなかったIPv6アドレスの「割り振り上限」をどこに設定するのかの議論を注目してみていきたいと思います。
以上注目の提案のご紹介でした。ミーティング期間中は中継が行われる予定ですので、ご興味を持たれた方はリモートで参加してみてはいかがでしょうか。メーリングリストには、オンライン上での議論の内容やARIN ACによる検討の結果がアーカイブされています。ARINのWebページには、ミーティング当日の発表資料、映像や発言録などが公開され、これらを活用すれば、議論を振り返ることが可能な環境が提供されています。
ARINなど他のRIRでの提案が、その後APNICでも提案されることもあり、JPNICでは各RIRの動向に注目しています。ブログなどを通して皆様にも情報共有していきますので、ぜひご覧ください。