IGF 2024参加報告
dom_gov_team インターネットガバナンス 他組織のイベント2024年12月15日(日)から19日(木)までサウジアラビアの首都リヤドで開催された、第19回インターネットガバナンスフォーラム(IGF 2024)について報告します。
開催国および会場
今回の開催地であるリヤドは、とにかく広大に感じられる都市で、空港から市内に来る途中には大学があり、大学用に地下鉄の駅が二つあるのに加え、学内の移動用にも別の鉄道が走っているという広さでした。それとは別に、あちこちで建設工事現場やクレーンが目立ち、建設ラッシュという感じでした。宿舎から会場に向かう道路も、信号のある一般道で最高速度80km/hとなっており、高速道路も通りました。一方、歩行者や自転車での移動はあまり想定されていないようで、(限定された区域しか見ることができませんでしたが)交差点で歩行者用信号のあるところはあまり見かけませんでした。
会場はKing Abdulaziz International Conference Centerで、同国の初代国王を記念して名付けられたものと思われます。写真にあるように、会議場というよりは宮殿と言った方が適切な作りで、豪華絢爛な建物でした。
会議場はメイン会場として巨大な部屋が2部屋使われており、一つは部屋丸ごとがメインセッションなどに使われ、もう一つは中央にブースとステージ・客席などが並び、周囲に計11のワークショップなど向けの部屋が取り囲む作りでした。ワークショップ用の各部屋は天井がなく、ステージの音が結構聞こえていたため、同時通訳用のレシーバーを全現地参加者が着用して登壇者の声を聞くようになっていました。Lightning Talkを除くほぼすべてのセッションは遠隔からも参加できましたが、映像・音響関係の不具合は結構あったようで、最終日のオープンマイク[1]セッションでは「時折発生した音声の問題について、会議後に分析を行うべき」という意見も出ました。
他に各国の議員向けセッションには、別のエリアが割り当てられていたようです。さらに別のエリアには、バイラテラル(二者)会談用の会議室が12室設けられていました。こちらはさすがに天井がカバーされていました。
参加状況
IGF 2024へは、11,853名の参加登録がありました。実際の参加者数は現地会場が144ヶ国より7,194名、オンライン参加者が2,800名以上となりました[2]。参加者の内訳は、次の通りです。
- ステークホルダー別:政府48%、市民社会11%、民間セクター25%、技術コミュニティ7%、報道機関1%、子ども1%
- 地域別:アフリカ11%、政府間機関7%、アジア太平洋50%、東ヨーロッパ4%、ラテンアメリカおよびカリブ海(GRULAC)2%、西欧・北米・豪州その他(WEOG) 16%、政府間機関17%
IGF 2023京都に比べ、現地参加者数は900名ほど増えていますが、参加者の属する国の数は34減っています。ステークホルダー別では政府が32%増えたのに対し、市民社会は13%減、民間セクターは12%減、技術コミュニティは7%減となっています。地域別ではアフリカが3%増え、GRULACが5%減となっています。参加者の男女比は男性68%、女性31%、その他1%以下となっています。30歳以下のユース参加者の割合は23%でした。
テーマおよび主なセッション
包括(Overarching)テーマは、Building Our Multistakeholder Digital Future(マルチステークホルダーによるデジタルの未来の構築)です。その下に以下の四つのテーマが設定されました。
- Advancing human rights and inclusion in the digital age デジタル時代における人権と包摂の推進
- Enhancing the digital contribution to peace, development, and sustainability 平和、開発、持続可能性へのデジタルの貢献を強化
- Harnessing innovation and balancing risks in digital space デジタル空間におけるイノベーションの活用とリスクのバランス
- Improving digital governance for the Internet We Want 我々が望むインターネットのためのデジタルガバナンスの改善
セッション数は合計307で、ワークショップ91、Day 0セッション51、ライトニングトーク46、オープンフォーラム45、DC (Dynamic Coalition)セッションが15、Launches and Awardsが11、Networking Sessionsが11となっています。
開会式
開会式では、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏によるビデオメッセージで、デジタル技術が人類の進歩を加速させる大きな可能性を強調した一方、この可能性をすべての人々に開放するには、ガバナンスに対してガードレールと協調的なアプローチが必要だと述べました。さらに、GDCを世界が実施するにあたって、IGFにおける取り組みと声は極めて重要である旨を述べました。
次に、国連経済社会問題担当事務次長リー・ジュンフア(李军华)氏が、デジタルガバナンスがグローバルな課題に取り組む上で重要な役割を果たしており、デジタル技術を社会の利益に役立てる必要性を強調した後、デジタル格差を解消し、国際協力を強化し、2030年持続可能な開発目標(SDGs)の実施を支援するよう呼びかけました。
開催国サウジアラビアの通信・情報技術大臣アブドゥラ・アルスワハ閣下からは単なる演台での演説ではなく、ステージ全体を使った流暢な英語でのプレゼンテーションを行い、南北格差、AI時代における格差、サウジアラビアが国連機関と協力してデジタルとAIへの公平なアクセスを促進していること、多国間での協力と強力なガバナンスの枠組みの確立を求め、AI技術がスケーラブルで持続可能かつ国家主権を尊重するものであるべきと主張しました。大臣はまたサウジアラビアがデジタルおよびAIインフラストラクチャーの発展において果たしている役割を強調し、グローバルな格差解消のための包括的なAIガバナンスモデルとインフラストラクチャー構築に向けた取り組みを発表しました。
From Summit of the Future to WSIS+20
「未来サミットからWSIS+20(世界情報社会サミット20周年振り返り)まで」と銘打った本ハイレベルセッションは、Day 1に開催され、より包括的で持続可能なデジタルの未来を実現するための行動を促すため、概ね次のような議論が行われました。
1. WSISの成果:
- 2005年以来、インターネット利用者が10億人から55億人に増加したこと
- インターネットガバナンスにおけるマルチステークホルダー・アプローチの確立
- デジタルプラットフォームの普及により、情報へのアクセスが向上したものの、誤情報、有害なコンテンツ、不平等といった問題も発生
2. 課題:
- 世界の人口の3分の1が依然インターネットにアクセスできず、世界的なデジタル格差が依然として存在。特に農村部や女性において顕著
- 多言語かつ文化的に多様なオンラインコンテンツが限られている
- 環境持続可能性(電子廃棄物、炭素排出量)やAIとデータガバナンスに関する倫理的懸念が浮上
- 発展途上国がAIとデータガバナンスのグローバル議論に参加する機会が限られている
3. 今後の優先事項:
- ジェンダーや農村部の格差を含むデジタル格差の解消
- メディア・リテラシーおよび情報リテラシーの推進と誤報への対策
- デジタルスキル・能力開発
- デジタル技術の環境持続可能性への対応と倫理的利用
- AIとデータの包括的なグローバルガバナンスの確保
- WSISをSDGsおよび2030アジェンダと整合させること
4. IGFとマルチステークホルダー・アプローチの役割
- インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)は、議論の重要なポイントとなり、包括的なインターネットガバナンスの議論を行う上で重要なプラットフォームとしてのIGFの役割が強調され、また、開発途上国からの有意義な参加の必要性が強調された
5. WSIS+20レビュープロセス
- 国連のさまざまな機関によるWSIS+20レビューの準備状況について議論された。このプロセスは、最初のサミット以降の進捗状況を評価し、デジタル開発の次の段階の議題を設定することを目的としている
6. 未解決の問題
- グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)を WSIS のプロセスと整合させるための具体的な仕組み
- デジタル技術が環境に与える影響に対処するための効果的な戦略
- AI およびデータガバナンスに関する議論への開発途上国からの有意義な参加の確保
- オンラインにおける誤情報の撲滅と情報完全性の促進に向けた戦略の策定
- IGF のマンデートの恒久化の可能性
7. 行動の呼びかけ:
- WSISの取り組みをGDCやSDG目標と連携させる
- データとAIの包括的なガバナンスモデルを進め、不平等を防ぐ
- デジタルリテラシー、メディア意識、生涯学習を促進し、ユーザーをエンパワーしリスクを軽減
Looking back, moving forward: how to continue to empower the IGF’s role in Internet Governance 過去を振り返り、未来を形作る:インターネットガバナンスにおけるIGFの役割の強化をどのように継続するか
本セッションでは、WSIS+20とGDCの実施という文脈において、IGFの役割と将来に焦点が当てられました。登壇者は、インターネットガバナンスの問題について包括的な対話を行うためのマルチステークホルダー・プラットフォームとしてのIGFのユニークな立場を全員一致で認識しました。キューバ政府のJuan Alfonso Fernández González氏は、参加者が意見を述べやすくなるよう、所属ステークホルダーやIGFの出席頻度について参加者に向かって質問するという一種のアイスブレーキングを行いました。
IGFの将来の役割と改善の可能性についての議論では、IGFはGDCの実施とWSIS+20レビュープロセスへの貢献において重要な役割を果たすべきであるという点で、幅広い合意が得られました。議論全体を通じて繰り返し話題に上ったテーマは、IGFがより具体的な成果と実行可能な提言を生み出す必要があるというものでした。これは、グローバルなインターネットガバナンスに対するフォーラムの関連性と影響力を強化するために不可欠であると考えられていますが、一方、IGFリーダーシップパネル議長のVint Cerf氏は、IGFは強力な根拠に基づく提言を行うことができるが、その主な強みは問題や疑問を提起し、それらをどこで取り上げるべきかを提案することにあると主張し、問題解決と問題の特定および方向付けにおけるIGFの役割に関する現在進行中の議論を浮き彫りにしていると考えられます。
IGFの包摂性を向上させること、特にこれまで十分に代表されてこなかった地域やコミュニティの包摂性を向上させることについても、主要な論点となりました。特に南半球からの意見を取り入れ、包摂性を向上させる必要性や、若者や疎外されたコミュニティをより多く取り込む必要性が訴えられました。
インターネットガバナンスに関する議論のローカライズや草の根レベルの参加の推進における、国別・地域別IGF (NRIs)の役割が強調され、IGFの新たな使命を形作るためにNRIsのネットワークを活用することが提案され、また、IGFの具体的な影響力を示すために、NRIsが国および地域レベルで推進するパートナーシップの認知度を高めることも提唱されました。
参加者は、イノベーションと包摂性、プライバシーの懸念のバランスを取る必要性を強調し、議論では、人工知能(AI)などの新興技術とインターネットガバナンスへの影響についても触れられました。登壇者は、デジタルイノベーションの恩恵がすべての人々に確実に届くようにしながら、これらの新たな課題に対処する上でIGFが重要な役割を果たすべきであるという点で意見が一致しました。
マルチステークホルダープロセスと多国間プロセスは、単に握手するだけではなく、「手をつないで一緒に踊る」必要があるという興味深い比喩が示され、より深い協力と統合の必要性が訴えられました。
国別・地域別IGF (NRI)
NRI Main Session: Evolving Role of NRIs in Multistakeholder Digital Governance
最終日19日/Day 4に開催された本セッションでは、中東・北アフリカ、欧州、アフリカ、アジア太平洋、北米、ラテンアメリカ・カリブ海の各地域での取り組みがまず紹介され、以下の課題と機会が指摘されました。
- 財政的持続可能性:NRIの活動を維持する上で大きな財政的障害があること
- ステークホルダーの関与:国家政策立案に情報を提供するNRIの価値と対比し、政府の利害関係者を関与させることの難しさ
- 地域特有の課題:災害対応政策枠組みの必要性、若者の協働を促進することの難しさ
- 成果の追跡:NRI会議の成果を追跡し、その影響力を示すことの重要性
- 多言語主義:インターネットガバナンスの議論における複数の言語への対応の難しさ
次に、さまざまな地域ごとの視点が示されました。
- 中東・北アフリカ地域:サウジアラビアにおけるIGFの設立が新たな取り組みとして指摘
- アフリカ:議員や国会議員を議論に参加させることの重要性を強調
- アジア太平洋地域:この地域の広範な多様性とインターネットガバナンスのアプローチへの影響を強調
- 太平洋諸島:太平洋地域IGFのテーマである「デジタルガバナンスの強化、回復力、レジリエンス」と、災害対応における衛星インターネットアクセス技術の利用について議論
- ヨーロッパ:欧州の諸機関によるコンセンサス形成とマルチステークホルダー・アプローチの推進について強調
複数の登壇者が、インターネットガバナンスプロセスへの理解と参加を促進する上で、能力開発に関する取り組みとインターネットガバナンスについて教える学校が重要であると強調しました。
次いで、IGFとインターネットガバナンスの将来に向けて議論が行われました。
- GDC:IGFはGDCの実施を支援すべきであると提案された
- WSIS+20 レビュー:これはIGFの権限を強化し、マルチステークホルダー主義へのコミットメントを新たにする機会と捉えた。オーストラリアのIGFによるWSIS+20に関するポジションステートメントは、NRIのインプットの例として強調された。
- IGFの権限:国連IGFの権限を10~20年より長期に延長するよう求める意見があった。
- IGFの役割:IGFは、WSIS以降のデジタル政策問題を議論する主要なプラットフォームとして強調された。
- NRIの公式化:グローバルなIGFと足並みを揃えるためにNRIを公式化することが提案された。
結論として、インターネットガバナンスのエコシステムにおけるNRIの重要な役割が強調され、地域的な視点のグローバルな議論への導入、能力の構築、政策への提言におけるNRIの重要性が強調されました。特に財政的な持続可能性やステークホルダーの関与という点において課題は残っているものの、マルチステークホルダーモデルの価値と、インターネットガバナンスの将来のためにこのモデルを強化し進化させる必要性について、合意が形成されました。
リヤド宣言
日付は明記されておらず2024年12月となっていますが、ホスト国サウジアラビアがリヤド宣言を会期中に公開しました。これは、人工知能(AI)とグローバルデジタルIDの持つ変革的な可能性を活用し、包摂的で持続可能、公平なデジタル開発を促進する重要性を強調しています。これらの技術が提供する機会を認識する一方で、プライバシー、安全性、誤情報などの課題に取り組む必要性を指摘し、責任あるガバナンスの枠組みを通じた協力の重要性を訴えています。主な内容は次の通りです。
- 包摂的で持続可能かつ統治されたデジタル未来に向けたAI
- AIの社会的および経済的成果を向上させる可能性と、そのリスクを認識
- 主な目標
- AIを活用してデジタル格差を解消し、包摂性を促進
- AIを持続可能な開発(SDGs達成)に活用
- 責任と公平性を伴うAIガバナンスを確立
- AI研究開発における国際協力を強化
- グローバルデジタルID
- 安全で包摂的、かつ相互運用可能なデジタルIDシステムの構築が、世界的なサービスと機会への公平なアクセスに不可欠
- 主な目標
- 2030年までにすべての人々に安全なデジタルIDを提供し、その採用と積極的な使用を促進
- 国境を越えた相互運用性を推進する国際基準を策定
- デジタルIDを活用して、電子商取引や医療などの分野で経済的可能性を引き出す
- オンラインでの安全
- データプライバシー、誤情報、児童オンライン保護の課題に対応
- 主な目標
- 安全なデータ慣行のための国際協力を強化
- 誤情報を抑制する政策を推進
- サイバーいじめ対策や年齢認証技術を含む児童保護を強化
今後の展望
IGF 2024は、国連未来サミットと2024年9月の「未来のための協定(Pact for the Future)」とGDCの採択直後という極めて重要な時期に開催されました。2025年の国連総会による「世界情報社会サミット(WSIS)」の20年後の評価(WSIS+20)に向けて、IGFの権限および継続についても検討されることになりました。IGF 2024会期中に開催された多くのセッションが、これらのプロセスに言及したり、関連文書に概説されている問題を議論の中心に据えたりしました。
国連IGF事務局が編纂したリヤドIGFメッセージ案では、すべてのテーマについて、最新の議論の内容から見解がまとめられていますが、テーマの一つである「我々が望むインターネット(Internet We Want, IWW)のためのデジタルガバナンスの改善」から一部を以下の通り取り上げます。
- GDCは、WSISプロセス、IGF、STIフォーラム[3]のような既存の構造を強化し、連携させながら、ビジョン文書から実行可能な枠組みへと移行しなければならない。断片化を避け、相乗効果を育み、結束力のある包括的な政策立案を確保するためには、これらのプラットフォーム間の調整強化が不可欠。
- WSIS+20の見直しは、IGFがSDGsのような世界的な優先課題と連携する機会を提供する。各国政府や政策立案者とのエンゲージメントを強化することで、グローバルな目標を地域や国の現実にリンクさせ、すべての人にとって公平で、強靭で、安全なデジタルの未来を形成するガバナンスモデルが育まれるだろう。
- 世界的なデジタル・デバイドを解消するには、特に発展途上国における接続性、スキル、インフラの格差に対処するための緊急行動が必要。有意義なインターネット・アクセスは、デジタル・リテラシーと経済的包摂を支援するための能力構築とエンパワーメントへの投資とともに、十分なサービスを受けられず社会から疎外されたコミュニティを優先しなければならない。
- デジタル・ガバナンスの枠組みにおいて若者をステークホルダーとして認識することで、政策に多様な視点と将来ニーズを反映させることができる。多様な地域やステークホルダー・グループからのバランスの取れた参加を確保することは、こうしたプロセスをより民主的で代表的なものにする。
- ガバナンスの枠組みは、イノベーションと人権のバランスを取り、倫理的で透明性の高いガイドラインを適応可能な政策に組み込み、不平等を深めることなく持続可能な開発を支援しなければならない。
- オンライン上の危害に対処するためには、セクターを超えた協力が重要である。規制当局、産業界、技術コミュニティは、技術的専門知識に基づいた調和のとれた規制を策定しなければならない。利害関係者に権限を与え、世界的な対応を強化し、インターネットのエコシステム全体の透明性を高めるためには、データ共有と能力構築のイニシアチブを強化することが必要である。
来年はWSIS+20振り返りが議論され、IGFを今後どうするか(継続するか、位置付けを変える/変えないなど)が決まることになると思われます。下記図に示す通り、9月の国連総会でWSIS+20振り返りに関する決議が行えるようにするためと思われますが、IGF 2025は6月という通常より半年近く早い時期の開催となります。これまでより準備期間が短い中でさまざまな議論が行われることになり、今後半年は多くの関係者にとって忙しい時期となることでしょう。
[1] 参加者が自由に意見を述べることができるセッション。
[2] Draft IGF 2024 Summary Report https://intgovforum.org/en/filedepot_download/305/28529
[3] SDGsのための科学技術イノベーション(STI)に関するマルチステークホルダーフォーラム https://sdgs.un.org/tfm/sti-forum