JPNIC Blog JPNIC

JPNIC役員による「2024年のインターネットキーワード」

pr_team 

JPNICのメールマガジン「JPNIC News & Views」では、毎年1月の定期号の特集にて、インターネットの最先端で活躍しているJPNIC理事/監事が考えるその年のインターネットキーワードをお届けしています。今回は、「2024年のインターネットキーワード」としてお届けした内容をご紹介します。新年度を迎えるタイミングですので、あらためてインターネットとの関わりをお考えいただく上での参考になりますと幸いです。

 

◆ 江崎 浩 (JPNIC理事長/東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)

◆ 2024年のInternet Keyword:「新しいデジタルを前提とした三方良し」

コンピュータネットワークとエネルギーシステムは、デジタルの利用を前提にした一体での設計・実装・構築・運用・維持が実現される「論語と算盤」を同時に一つのインフラストラクチャで実現するアーキテクチャに進化しなければならない。

 

◆ 曽根 秀昭 (JPNIC副理事長/東北大学 データシナジー創生機構 特任教授)

◆ 2024年のInternet Keyword:「何気なく頼れる通信インフラとなるインターネット」

広域の甚大な災害が起きたときに頼れる通信インフラは、地域や被災状況にもよりますが、だいたい10年を経ると物理もサービスも様変わりしてきたように思います。とくにいま、多くの方がインターネット上のサービスを、仕組みなど難しいことを意識せずに何気なく頼り切っていただろうなと思うと、それへの応え方も数年で更新していくべきかと思えてきます。

もう一つ、情報セキュリティ対策で課せられている注意喚起や管理事項の中には、システムや技術を意識していなければ無理だろうと思えるものも少なくありません。そういう面も含めて、誰でも何気なく頼れるようにする方向を考えていく時期かと思います。

 

◆ 野村 純一 (JPNIC副理事長/株式会社ゲンザイ)

◆ 2024年のInternet Keyword:「基盤 + アプリ + コンテンツ」

インターネットを構成する主要な要素として、三つのものがある。
第1は「ネットワークを動作させる<基盤>」
第2は「基盤上での処理を動作させる<アプリ>」
第3は「アプリの処理機能の動作対象の<コンテンツ>」
各々の要素は単独では何ら有益な価値は創造しないが、三つのすべてが同時に機能すると人間社会にとって意味ある価値となる。本年は、この視点からインターネットの全体像を捉えることによって、さまざまな課題の克服にチャレンジしていきたい。

 

◆ 宇井 隆晴 (JPNIC理事/株式会社日本レジストリサービス 取締役 システム本部長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「上を向いて歩こう」

現代の宇宙探査はただ遠くを目指すだけでなく、より高度な活動をするための通信環境の整備が求められています。宇宙空間や惑星間でもインターネットを利用するためには、刻々と変わる位置関係や通信の遅延・途絶など、地球上とはまったく異なる条件の中での通信を考える必要があります。DTN (Delay and Disruption Tolerant Networking:遅延耐性/途絶耐性ネットワーク)はこのような惑星間インターネットを支える技術として研究が進んでいます。

今年は宇宙探査ミッションが目白押しの年です。実際に地球外活動が増える中で、DTNなどの研究も大きく弾みがつくものと思います。多くの困難な状況の中にある2024年ですが、明るい未来への材料が少しでも増えることを願っています。

 

◆ 荻野 司 (JPNIC理事/一般社団法人重要生活機器連携セキュリティ協議会)

◆ 2024年のInternet Keyword:「サイバーセキュリティ」

大規模言語モデルによる技術革新でAIがより活用されていますが、サイバー空間への攻撃と防御への利用も急速に拡がるでしょう。米国では、昨年、The Artificial Intelligence Cyber Challengeを発表。AIを活用して米国のソフトウェア保護を強化する大規模なコンペティションを開始しています。トップAI企業との協力と専門知識を活用して、コンピューターコードのセキュリティ向上を目指しています。インターネット基盤への維持・発展には、サイバーセキュリティへの耐性を整える対策がますます必要になります。

 

◆ 金井 俊夫 (JPNIC理事/エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 執行役員 プラットフォームサービス本部 クラウド&ネットワークサービス部長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「情報感度」

今年は、生成AIが機能強化され、より便利になることで、個人の生活や企業活動に多く使われる年となるでしょう。

一方で、今年は世界で重要な選挙が目白押しであることも相まって、生成AIを悪用したフェイクニュースがインターネット上に更に溢れることになると思われます。一人一人が信頼できる情報ソースを複数持ち、何が正しく、何が違っているのかを自らで判断できるようにすること、すなわち個々人の「情報感度」を高めることがこれまで以上に重要になってくるものと考えます。

 

◆ 後藤 滋樹 (JPNIC理事/早稲田大学 名誉教授)

◆ 2024年のInternet Keyword:「ビッグ・サイエンスとしての人工知能(AI)」

大規模言語モデル(LLM)の応用が広範囲に拡大しています。LLMでは「教師なし学習」(unsupervised)に多大な計算資源を要します。さらに「教師あり学習」(supervised)によるファインチューニングとヒューマンフィードバックに膨大な人的資源を投入しています。

このようなビッグサイエンスとしてのAIの時代を迎えたことは、技術開発の成果に違いありません。ただし、従来のように個人あるいは小規模の研究グループが研究を推進することが難しくなったことも事実です。

人工知能の実用化が進むと同時に、人類の英知を結集する方法が問われています。

 

◆ 関谷 勇司 (JPNIC理事/東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)

◆ 2024年のInternet Keyword:「トラストモデル」

ゼロトラストという言葉に表れるように、「トラスト」という言葉の意味するもの、すなわちセキュリティモデルが問われる時代となっています。

通信インフラをはじめとしたITシステムにとって、セキュリティは当たり前の要件となりました。高度なITシステムが普及し、社会において広く使われるようになればなるほど、そのシステムに対する「安心・安全」の要求は高まっていきます。

一方、データの流通にも「安心・安全」が求められ、ITシステムからのデータ漏えい防止や、厳格な個人情報の保護が求められています。情報を渡すにあたっては、渡す相手がどの程度信頼できるシステムや組織であるのか、その信頼性(トラスト)が問われます。ネットワークによって接続され、情報を流通させるITシステムにおいて、そのトラストモデルをどう構築し、情報流通のセキュリティモデルをどう構築すべきなのか、それが問われる1年になるのではないでしょうか。

 

◆ 鶴 昭博 (JPNIC理事/株式会社JPIX)

◆ 2024年のInternet Keyword:「社会インフラとしての期待に応える」

インターネットはすべての産業分野や私たちの日常生活において、より一層溶け込んでいくことでしょう。デジタルによる社会課題の解決をもう一段レベルアップするためには、インターネットを誰もがいつでも安心して快適に使えるように維持、発展させていく必要があります。

デジタルデバイド解決に向けた新技術や新たなビジネスモデルの開発、大規模災害時におけるダウンタイム極小化、サイバーセキュリティやオンラインの安全性確保などの取り組みにおいては、事業者間連携や情報共有が重要になってくると考えます。

2025年問題と言われるような社会課題は目前に迫っていますが、竜頭蛇尾とせず、関係者が協力し力強く解決に取り組んで行けるように尽力して参りたいと思います。

 

◆ 中村 素典 (JPNIC理事/京都大学 情報環境機構 教授)

◆ 2024年のInternet Keyword:「パスワードレス認証の普及と個人認証」

フィッシング対策である多要素認証の一つであるワンタイムパスワードも、フィッシングサイトに入力させられてしまうなど、その限界が広く認識されるようになってきたことで、FIDO (ファイド)認証やパスキー(Passkeys)の採用が本格化してきている。このようなパスワードレス認証技術は、各ユーザが所有するモバイル端末の信頼性に強く依存するものであり、各個人のモバイル端末の安全管理責任がさらに求められる時代となってきている。その一方で、パスキーによって提供される端末間同期機能は、Apple、Google、MicrosoftといったGAFAMのサービスに強く依存するものであることから、インターネットにおける個人認証のありかたについて改めて考え直す一年となるだろう。

 

◆ 橋川 和利 (JPNIC理事/ケーブルテレビ徳島株式会社)

◆ 2024年のInternet Keyword:「実証から社会実装へ」

携帯等のワイヤレスは無くてはならない社会インフラ基盤となり、キャリア5Gにおいてはカバーエリアの更なる拡大を推進し、ローカル5Gにおいては地域の企業や団体によりデジタル基盤として整備され、社会実装が本格化するであろう。更に、自動運転やドローン等への活用が検討され、安全・安心を確保しつつ、実装に向けての実証を推進していくものと想定される。社会情勢の変化を踏まえて、地域の活性化や利便性の向上が図れる社会環境ができることを期待したい。特に、地域の活性化にはインフラ整備に重要となる人材育成の取組みも必要と考える。

 

◆ 長谷部 克幸 (JPNIC理事/日本電信電話株式会社 技術企画部門 担当部長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「カーボンニュートラルとインターネットガバナンス」

生成AIが一気に浸透した2023年から一年が経過し、大規模に生成AIを運用するための膨大なコストへの対応とAI利用のルールの在り方が問われています。生成AIの開発・利用のための大量電力消費を、超低消費電力技術や分散コンピューティング技術、再生可能エネルギーの地産地消効率化等により、削減する研究開発が行われています。またG7が取り組む生成AIの国際ルール作りである「広島AIプロセス」の最終合意により、国内外でもこのルールをもとにAIをめぐる制度作りが本格化していきます。

カーボンニュートラルや生成AIの取り組みを推進するためにも、インターネットガバナンスにおいて、政府、民間、技術・学術コミュニティ、市民団体等のマルチステークホルダーが対等な立場で対話を行い、これらの分野に関するルールや制度を整備する必要があります。

カーボンニュートラル、生成AI、インターネットガバナンスの取り組みが成功することで、インターネットは持続可能なものに進化していくでしょう。

 

◆ 馬場 聡 (JPNIC理事/北海道総合通信網株式会社)

◆ 2024年のInternet Keyword:「北海道バレー構想の実現に向けて」

次世代ネットワーク・インフラ基盤の構築が進んでいくなか、私の住む北海道では、再エネ・データセンタの建設、次世代半導体メーカーの進出、地域IXの誘致、海底ケーブルの陸揚げなど、またそれらを有機的に接続するDCI (Data Center Interconnect)により巨大な「北海道バレー構想」が実現されようとしている。まさにここ北海道にとっては千載一遇の機会であり、これを逃がす手はない。2024年は、その構築を着々と進める1年になるのではないか。これにより北海道内の情報流通基盤が進化・発展し、日本国内全体のインターネット基盤の強靭化・発展に寄与することを、こよなく願っている。

 

◆ 藤崎 智宏 (JPNIC理事/NTTコミュニケーションズ株式会社)

◆ 2024年のInternet Keyword:「IPv6の更なる高度利用にむけて」

2023年、IETF、APNIC、IGFの国際的なインターネット関連ミーティングが日本で開催され、インターネットの維持・発展・安定的な運用に今まで以上に注目が集まったと感じています。そのための必須要素であるIPv6も、各ミーティングの会場ネットワークでの提供はもちろんのこと、国内では固定・無線問わず、クライアント端末(スマートフォン、PC、家庭内各種アプライアンス等)から意識せず、利用できるようになってきました。

しかしながら、サービス側のIPv6対応はまだ推進が必要な部分が残っています。2024年、リモートワークでの企業ネットワークへのアクセスなど、企業ネットワークでのIPv6利用推進、IPv4では実現が難しいP2P環境でのIPv6利用推進、セキュリティ対応を含めた運用高度化検討等に取り組んでいきたいと考えています。

 

◆ 穂坂 俊之 (JPNIC理事/株式会社QTnet 執行役員 経営企画部長 兼 DX推進室長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「AIの発展加速とガバナンス」

2022年末に公開されたChatGPTは急速に社会に浸透し、アクティブユーザ数が1億人に到達するのに、たった2か月しか要さなかったと言われています。2023年にはChatGPTに関連する商用サービスが多々リリースされるなど、AIの活用は不可逆的な潮流となっています。一方、AI技術の発展と一般化に伴い、これを悪用されたらという懸念は増しています。また、計算資源の需要急増がネットワークのあり方にとどまらず、産業界のサプライチェーンの各所に影響を与えているように、今後ますます社会的な存在感は大きくなっていくはずですが、現状ではガバナンスの議論は技術の発展に追いついていないように見えます。

かつてインターネットがグローバルに必要不可欠な技術・サービスに発展を遂げ、ガバナンスの在り方が議論となったように、AIのガバナンスも今後真剣に議論されることになるでしょう。

 

◆ 松崎 吉伸 (JPNIC理事/株式会社インターネットイニシアティブ)

◆ 2024年のInternet Keyword:「共存と協調」

2023年は多くのコミュニティイベントが本格的に活動を再開し、現地に参加しての活発な議論が多く見られました。さまざまなネットワークが共存し、相互接続して成り立っているインターネットでは、協調が欠かせません。コミュニティはそのような協調の場であるとも言えます。インターネットの利用が広がるにつれ、さまざまな利害が生まれ、これまでとは異なる領域での協調も必要となってきています。異なる立場を協調的に乗り越え、今後もインターネットが社会の中で有効に活用されていくことを願っています。

 

◆ 青木 邦哲 (JPNIC監事/株式会社ASJ 代表取締役社長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「『AIの進化』と『法的な枠組み』」

「AIの進化」は、各社の革新的なサービスによって具体化されてきました。Googleの「DeepMind」は、医療や科学研究での複雑な問題解決に貢献しており、IBMの「Watson」は、ビジネス分析や医療診断の精度を高めています。また、OpenAIの「ChatGPT」や「DALL-E」は、自然言語処理と画像生成における驚異的な能力を示しており、クリエイティブな領域での活用が拡大しています。さらに、Microsoftの「Azure AI」は、企業向けにさまざまなAIソリューションを提供し、業務プロセスの効率化に貢献しています。AIの進化に伴い、倫理的、法的な枠組みが強化されつつあります。プライバシー保護、バイアスの軽減、透明性の確保など、AIを安全かつ責任を持って利用するための基準が設定され、実施される年になると思われます。AIを使うリスクよりも使わないリスクのほうが大きくなる年になるのではないでしょうか。

 

◆ 高宮 展樹 (JPNIC監事/ビッグローブ株式会社 執行役員常務 CNO プロダクト技術本部 副本部長)

◆ 2024年のInternet Keyword:「エリア分散」

このたびの令和6年能登半島地震により被災・避難された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

国内のインターネットトラフィック交換拠点はこれまで東京・大阪の二つのエリアが中心となっていましたが、いよいよ福岡エリアが立ち上がってきました。エリア分散により、お客さまがよく利用するコンテンツがエリア内に配置されることでより快適な通信が可能になり、またエリア内での通信事業者間のトラフィック交換により、震災にも強いインターネットとなることが期待されます。この実現には、インターネット接続事業者/コンテンツ事業者/IX事業者/CDN事業者等がエリアに進出することが必要となります。福岡エリアへの各事業者の進出を促しつつ、次なる地域「北海道・東北エリア」の立ち上がりにも期待したいです。

 

 

この記事を評価してください

この記事は役に立ちましたか?
記事の改善点等がございましたら自由にご記入ください。

このフォームをご利用した場合、ご連絡先の記入がないと、 回答を差し上げられません。 回答が必要な場合は、 お問い合わせ先 をご利用ください。