IETF国際動向 – 第119回IETFより [前編]
tech_team IETF インターネットの技術 他組織のイベント今週の2024年7月20日(土)から、第120回IETFミーティング(IETF 120)が始まります。本稿では、2024年3月にオーストラリアのブリスベンで行われた第119回IETFミーティング(IETF 119)の話題を中心に、IETFにおける国際動向をお届けします。IETF 119が開催されて以降、関連するブログ記事が出ていますので、それらを参照しながら話題を紹介していきます。
概要
IETF 119が行われたブリスベンは日本との時差が1時間で、ブリスベンが進んでいます。年度末であることが多い3月の開催ですが、日本からの参加者は74名と、ここ数回の傾向としては増加しています。
今回、筆者はオンライン参加でした。現地の写真はお届けできないものの、最近はオンラインツールの発達によってWG会合への参加という意味での体験は現地参加に近づいているように感じます。例えばマイクに並ぶときには、現地でもオンラインでもWebで列に並ぶ操作を行います。ただ、現地では会議の前後や休憩時間に提案者や議論の中心人物と直接話ができることは、オンラインでは代えがたいものがあります。
日本からの参加者のWGチェア就任
IETF 119では新たに2名、日本からの参加者がWGチェアに就任されました。
- ACME WGチェア – 大久保智史氏(DigiCert)
- SUIT WGチェア – 塚本明氏(アラクサラネットワークス)
これまでWGチェアをされてこられた方は2名いらっしゃったので、合計4名になりました。
- TCPM WGチェア – 西田佳史氏(慶應義塾大学SFC研究所)
- DMM WGチェア – 松嶋聡氏(ソフトバンク)
2024年6月7日(金)に行われた「IETF 情報交換会/座談会 – IETF119より -」では、4名のチェアによる「チェア・パネルディスカッション」が行われました。この様子は別途お届けできればと思います。
IABワークショップ – BIAS
IAB (インターネット・アーキテクチャ・ボード)ではコミュニティの関心を引いたワークショップを開いています。2024年1月には「インターネット・アクセスにおけるバリア」(*1)と題してオンラインのワークショップが開催されました。
(*1) “Barriers for Internet Access of Services (Bias)”
このワークショップは、インターネット上のコンテンツやサービスにアクセスする際の障壁、例えばフィルタリングやブロッキング、デバイス等における制限などについてのホワイトペーパーが募集され、ディスカッションが行われました。19本のホワイトペーパーが応募され、12本が公開。2件の招待講演が行われました。
IAB Workshop on Barriers to Internet Access of Services (BIAS)
Dhruv Dhody, IAB Member, 5 Mar 2024
https://www.ietf.org/blog/iab-bias-workshop/
セッションは三つのテーマについて開かれました。一つ目のテーマは「コミュニティ・ネットワーク」で、この概念についてはRFC7962にまとめられています。このRFCではインターネットの普及の仕方について論じられており、現在のWi-Fiの展開方法やサービス形態に関連するものも紹介されています。二つ目のテーマは「デジタル・デバイド」です。主に技術的な側面の明確化が測られていたようです。三つ目は「検閲」です。ISPがブロッキングを行う法的な枠組みや、ブロッキングが行われる箇所等について議論が行われました。
IAB Barriers to Internet Access of Services (BIAS) Workshop Report,
23 Feb. 2024, M. Kuhlewind, D. Dhody, M. Knodel,
https://www.ietf.org/archive/id/draft-iab-bias-workshop-report-00.html
IETF 119で行われたBoF
以下、四つのBoFが行われました。
IETF全体での”ディスパッチ”セッション
これまで、エリアの中で行われていた”ディスパッチ”のセッションがIETF全体について行われました。ディスパッチとは、担当するWGがないドラフトについてどこのWGが担当するのかを決めていくことです。
IETF-Wide “Dispatch” Session (alldispatch)
https://datatracker.ietf.org/group/alldispatch/about/
DNSにおける新しい移譲のレコードDELEG
新たに提案されているDELEGレコードは、DNSクライアントがDELEGレコードを通じて返されたサーバにSVCB(サービスバインディング)レコードなどを問い合わせることができるレコードです。これによって、サブドメインに関する問い合わせ応答のために必要な情報をDNSクライアントは得ておくことができるようになります。
Extensible Delegation for DNS
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-dnsop-deleg/
さまざまな認証の仕組みを整理するSPLICE
SPLICE (Secure Patterns for Internet CrEdentials)はクレデンシャル(認証されていることを示すデータ)を扱う認証の仕組みを整理するための会合です。関連するWGにJOSE、OAuthがあります。
Secure Patterns for Internet CrEdentials (SPICE) BoFのスライド
https://datatracker.ietf.org/meeting/119/materials/slides-119-spice-spice-bof-slides
ビデオトラフィックなどの通信の特性に応じた制御プロトコル
ビデオの巻き戻し再生などを行う制御を、データ伝送と同じ通信中(パス)で行うためのプロトコルを扱うBoF。
Secure Communication of Network Properties BoFのスライド
https://datatracker.ietf.org/meeting/119/materials/slides-119-sconepro-chair-slides
最近はIETFにおける動向をブログで紹介する動きがあり、ISOC-JPとJPNIC共催のIETF情報交換会などでは、ブログの紹介などを行っています。IETF 119については下記が開催されており、次回のIETF 120については2024年9月頃に同様の情報交換会の開催が予定されています。ご参加いただければ幸いです。
「IETF 情報交換会/座談会 – IETF 119より -」プログラムのお知らせ
https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2024/20240531-01.html
– 本イベントは2024年6月7日(金)に行われました。
本稿執筆時点(7/17)では、IETF 120の参加登録者数は1,300名、日本からの参加者は55名となっています。筆者はリモート参加の予定です。