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ARIN 55でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案ご紹介

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2025年4月27日(日)から30日(水)の4日間、ノースカロライナ・シャーロットにおいて、ARIN 55ミーティングが開催されました。ARIN (American Registry for Internet Numbers)は、北米とカリブ海周辺の一部地域を受け持つ地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)の一つです。

ARIN 55Webサイト

APNIC (Asia Pacific Network Information Centre)地域と同様に、ARIN地域においても、IPアドレス・AS番号の分配ポリシーに関する議論は、メーリングリストのほか、オフラインミーティングの場でも行われます。

一方で、各RIRのポリシー策定プロセス(PDP)は独自の手法を用いることがあります。ARINでは各ポリシー提案に対して「Policy Shepherds(ポリシーシェパード)」と呼ばれる担当をARIN AC(Advisory Council)からAC議長が任命します。この担当者はポリシー提案者とともに提案のブラッシュアップに努め、提案の実装へ向けて主体的に導く役割を果たします。また、APNICなどでは提案を次のオフラインミーティングですぐにコンセンサス確認まで行いますが、ARINではまず「Draft Policy」のステータスから始まり、オフラインミーティングでコミュニティによるコンセンサス確認は行いません。ブラッシュアップが完了し、ACによる承認が得られた場合、次のステータス「Recommended Draft Policy」に進むことができ、ここでコンセンサス確認を受けることができるようになります。このように各RIRは各々の独自性のあるPDPの下、ポリシー策定を行っています。各地域の特性は「地域インターネットレジストリ(RIR)ってなに?」で触れていますので、興味のある方はこちらもぜひお読みください。

今回のARIN 55ミーティングで議論された提案は、以下8件となっています。今回は「Draft Policy」のみのディスカッションとなり、コンセンサス確認はありませんでした。提案内容などの詳細は、タイトルに張られたリンクから確認することができますので、ぜひ一度ご覧ください。ポリシー提案に関する詳細な情報は、ARINのWebページにも掲載されています。

●Draft Policy(議論中の提案):8件

  1. ARIN-2023-8:Reduce 4.1.8 Maximum Allocation(最大割り振りサイズを/22から/24へ縮小)
  2. ARIN-2024-5: Rewrite of NRPM Section 4.4 Micro-Allocation(特殊割り振り要件の見直し)
  3. ARIN-2024-7: Addition of Definitions for General and Special Purpose IP Addresses(汎用アドレスと特殊用途アドレスの定義)
  4. ARIN-2024-10: Registration Requirements and Timing of Requirements With Retirement of Section 4.2.3.7.2(再割り当ての登録期限に関して、4.2.3.7.2の廃止)
  5. ARIN-2024-11: IPv4 Transition Efficiency Reallocation Policy(IPv4移行効率化再割り振りポリシー )
  6. ARIN-2025-1: Clarify ISP and LIR Definitions and References to Address Ambiguity in NRPM Text(ISPとLIRの定義明確化とNRPMの曖昧さ解消のための参考資料)
  7. ARIN-2025-2: Clarify 8.5.1 Registration Services Agreement(8.5.1 RSAの明確化)
  8. ARIN-2025-3: Change Section 9 Out Of Region Use Minimum Criteria(9項 域外利用に関する基準変更)

 

今回は議論された提案のうち、2件をご紹介したいと思います。

ARIN-2023-8:Reduce 4.1.8 Maximum Allocation(最大割り振りサイズを/22から/24へ縮小)

IPv4アドレスの最大割り振りサイズ変更に関する提案です。ARINでは既にIPv4アドレスの在庫は完全枯渇に至っており、待機リストに並ぶことで返却されたアドレスから最大/22までIPv4アドレスを得ることができます。しかし待機リストには700組織が並んでおり、IPv4アドレスの入手に至るまでには30ヵ月以上がかかると言われていました。割り振りの際には24ヵ月の需要予測を証明する必要がありますが、申込当初提出したものは割り振りのタイミングには過ぎてしまうなど機能していないとの声も挙がっていました。そこで最大サイズを/24へ変更することで、より多くの組織へ迅速に分配可能にしようというのが本提案です。提案時には/24という少数のアドレスでビジネスを行うのは不可能であり、このような変更に意味があるのかといった否定的な意見が多く見られました。

前回の議論から時間が経過し、現在待機リストからの割り振りにかかる期間はおよそ18~21ヵ月となり、提案提出時より落ち着きを見せています。今後もこの範囲内での推移が想定されています。待機リストへの追加リクエストは増加傾向にあるものの、返却アドレスからの分配などが進み、以前よりも状況は改善していることが報告されました。このことから、担当ACはこの提案を継続議論すべきかコミュニティに問いかけ、提案者自身も廃案にすべきだとコメントしました。一方でIPv6への移行に用いるIPv4アドレスをスムーズに供給するのは重要だ等といった理由から、/24への移行は進めるべきとのコメントも一定数見られました。

ディスカッションのみですのでこの場で結論付けられることはありませんでしたが、意見が割れた状態での終了となりました。現在APNICではまだ待機リスト制ではなく、スムーズにIPv4アドレスの供給が行われていますが、近い将来このような議論をする日が来る可能性も大いにあるのかもしれません。

ARIN-2025-3: Change Section 9 Out Of Region Use Minimum Criteria(9項 域外利用に関する基準変更)

新たに議論が行われた提案です。NRPMではIPv4アドレスのARIN域外での利用には最低でも/22を域内で利用していることが条件であるとしています。/23以下しか持たないような小規模組織は域外利用ができないため、これを改善するため、利用数の最低条件を/22⇒/24へ変更しようというのが本提案です。

基本的には小規模組織の不利改善になるとして賛成の声が多く上がりました。一方で域外でのアドレス利用にはその地域のレジストリでアドレスを取得すべきとの意見も出ています。その他、IPv6に関しても同様に条件を付けるべきか、そもそもこういった条件を撤廃すべきかなどのコメントが挙がっています。

 

以上注目の提案のご紹介でした。これらの提案は引き続き検討が行われていくもの思われますので是非注目してください。これらに加えてARINのメーリングリストで議論が活発化している提案を最後に1件ご紹介します。

ARIN-2025-4: Resource Issuance to Natural Persons(自然人へのリソース分配)

まだML上での議論にとどまっていますが、盛り上がりを見せている提案です。ARINではアドレスの分配を受けられるのは原則「法人登記された組織」としており、個人事業主などの取り扱いは曖昧になっていました。一方でRIPE等ではこれらが認められているため、ARINでも認めるべきではないかといった提案が出てきました。

メーリングリスト上では提案に対してポジティブなコメントが多く、早期での導入が見込まれそうな勢いがあります。

APNICやJPNICでも個人や有志による非法人におけるAS、IPアドレス取得・運用のケースは散見されます。責任能力や維持管理能力の見込みなど判定が難しい場合もありますが、多様なネットワークの在り方を認めていくことで健全な発展につながるとも考えられます。

この議論は今後も各方面で語られるテーマにもなりそうですので、ぜひ議論を追ってみてはいかがでしょうか。

 

メーリングリストには、オンライン上での議論の内容やARIN ACによる検討の結果がアーカイブされています。ARINのWebページには、ミーティング当日の発表資料、映像や発言録などが公開されますのでぜひ活用ください。

ARINなど他のRIRでの提案が、その後APNICでも提案されることもあり、JPNICでは各RIRの動向に注目しています。ブログなどを通して皆様にも情報共有していきますので、ぜひご覧ください。

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