News & Views コラム:SRv6 SFC標準化の進展 – ハッカソンを通じた実装と展望
pr_team コラムメールマガジンで配信したインターネットに関するコラムを、このブログでもご紹介しています。2025年4月は、NTTドコモビジネス株式会社(執筆当時はNTTコミュニケーションズ株式会社)でネットワーク技術の研究開発に携わられ、IETFの標準化活動にも精力的に関わっておられる、三島航さんのコラムをお届けしました。三島さんは、2025年2月にJPNICとISOC-JPが共催した技術ハッカソンの講師をお務めになり、このハッカソンは初心者にもベテランにも大好評でした。その時のご経験やその後のIETFでのご活動を振り返りながら、今後の抱負についてもお書きいただきました。
私は現在、業務で SRv6 SFC (Service Function Chaining)という技術の開発を行っており、その一環としてIETF (Internet Engineering Task Force)において標準化活動に取り組んでいます。
SRv6 (Segment Routing over IPv6)とは、オーバレイネットワーク技術の一つで、IPv6アドレスを活用し、ネットワークの経路や動作を柔軟に指定できる技術です。これにより、従来のネットワーク制御に比べて、ヘッダに情報を埋め込むことで、よりシンプルでプログラマブルな運用が可能になります。一方、SFCは、トラフィックをNAT (Network Address Translation)やファイアウォール、DPI (Deep Packet Inspection)といった複数のネットワークサービス(Service Functions)に、指定された順序で通過させるための仕組みです。これにより、ユーザーやアプリケーションに応じたきめ細やかなネットワーク処理が可能になります。
このSRv6とSFCを組み合わせたSRv6 SFCは、ネットワークサービスの提供を含むユーザートラフィックの柔軟な制御と、ネットワークの高い拡張性を実現できる技術です。私はこの技術の持つ可能性に期待し、IETFのSPRING WGにて、SRv6 SFCをより効率的に実現するためのアーキテクチャ「draft-watal-spring-srv6-sfc-sr-aware-functions」を提案し、標準化を進めています。
標準化活動の一環として、2025年2月にJPNICおよびISOC-JPが共催した技術ハッカソン「IETF発! 技術ハッカソンをやってみよう」に講師として参加しました。このイベントは、標準化や技術実装に興味を持つ方々をターゲットとしており、RFCやI-Dで提案中の技術を実装することで、ネットワーク技術の理解を深め、標準化活動への参加のきっかけを提供することを目的として開催されました。今回のハッカソンでは、私の提案するアーキテクチャをベースに、参加者の希望に合わせ、SRv6 SFCを支える技術要素であるBGP-LS拡張、PCEP、SR Policy、BGP FlowSpec、SRv6 OAMなどを対象に複数の実装を作成していただきました。
ハッカソン自体はハイブリッド形式で開催され、現地とリモートの双方から多くの方々にご参加いただきました。開催期間は2週間で、初日に技術説明とテーマ決めを、最終日には成果発表会をそれぞれ実施しました。それ以外の期間は全体では集合せず、各自がリモートで開発を行う形式としました。不明点や質問などは、適宜Slackでコミュニケーションを取りながら進めていただきました。
参加者の皆さまは限られた時間の中で実装を進め、開発したコードを各自で公開したり、Wireshark、GoBGP、Pola PCEといったオープンソースソフトウェア(OSS)へのコントリビューションを行ったりするなど、非常に高い成果を残してくださいました。
こうした成果を受けて、3月のIETF 122 Bangkokでは、SRv6 SFCに関する二つのハッカソントピック「BGP-LS Extensions for SRv6 Service Chaining」と「Traffic Steering using BGP FlowSpec with SR Policy」を立ち上げ、引き続き開発と発表を行いました。2月のハッカソンからの継続ということもあり、それぞれのテーマにおいて、設定した目標をすべて実装することができました。これらの成果は、今回対象としたドラフトの著者にも知っていただくことができ、標準化に向けたフィードバックや仕様のブラッシュアップにつながる重要なきっかけとなりました。
技術標準化はただ文書を書いて終わりというものではなく、実装・検証・フィードバックを通じて、はじめて「使える」技術になります。今回のハッカソンはその良い例であり、実装が存在することで、標準化議論が具体的になり、説得力を持つことをあらためて実感しました。
今後も、こうしたハッカソンの機会を活かして、実装者・開発者とともに技術仕様を磨き上げ、標準化を加速していきたいと考えています。そして、SRv6 SFCがより多くの現場で「使える技術」として開発・利用されるよう、尽力していきたいと思っています。
■筆者略歴
三島 航 (みしま わたる)
2019年 NTTコミュニケーションズ株式会社(当時)入社。入社後はR&D部門にて、SRv6/SR-MPLS、Streaming Telemetryなどのネットワーク技術の研究開発に従事。2023年のIETF116 YokohamaからIETFの活動に参加。現在は SPRING WGにてSRv6 SFCに関する標準化活動を推進中。