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アフリカインターネットサミット(AIS)2025@ガーナ・アクラ報告 と AFRINICの最新状況

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政策主幹の前村です。私は現在NRO番号評議会(NC)のメンバーを務め、RIR設立認定要件文書、ICP-2 (Internet Coordination Policy 2) の改定作業に取り組んでいます。ちなみに私の議席はAPNIC理事会任命で、2025年中の1年任期なのですが、2026年の任命を先日受けましたので、ICP-2改定作業には引き続き取り組むことができます。ICP-2改定のほうは、2025年8月28日に草案第2版を公開して、現在意見募集中です。9月にベトナム・ダナンで開催されたAPNIC60カンファレンスでもコンサルテーションセッションを実施し、これから次々と開催されるRIRミーティングでも順次意見を伺っていきますが、現在NCメンバーがいないAFRINIC地域でも意見聴取を行うべきということになりました。私はNCからの派遣メンバーの1人として、チェアのHervé Clément氏、同じくRIPE地域のメンバーAndrei Robachevsky氏とともに、9月29日から10月3日まで、ガーナの首都アクラで開催されたアフリカインターネットサミット(AIS)2025に参加して、ICP-2に関する意見聴取を行うとともに、AIS2025全体に参加してきましたので、本稿でご報告したいと思います。

文字通り「アフリカのインターネット」の「サミット」

まず全体の概要からご紹介していきます。

今回のAISは、アフリカのネットワークオペレーターズグループとして活動しているAfNOGとなっています。AISはその名の通り「アフリカのインターネット」の「サミット」で、全体を通して参加することで、ネットワーク技術、研究ネットワーク、開発アクティビティ、ICANNやISOCなどの状況など、アフリカのインターネットに関する活動の今の現状を総覧することができます。プログラムを見ると、以下のように日によってフォーカスが決まっています。

  • 9/29(月) Day1・AIS2025オープニング・スマートアフリカセッション
  • 9/30(火) Day2・AfNOG Day
  • 10/1(水) Day3・AF* オープンフォーラム
  • 10/2(木) Day4・ICANN Day
  • 10/3(金) Day5・ISOC Day

このうち、Day1ではAIS全体のオープニングと、スマートアフリカセッションが配置されました。オープニングでは、ローカルホストの挨拶の他に、Vint Cerf氏や、ISOCのCEO Sally Wentworth氏、ICANNのCEO Kurtis Lindqvist氏などが遠隔から挨拶しました。AF*とは、アフリカのインターネット関連団体の連合体ですが、それぞれの団体の活動を紹介すると終日を埋めてしまうのも無理がなく、ICANN Dayには新gTLDプログラム次回ラウンドやその一部である申請者支援プログラム、またWSIS+20に関する動向など、Day5のISOC Dayでは、ガーナチャプターによる企画や、NDSSをはじめとするプロジェクトの紹介など、盛りだくさんの内容でした。

ガーナのインターネット30周年

また、今年は開催国ガーナのインターネット運用開始から30周年になるということで、Day1に30年間の歩みを振り返るパネルが持たれました。

ガーナのインターネットの先陣を切り黎明期を支えたNCS社を中心に、黎明期前後の15年ほどを振り返りました。「NCS歴史家」を自称するErik Akumieh氏による発表の後、民間、政府、アカデミアからのパネリストが、それぞれの視点から振り返りました。またその次のパネルでは、そのNCSを含みガーナにおけるコンピュータサイエンス研究を始動し、ガーナに、そしてアフリカ全体にインターネットを持ち込んだNii Quaynor氏と、トーゴのフロンティアであるAlain Aina氏による対談となりました。Quaynor氏とAina氏は押しも押されもしないアフリカインターネットのツートップといってよい方々で、AIS会期中、登壇、セッション司会、フロアからの発言と、大変活発に動き回っていました。この対談はパネルとは違い、30年前を懐かしむ趣向のもので、途中Aina氏が当時のモデムの音をマイクで聴衆に聞かせるシーンもありました。

ICP-2に関しても活発な意見交換

NRO NCのミッションとして参加ですから、私や他のNCメンバーにとってのメインイベントは、もちろんICP-2に関するものです。Day3にはAFRINICとICP-2に対する適合をテーマとしたパネルディスカッションが持たれました(写真1)。もともと今回のAISには、現在NROのチェアを務める、RIPE NCCのCEO、Hans Petter Holen氏が乗り込む予定だったのですが、トラブルがあったようで遠隔登壇、またこのパネルに参加予定だったタンザニアISP協会の代表で、AFRINIC問題にも活発なNoah Maia氏も参加不可能ということで、急遽私も登壇することになりました。Alain Aina氏がモデレータです。私はAina氏からまさにタイトルにあるICP-2への適合に関して尋ねられたのですが、NRO NCのマンデートを大きく超える事項なので、Holen氏に回答をお願いしました。私からはAPNIC地域特有のNIRシステムに関して触れ、ICP-2適合に関してはAPNIC地域ではNIRも含めた全体の適合が求められていて、改定ICP-2は実装局面も極めて重要だとコメントしました。

 

写真1:AFRINICとICP-2に対する適合をテーマとしたパネルディスカッション
写真2:左からRovechevski氏、Clément氏、前村

もう一つは、Day4となったICP-2改定に関するコンサルテーションです(写真2。左からRovechevski氏、Clément氏、前村)。ICP-2改定案バージョン2は冒頭で述べたように9月のAPNIC60カンファレンスもコンサルテーションセッションを持ちましたので、ほぼ同じスライドで内容をご紹介することになりました。プレゼンテーション冒頭の概要と経緯の説明を、チェアであるClément氏が行いましたが、AFRINIC地域にはフランス語を公用語とする国も多いため、フランス人であるClément氏は英語のスライドをフランス語で説明しました。続いて私がバージョン2における改版点を概説した後、Rovachevsky氏が詳細説明を行いました。フロアからの質問にも答えて行きましたが、私は最後に、「AFRINICの主体は会員なので、事務局や委員任せにするのではなく、是非とも積極的に意見を寄せてください」とコメントしました。

AFRINICに関して

本来AISはAP地域で言えばAPRICOTのようなもので、AFRINICトラックがあってもしかるべきなのですが、今回はまだそれには至りませんでした。しかし、AFRINICからは職員が数名乗り込んで、全体司会や登壇などかなりプレゼンスを盛り返していました。2年前の南アフリカ・ヨハネスブルグで開催されたAIS2023ではAFRINIC職員の参加はなかったので、大きな進展です。

AFRINICの状況に関しては適宜JPNICブログなどで情報提供していて、直前は7月のことでした。

AFRINICの状況に関する続報(2025年7月25日)

この後には、延期となった選挙のプロセスが進んで、無事、理事が選出されました。今回のAISにも2人の理事が参加なさっていて、情報交換などさせていただきました。また、理事会は議長と副議長の選出を行って、AIS2025の会期最終日10月3日に、アナウンスされました。理事会が議決できなくなって3年振りとなるこの議決は、今後の機能回復を期待させるものとなりました。一方で、理事会がその権能をすべて行使できるような状態ではまだないようで、注視していこうと思います。

もちろんAFRINICの復調に対する期待は、アフリカ地域では高いものです。AIS2025のDay3、Af*オープンフォーラムは、AFRINIC問題から今後を考えるセッションが並ぶ結果となりました。「Panel Discussions: Protection and safeguards for the Internet governance institutions in AFRICA」では、AFRINIC以外のインターネット運営調整団体がAFRINIC問題から学ぶべきこと、というテーマでした。つまり、AFRINICの一件は、司法に対する手続きに端を発して裁判所命令で機能不全に陥っていったわけですが、同じようなことは他のインターネット運営調整団体でも起こり得るという観測から、これにどう防御を施し、セーフガードを行うか、といった議論が展開されました。その中で、セネガル人でアフリカのインターネットフロンティアの一人、Mouhamed Diop氏は、インターネット運営調整団体は公益的な機能を提供しているのに、私企業と同じように経営破綻から解散といった流れで取り扱われるべきでない、と主張しました(下の写真。英語の発言でしたがスライドはフランス語です)。

また、パネリストの一人、MegaMore Wireless BroadbandのAmin Dayekh氏は、「ハイブリッド条約組織」 つまり、アフリカ連合の配下にAFRINICなどのインターネット運営調整団体を置く、という考え方を提示しました。これは管轄法下の免責などの利点がある一方、今まで一貫しているインターネット基盤運営のコミュニティ自治という考え方からは隔たりのあるもので、今後大きな議論が起こる可能性があると感じました。

おわりに

いろいろな地域の類似のインターネットイベントがもう少し短い会期で行われる中、AISだけがフルに5日間の日程になっているのですが、アフリカ地域ではさまざまなプロジェクトが進んでいるという事情もありますし、「AISにくればすべてが分かる」という印象を持つほど、取り扱う話題が網羅的でした。

その中で印象的なのは、Quaynor氏やAina氏のリーダーシップです。もし皆さんがAISにいらっしゃるときに、心構えしておかなければならないことがあるとしたら、Quaynor氏は時折コールアンドレスポンスのようなことを参加者に要求し、Quaynor氏が「AfNOG」とコールすると、参加者は「success!!」と返すということになっています。今回はもう一つ、「AFRINIC」に対して、「en avant!!」(先へ!というフランス語。アナヴァンと読みます)というコールアンドレスポンスが加わっていました。最終日のクロージングでは、このコールアンドレスポンスの後、Quaynor氏が「では、皆さんの周りの人みんなと握手をして終わりにしましょう」とおっしゃり、私もそれに従って周りの方々と握手しました。こういう強い仲間意識から、アフリカのインターネットは力を発揮するのだろうと思いました。

AFRINICに関しても、理事会が機能再開して、今後足早に復調していくものと期待しています。今後とも動向に注視していこうと思います。

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