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DNSルートサーバシステムに歴史的な変革:新たなガバナンスモデルの検討始まる

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インターネット推進部の前村です。

天皇陛下の御代替わりに伴って10連休となった日本でしたが、私はこの週にICANN理事会ワークショップが入れられていたので、開催地であるイスタンブールに行ってまいりました。理事会合宿検討会合は、ICANN会議の会期前と、ICANN会議の間、1月、5月、9月に開催され、3日間にわたってさまざまな検討を行います。今回のワークショップの内容は恒例の理事会議長ブログでご覧いただけます。

Chair’s Blog: A Preview of the Istanbul Board Workshop
https://www.icann.org/news/blog/chair-s-blog-a-preview-of-the-istanbul-board-workshop

今回のワークショップの成果の一つが、理事会技術委員会(BTC)チェアとして担当した、DNSルートサーバシステムの変革に関する検討です。本稿でご紹介します。

DNSルートサーバの詳細説明に関しては、過去にJPNICニュースレターに掲載した10分用語解説に譲ります。ドメイン名空間の木構造の始点となる、ルートゾーンを管理するDNSサーバで、全世界からのDNSクエリを受けるインターネット基盤の要部です。a.root-servers.net に始まり、aからmまでの13のルートサーバが、12のルートサーバ運用組織(RSO)によって運用されています。13のそれぞれはエニキャスト技術で多数のインスタンスを持ち、現在総計1000程度のインスタンスが、世界各地で運用されています。RSOに関する情報は、www.root-servers.org に集積されていますので、ご覧ください。

RSOはICANNではRSSAC(ルートサーバシステム諮問委員会)として活動し、RSOの観点からドメイン名のセキュリティ、安定性、復元性に関する助言を提供しています。その中のひとつ、RSSAC037, RSSAC038と採番された助言が出されたのは2018年6月。これらが、本日ご紹介する内容の要部を占めます。

RSSAC037: A Proposed Governance Model for the DNS Root Server System
「DNSルートサーバシステムに関するガバナンスモデルの提案」
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-037-15jun18-en.pdf

RSSAC038: RSSAC Advisory on a Proposed Governance Model for the DNS Root Server System
「DNSルートサーバシステムに関するガバナンスモデルの提案に関するRSSAC助言」
https://www.icann.org/en/system/files/files/rssac-038-15jun18-en.pdf

RSSAC037はタイトル通り、ルートサーバシステム(RSS)の新たなガバナンスモデルを提案する、という内容です。これまでRSSは12のRSOの合議で自主的に独立して運営されてきました。これはインターネットコミュニティの信頼に足るものでした。しかし、インターネットの発展と規模拡大も著しく、RSOはついに運営体制の変革に踏み切ったようです。その理由に関しては、RSSAC037の3ページ、The Future of Root Server System Governance (RSSガバナンスの未来)の項から、彼ら自身の弁を引用します。

システムは当初から今に至るまで好ましく動作していたが、常に更新されつづけた。インターネットの急激な発展と広範な利用によって、RSSの重要性とともに、新たなセキュリティ脅威や利用者の要請による機能継続へのリスクも増大してきた。このような変化に引き続いて、要請に応えるに足る説明責任、透明性、確かな監督、ルートサーバ機能の継続的な規模拡張性の必要性が、日増しに強く叫ばれるようになった。ルートサーバ機能の関係者は、その運用に対する説明責任及び信頼性と継続性を守らなければならない。IANA機能とルートゾーンの監督役であるICANNは、近年これらの要請に応えて顕著に進化を遂げている。RSSのガバナンスも、それに続かなければならない。

RSSAC037にはRSSACによる新たなガバナンスモデル提案が明確に示されています。モデルは以下の5つの機能ブロックから構成されます。

  • 戦略・アーキテクチャ・ポリシー機能(SAPF)
  • 財務機能(FF)
  • 指名除名機能(DRF)
  • 性能監視計測機能(PMMF)
  • 事務局機能(SF)

 

これらによって品質基準を定め、遵守できるように監視を行い、必要であればRSOの除名や指名を行い、必要な資金の拠出を検討することができる、という提案です。

また、RSSAC037ではRSSに関するステークホルダーを明確にしており、RSO以外に、技術規格を制定するIAB及びIETFと、ドメイン名などの解決のためにRSSを利用するICANNコミュニティの3者を挙げています。この提案がRSOとしてではなく、RSSACとしてICANNコミュニティへの助言として発行されているのは、ICANNコミュニティに向けた提案であるのが主要な理由と言えます。

RSSAC038は037に関して、この提案モデルを関係者の間で議論して最終的なモデルを決定するプロセスを始動するようにICANN理事会に求めています。ICANN理事会ではこれらの助言を受け取った後、ICANN事務局とともに検討を開始しました。それから11ヶ月が経ってやっとこの提案に対応した動きを起こしているわけですが、時間が掛かった理由のひとつは、RSSAC037の提案モデルが、インターネットが始まって以来前例のない提案であり、ICANNコミュニティに閉じず、IAB/IETFに拡がりを持った体制が提案されているため、同様の拡がりを持って検討する必要があるからでした。この状況は、2014年から2016年まで2年半にかけて検討して実現した、IANA監督権限移管とも似ており、インターネットの重要基盤に関する運営体制の変革、という同じ意味合いと、重要性を持つと思います。

ICANN理事会と事務局は検討プロセス始動の要請に応じ、「RSSAC037をベースとした最終モデルの策定に向けたコミュニティ主導プロセスに関するコンセプトペーパー」と呼ばれるドキュメントをまとめました。コンセプトペーパーでは、「RSSガバナンス作業部会(GWG)」と呼ばれる作業部会を組成して、このGWGを通じて検討を進めるというプロセス案を策定しました。

先日のICANN理事会ワークショップでは、このコンセプトペーパーに合わせて作成された、GWGの作業計画とチャーター案を最終チェックした上で、5月3日の理事会会合で、パブリックコメントを行うことを承認しました。

 

残念ながら本稿執筆の時点ではまだ最終的な準備を進めているところですが、近日中に、RSSの新たなガバナンスモデルの検討のための体制とプロセス案として、意見募集が掛かります。IANA監督権限移管に負けるとも劣らない、インターネット基盤運営に関する歴史的な変革だと思います。RSSAC037にも目を通していただいた上で、プロセス案のご検討に、是非参加なさってください。

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