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IANA機能監督権限移管提案 ~国内外コミュニティからどのような意見が提出されたのか~

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JPNICの奥谷です。

2015年8月10日に掲載したJPNIC Blog “米国NTIAからのIANA機能の監督権限移管に向けた提案への意見募集 ~グローバルインターネットコミュニティへの呼びかけ~” では、

  • 世界中のインターネットコミュニティに対してIANA機能の監督権限移管提案への意見募集が行われていること
  • 日本のコミュニティからの意見提出に向けてIGCJのプラットフォームで準備を進めていること

をご紹介しました。

ではその後、提案に対して実際どのような意見が提出されたのか、全体の傾向と日本から提出された意見、そして今後のプロセスを中心に今回はお伝えします。よろしければ9月29日に開催した第9回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ9)の資料もご覧ください。

■グローバルコミュニティから提出された意見の傾向

前回のJPNIC Blogへの掲載以降、提案への意見提出は2015年9月8日(JST9月9日08:59)が期限となり終了しました。世界のさまざまな地域から、合計150件を超える意見が提出される結果となりました。

この度の意見募集に至るまでにも、これまでIANA機能に関わる各運用コミュニティごとに議論を進め、各コミュニティの代表者がすでに意見提出を行い、それを取りまとめたものに対して今回の意見募集がなされた背景を踏まえると、実際にはこの件数で表されるもの以上に、多くの各コミュニティメンバーによる議論が行われてきたと言えます。

今回提出された意見を、IANA機能の三つの資源に関わる各コミュニティ別に比較してみました。それぞれの特色が現れており、なかなか興味深いです。

  • ドメイン名コミュニティ(ICANN)

組織やICANNコミュニティ内のグループ単位での意見提出が活発、ドメイン名機能に関わる部分で懸念や課題を表明する意見が少なくない

  • 番号資源コミュニティ(RIRs)

本件について番号資源コミュニティを代表するCRISPチームからの意見提出に加え、個人による意見、賛成派が中心

  • プロトコルパラメータコミュニティ(IETF)

コミュニティのリーダー数名が意見提出、移管自体には肯定的であるが、ドメイン名機能に関わる部分に懸念を示す声も一部あり

地域別に見ていくと、米国からの意見が多いのは当然予測できたことですが、私の予想を超えてアジア太平洋地域からの意見提出が活発でした。中でも中国、インド、日本からは、世界的に見ても提出が目立つ程度に複数の意見提出が確認されています。これはおそらく中国のNIRであるCNNIC、インドのIRINN、日本ではJPNICも参画しているプラットフォームとしてのIGCJ(日本インタネットガバナンス会議)、そして、アジア太平洋地域におけるRIRであるAPNICなどが周知活動と呼びかけを行った結果が顕著に現れていると考えられます。インターネットガバナンスの分野において、今まで一般的にはアジア太平洋地域からの声が表明されることが少なかったのですが、このように適切な呼びかけと周知が行われることで、アジア太平洋地域からも意見が表明されることがわかりました。

アフリカ、南米地域からの意見は他の地域と比較すると件数が少ない印象ですが、全体としては多様な地域や国から意見が提出されたと言えそうです。

■日本から提出された意見

日本からは以下5件の組織/コミュニティからの意見と1名の個人からの意見が提出されました。

[意見提出順]

このように企業団体、政府、国内のコミュニティ、JPNICのようなインターネット関連団体、個人からの意見が出揃って提出された国は、比較的珍しく、NTIAにより移管条件で示されたマルチステークホルダーによる支持が、国単位での意見提出に現れている形となりました。

そして何よりも、提出された意見の中でも92名の個人による賛同を示したという数は世界的に見ても群を抜いています。これは、IGCJを通じてまとめられた提出意見をもとに幅広く国内で個人の賛同者を募った結果です。ICGチェアのAlissa Cooper氏からも個別に、大変素晴らしい!と賞賛のメッセージを受けており、国外に知られる機会が中々少ないながらも、高い問題意識を持って活動している日本のコミュニティのあり方を具体的に示すことができたのではないかと思います。

私自身、CRISPチームのチェアとして提案策定の一部に関わった立場として、これだけ多くの個人に賛同を表明していただいたことは大変心強く、提案への賛同表明に参加してくださった皆さまに心より感謝申し上げます。

■提出された主な意見の内容

ICGへ提出された150件以上の意見の内容ですが、移管への支持を表明する意見の方が反対意見よりも多く表明されているものの、懸念を示す意見も決して少なくはない状況です。

米国から監督権限が離れることに反対(名前から推測して英語圏の方々)という、ある程度想定できた意見以外に、懸念を示す意見の多くは、ICANNの説明責任、ICANNとIANA機能の運用組織となる別会社PTI(Post-Transition IANA)の独立性に関するものが中心でした。特に、NTIAによる監督権限移管後も、IANA機能と密接な関係を持つICANNが、信頼に足る組織であり続けるのかという点は、これまでもドメイン名機能に関するコミュニティにおける提案策定で実際に表明されてきましたが、そうした意見が今回の意見募集でも見られたことは、さらなる対応の必要性を表明しています。また、IANAの運用組織(IFO)変更時の対応、NTIAによる承認のステップをなくしたゾーンファイル情報更新手順等などの詳細を確認したいとの意見も一部からは表明されています。

一方、基本的に米国における商工会議所等の企業代表団体やCisco Systems社、Intel社、Microsoft社、Mozilla財団といった大手企業・組織が、移管への支持を表明しており、これらは米国議会の賛同を得るうえで、ポジティブな要素と考えられます。

■今後のプロセス

今回の意見募集を実施し、提案の提出に向けて責任を持つIANA stewardship transition Coordination Group (ICG)は、意見提出締め切り直後の9月18-19日に米国・ロサンジェルスにて対面会議を実施し、現在も引き続き検討を進めています。提出された意見を内容別に分類し、既存のプロセスにより既に対応された意見であるのか、ICGによりさらなる明確化が必要となるのか、もしくは該当する運用コミュニティへの質問が必要となるのか、を判断する作業を行っているということです。

なお、NTIAは2016年9月まで、1年間IANA契約を更新する意向を発表しましたが、これは提案の施行も含めて移行を完了する期間であり、提案の提出が1年延長できるわけではありません。最終的に移管が完了するまでには三つの段階のプロセスがあり、現在は第一段階、すなわち、全世界のインターネットコミュニティが関わることのできる提案策定の段階が終わりに近づきつつあります。2016年第一四半期までに第二段階の対応完了を目指しており、これ以降にずれこむと、米国大統領選挙の影響で審議が進まなくなる可能性が強くなります。

第1段階 提案の策定・提出:幅広い関係者の賛同が得られる提案を策定し、NTIAに提出するまでのプロセス

第2段階 米国政府の審査:NTIAで内容を審査し、米国政府の他部局と調整のうえ、米国議会での承認を得るプロセス

第3段階 提案の施行:提案に基づき、NTIAからIANA機能の監督権限の移管を施行するプロセス

今後のプロセスの段階図:ICANN53の発表スライドより

ICGは、NTIAにより、IANA機能の監督権限提案と同時に提出が求められている、「ICANN説明責任強化に向けた提案」の提出が当初の見込みより も遅れるとされていることを踏まえながらも、引き続き10月中旬にアイルランドのダブリンで開催されるICANN54会議を目処とした目標時期までの提出を目指しながら作業進める姿勢を示しており、今後の具体的なプロセスは、確定次第ICGにより発表されるものと思われます。

米国政府による関心も高まりつつあり、2015年に入ってから、NTIA長官のLarry Strickling氏、ICANN CEOのFadi Chehadé氏ら関係者を証人とした3回の公聴会および米国議会の調査機関であるUS Government Accountability Office(GAO)による本件に関する調査報告書も発表されています。

また、2015年11月にも米国議会での公聴会が予定されており、NTIAおよび米国政府関係者により第二段階に向けた対応も意識されていることが見て取れます。今後の動向も引き続き、IGCJなどの場を中心にご紹介していきたいと思います。

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