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IPv4アドレス移転の注意点

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JPNICでは、2011年8月にIPv4アドレス移転制度を導入して、6年ほどが経過しました。IPv4アドレスを移転によって調達することは、かなり定着してきているようです。

一方で、移転によるIPv4アドレス調達の必要性を感じているけれども、初めてのことで不明な点が多く、準備や手続きが進められないでいる方もいらっしゃるかもしれません。

先日、2017年11月29日(水)に行われたJPOPM33のプログラム「IPv4アドレス移転に関するパネルディスカッション」では、実際に移転を実施された事業者の方から、それぞれの立場で、経験に基づいた情報を共有され、オンサイトでもリモートでも、参加者の関心を集めていました。

本稿では、上記プログラムで伺ったお話や、2014年11月のJPOPM27のプログラム「IPv4アドレスの国際移転をやってみた」で伺った情報も参考に、IPv4アドレス移転を円滑に進めるために準備・考慮しておくこと良さそうなポイントをまとめてご紹介します。


組織内での説明

移転を進めるにあたっては、まず、事前の検討段階において、組織内で承認を受けることが必要な方が多いのではないでしょうか。たとえば、

  • 既存のアドレスの節約やNAT (Network Address Translation)の使用でアドレス不足の解決を図るのではなく、IPv4アドレスの追加調達が適切であるという担当者としての判断
  • IPv4アドレス在庫枯渇前は、申請をして割り振りを受けることでIPv4アドレスを調達することができたが、IPv4アドレス在庫枯渇後は一部のケースを除き(*)、IPv4アドレスの移転でなければIPv4アドレスの調達ができなくなったこと

など、周囲の理解を得るために丁寧な説明が必要となることもあるかもしれません。

(*) 在庫枯渇後のIPv4アドレスの割り振り

APNICのIPv4アドレス在庫が2011年4月に枯渇した後も、「最後の/8ブロックからの割り振り」として1組織につき/22まで、加えて2014年7月からは、返却されたIPv4アドレスからの割り振りとして、1組織につき/22までの割り振りを受けることが可能です。この/22×2の割り振りをすでに受けられているか、いま一度ご確認の上、まだ割り振りを受けていない事業者様は、割り振り申請をご検討ください。

会計処理について

移転によるIPv4アドレス調達は一般的になってきつつあるとは言え、前例は多くなく、会計上の決まった取り扱い方法はまだないようです。

そのため、必要に応じて社内の財務部門、監査法人、税務署などと相談し、移転によって調達したアドレスの使用時期や使用方法を踏まえ、その都度当該ケースについて適切な処理方法を決定していく必要がありそうです。

IPv4アドレスの価格は?

JPOPM33での株式会社Geolocation Technology 風間勇人氏からの報告によると、IPv4アドレスの取引価格は、2017年11月時点で、1アドレス当たり、JPNIC管理下の組織と他のレジストリ管理下の組織間での移転(以下「国際移転」とします)では15~16ドル、JPNIC管理下の組織間での移転(以下「国内移転」とします)では1800円~2000円程度とのことです。

一般的には、移転するアドレスサイズが大きいほど、1アドレス当たりの価格は低くなります。国際移転の方が移転するアドレスサイズが大きいケースが多いため、単純な比較は難しいものの、1アドレス当たりの単価は国際移転の方が低くなっています。

なお、IPv4アドレスの価格は引き続き上昇傾向にあり、現段階で傾向に変化はないことも、併せて報告されました。

相手先は自分で探す?仲介事業者経由で探す?

これまでにお話を伺った中では、相手先を自分で探されたケースと、仲介事業者に依頼して探されたケースのどちらもありました。

もし、既に相手先組織に心当たりがある場合には、直接話すことで移転に向けて進展することもあり得るでしょう。しかし、相手にIPv4アドレスの移転元となる意思があるか(不要なIPv4アドレスがあって、他組織に譲っても良いと考えているか)は、なかなか分かりづらく、ゼロから相手先を探すのは容易ではないかもしれません。

仲介事業者経由で探す場合にも、希望する条件での相手先が必ず見つかるという確約はありませんが、相手先を紹介してもらうことができ、自分で探すよりもリーチできる相手先の幅は広がりそうです。また、過去に取り引きのない仲介事業者を介して移転を進める場合には、与信調査を行うなどして慎重を期すといったことについても紹介がありました。

国内移転 or 国際移転

前述の通り、価格的には国際移転に優位性があるようです。また、過去の実績からは、国際移転の方が大きいサイズのアドレスを調達できているという情況となっています。

一方で、国際移転の場合では、相手先組織(場合によっては仲介事業者も)との間に、言語や商習慣の違いが存在することもあり、注意も必要なようです。

また、国際移転の場合には、あらかじめ「移転可能IPv4アドレス」の通知をJPNICから受けておく必要があります。

アドレスの状態確認と必要に応じた利用前の対応

移転によって調達したアドレスが、割り振りアドレスと比べて使用する上での問題を多く含むかというと、一概にそうとは言えないといったご発言も聞かれました。しかし、国際移転されたアドレスなどで、「リージョンが異なる」と判定されることはあるようです。

接続がブロックされている状態が、単に時間を置くだけでは解決しないこともあり、そのような場合には重要度の高いサイトから個別にブロック解除の交渉を行った、という事例の紹介もありました。

調査や対処方法につきましては、JPOPM33での株式会社ケイ・オプティコム松田祐征氏のご発表にて詳しく紹介されていますので、ご覧ください。

移転にかかる時間

ご紹介いただいた事例の中でも、移転にかかる時間はさまざまなようでしたが、多くの事例をご覧になっている仲介事業者の方からは、「相手先が見つかってから3ヶ月、購入を決めてから1年はかかる」といったご発言もありました。

移転に当たっては、事前の検討、相手探し、契約、国際移転の場合は移転可能IPv4アドレスの通知を受けること、アドレスの状態確認・対処など、移転によって調達したアドレスを実際に使用するためには、そこに至るまでにしなければいけないことが多岐にわたります。その分、手続きに長く時間がかかることが想定されます。そのため、余裕のあるスケジュールで準備を進めると良いのではないでしょうか。

JPOPM33「IPv4アドレス移転に関するパネルディスカッション」の様子

以上は、これまでに伺ったお話などを元に、2017年12月時点での情況を記したものですが、個別には上記に当てはまらないケースもあるかと思いますし、今後、時間の経過とともに情況が変わってくることもあると思います。これらの点にご注意の上、移転を検討されるご担当者様に、少しでもお役に立ていただければ嬉しく思います。

これまでに移転の経験を共有してくださいました事業者の方々に、改めて感謝いたします。また、今後もJPOPM等の機会に、移転の事例をご紹介いただけます事業者様がいらっしゃいましたら、ぜひお願いいたします。

ご参考:IPv4アドレス・AS番号の移転について

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