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インターネットガバナンスの年の瀬

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インターネット推進部の前村です。

2015年も年の瀬となり、皆さん一年間を振り返ることも多いと思います。インターネットガバナンスの領域では、国際連合総会の中でWSIS+10レビューの締めくくりとなるハイレベル会合が12月15日、16日に実施され、同時期となる16日から18日までの日程で、中国では第2回となるワールドインターネットカンファレンス・烏鎮(ウーヂェン)サミットが開催されました。JPNICからは現地に参加した役職員はいませんが、これらの結果は数々のメディアが伝え、コミュニティでもかなり共有されています。JPNICでも情勢をウォッチしていますので、本稿で紹介したいと思います。

WSIS+10レビュー

まず、WSIS+10レビューです。これは、2005年に開催された世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society, WSIS)チュニス会合から10周年にあたる今年に、WSIS成果文書で示された方針の実施状況の振り返りを行うものです。

UNGA WSIS+10 High Level Meeting by Sam Dickinson CC BY-NC-SA 2.0

まずWSIS成果文書では、ICTによる開発などとともにインターネットガバナンスに関しても示されていました。特に各国政府のインターネット国際公共政策に対する政府の関わり方が、「拡大協力(Enhanced Cooperation)」という玉虫色の言葉で示されたことから、それ以降、政府のインターネットガバナンスに対する関与のあり方が、国際電気通信連合(International Telecommunications Union, ITU)などの国連会議体で繰り返し俎上に上げられ、ITU IPv6グループ2012年世界国際電気通信会議(World Conference on International Telecommunications 2012, WCIT-12)など、いくつかの大きな議論を呼びました。

このような経緯から、WSISチュニス会合以降の活動の総まとめとなるWSIS+10レビューには、政府だけでなくさまざまな非政府ステークホルダーが注視していました。非政府ステークホルダーは、現行の、政府を含めたマルチステークホルダーによるグローバルインターネットの運営が重要であることや、ICTによる開発に関しても、非政府ステークホルダーが果たす役割の大きさを訴えたいという立場です。一方政府側には、先進国では現行の体制を支持する向きが多いものの、その他では政府間(マルチラテラル)の活動や会議体の権限強化を訴える国が少なくない、という対比があります。

国連におけるレビュープロセスは本年6月に正式に始まり、7月と10月の準備会合では、非政府ステークホルダーからの意見聴取を行うコンサルテーションセッションも開催されるとともに、オンラインの意見募集が随時行われました。非政府ステークホルダーもこれらに積極的に参加し、上のような立場を訴え、成果文書への反映を試みました。JPNICからは、私が7月のコンサルテーションに技術コミュニティの一員として参加するとともに、意見募集に対して意見を提出しました。(7月の意見提出)(9月の意見提出)(12月の民間共同声明に対する賛同

筆者が参加した7月のヒアリング

このような意見聴取を経て、国連加盟国の中で文言の調整が行われた結果、WSIS+10レビューの成果文書が12月16日に採択され、公開されました。結果的には、例えばマルチステークホルダー対マルチラテラルという観点では、WSISチュニス会合の成果文書であるチュニスアジェンダの文言を参照して両論併記されるなど、うまくまとめられたものになりました。

また、2014年4月に開催されたNETmundial会合をブラジル政府が主催したことに触れられていることも、印象的なこととして挙げられます。そして、今年で5年間2回の活動年限を終了するインターネットガバナンスフォーラム(IGF)の活動年限を、10年延ばすことも盛り込まれました。IGFの活動年限延長に関しては、多くの政府もこれを支持していたようです。

このように、国連など、マルチラテラルな会議や場におけるインターネットの取り扱いに対し、非政府ステークホルダーは一挙手一投足に注目し、対応してきましたが、このWSIS+10をもって、一つ大きなイベントが終わったと言えます。しかし、グローバルなインターネットの現在の運営体制に異議を唱える政府がいなくなったわけではありませんので、今後もこのような政局対応は続くと思われます。

ワールドインターネットカンファレンス・烏鎮サミット

中国は、グローバルなインターネットの現在の運営体制に異議を唱える、そういった国の一つと言っても良いでしょう。その中国が昨年2014年に始めたのが、ワールドインターネットカンファレンス・烏鎮(ウーヂェン)サミット(World Internet Conference Wuzhen Summit)(以下、烏鎮サミット)です。今年2回目の会合には、主催者発表で100カ国以上から1,000人程度の参加者が集まりました。

Wuzhen Villages by setiadi CC BY-NC 2.0

中国政府からは習近平国家主席が、中国産業界からはAlibabaグループのJack Ma氏が参加するなど、中国としては力が入っています。政府高官は、中国との関係が深いところに留まりましたが、産業界は、中国企業との関係が深いところを中心に、多く参加しています。国連総会、WSIS+10レビューの日程中ではありましたが、ITUの事務総長であるZhao Hualin氏、ICANNの事務総長 Fadi Chehadé氏も参加しました。

中国は国の規模とともにインターネットの規模は大きく、産業としても力を入れています。烏鎮サミットでは最新技術など産業面の内容も多かったようですが、インターネットのガバナンスに関してもセッションが持たれました。習近平国家主席を始めとする政府関係者はサイバー主権(Cyber Sovereignty)やインターネットの秩序維持の重要性など、一貫した中国の姿勢を示していました。

また、烏鎮サミットは成果として烏鎮イニシアティブ(Wuzhen Initiative)と名づけられた文書を示しました。これが、NETmundial Initiative(NMI)(NMIに関してはこちらを参照)との名称の類似、今回設置された烏鎮サミットのハイレベル諮問委員会(High-level Advisory Comittee, HAC)の共同議長に、NMIの調整評議会の共同議長にも名前を連ねる Fadi ChehadéとJack Maが指名されたことなどから、両者の混乱からいろいろな憶測を呼びました。また、烏鎮イニシアティブは烏鎮サミットの成果として示された文書ですが、参加者はもとよりHACの中でも検討されていない文書です。

中国が主催する烏鎮サミットは、ブラジルが主催したNETmundial会合と比較されることがありますが、NETmundial会合では世界中の関係者からの寄書やコメントを元に、マルチステークホルダーによる委員会が起草した成果文書(NETmundial声明)案を、参加者全員で採択した形を採りましたので、アプローチはまったく異なります。

このように、いろいろと気になる烏鎮サミットですが、インターネットコミュニティでも急速に存在感を増している中国の動向として、今後も目を離せなさそうです。

一つのインターネットに三つの世界会議

最後に、記事一つを紹介します。Wolfgang Kleinwächterという、デンマークのオーフス大学の名誉教授ですが、インターネットガバナンスの領域では非常に有名な有識者です。

この記事では、IGF、WSIS+10、烏鎮サミットという三つのカンファレンスを挙げて比較するとともに、1814のウィーン会議など歴史を紐解いて、今後のインターネットガバナンスのあり方を論じています。長い記事ですが、今に至るインターネットガバナンスの流れについても、氏にしか持ち得ない視点から整理されています。ご興味があれば、お正月のお休みにでも、どうぞ。

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