コミュニティがより参画できるICANNへ ~ICANNの説明責任強化に向けた検討~
dom_gov_team インターネットガバナンスIANA (Internet Assigned Numbers Authority)機能監督権限移管に伴い、IANA機能をグローバルなインターネットコミュニティが監督する体制となったことは、JPNICよりICANN報告会や日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)、メールマガジン JPNIC News & Viewsなど、さまざまな方法でご紹介してきました。また、JPNICからの情報提供だけでなく、この監督権限移管については各種メディアでも取り上げられてきました。
一方、IANA機能監督権限移管の一環として、ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)コミュニティがICANNの運営に関する重要な意思決定に参画できる体制となったことは、ご存知でしたか?
ICANNを信頼に足り得る安定した組織とするために、ICANN説明責任強化に向けた検討は現在も継続して取り組まれており、第57回ICANN会議の前日2016年11月2日に、現地のインド・ハイデラバードで終日議論が行われました。
JPNICでは、前述したように各種メディアにて監督権限移管に関する一連の動向をご紹介してきましたが、この機会に改めてBlogでもご紹介します。
経緯:IANA機能監督権限移管
米国商務省電気通信情報局(National Telecommunications and Information Administration; NTIA)は、IANA機能監督権限を移管する意向を発表した後、もう1点、ICANN説明責任強化に向けた提案の提出もグローバルインターネットコミュニティに求め、IANA機能監督権限移管に関する提案と併せて2点の提案が揃った上で、移管に向けた審査を行うことを公言していました。そこでIANA機能監督権限移管に向けて、グローバルインターネットコミュニティは「IANA機能監督権限移管に関する提案」と「ICANN説明責任強化に向け提案」の二つの提案の策定を進めました。
これは、移管後のIANA機能についての監督体制そのものだけではなく、IANA機能の運用に関わるICANN自身が、米国政府が監督しなくなっても、信頼に足る運営ができることを担保する必要があると考えられたためです。米国議会に対して、他の政府(特に反米の政府)にICANNが乗っ取られる懸念はないことを示す必要性があったことも、もう一つの理由と考えられます。
コミュニティによる検討
これを受け、ICANNコミュニティは、Cross Community Working Group on Enhancing Accountability (CCWG-ACCT)を立ち上げ、ICANN説明責任強化に向けた提案を行いました。
コミュニティでの検討にあたっては、まずはICANN説明責任強化に向けた検討について、長期的に取り組むべき対応と、IANA機能監督権限と併せて施行すべき対応に分け、二つのフェーズで検討を進めることが合意されました。
Work Stream 1 (WS1):IANA機能監督権限移管と併せて施行する提案
Work Stream 2 (WS2):長期的に検討し、対策を施行する提案
CCWG-ACCTでは、ICANNにおける各種支持組織(SO)および諮問委員会(AC)を横断する検討委員会として、一般インターネットユーザー、IPアドレスコミュニティ、ccTLDやgTLD、政府、セキュリティと安全性に関する専門家等、さまざまな立場の関係者が検討に参加しました。
番号資源コミュニティを代表するアドレス支持組織(ASO; Address Supporting Organization)からはJPNICの奥谷泉他3名、またIETFはICANNのSO・ACではないですが、IAB (Internet Architecture Board)の議長であるAndrew Sullivan氏自らが提案策定に向けた議論に参加しました。ASOは、IANA監督権限移管について議論するグローバルな番号資源コミュニティMLと適宜各地域インターネットレジストリ(RIR)のMLで紹介・相談の上、ASOとしての公式な意見表明を行ってきました。
WS1:IANA機能監督権限移管に伴うICANNの説明責任強化体制
ICANN説明責任強化に向けてNTIAへ提出された提案により、ICANNのコミュニティがICANNの運用に関わる重要な意思決定に対して関わる権限を持つ体制になったことが、大きなポイントです。
ICANNコミュニティによる新たな権限
これまでは、ICANN理事会がすべての意思決定を担い、事前に意見募集や相談は行われるものの、ICANNコミュニティが関与する権限はありませんでしたが、提案により、SO・ACは以下のICANNの重要な意思決定に権限が与えられることになりました。
- 基本的定款改定の承認
- 通常定款改定の棄却
- 理事会メンバーの解任
- 理事会全体の解任
独立評価パネル(IRP)の仕組みの強化
これまでも、ICANN理事会・事務局の意思決定に対して再考を促す独立評価パネル(IRP)はありましたが、実質的に目的を果たす上で有効ではないとして、改定を実施することになりました。
ICANN定款の改定
上記に挙げたものをはじめとする変更を実装するため、ICANNの定款も改定されました。主な改定内容は以下の通りです。
- 組織の安定的運用のため、ICANNの鍵となる価値観に関わるものは「基本的定款」と定義し、改定には理事会承認に加え、SO・ACからなる「強化されたコミュニティ(Empowered Community, EC)」の承認を必要とする
- ECによる権限の反映
- NTIA-ICANN間の責務の確認(AoC:Affirmation of Commitment)の内容を反映
さらに、提案に基づくICANN体制に対して、あらゆる問題をシミュレーションし、それらの事態に対応できるのか検証したストレステストも提案文書の一部として取りまとめられました。ストレステストは多岐の分類、項目にわたり、米国議会に対して、他の政府による乗っ取りにつながらないことを説得する上で、重要な役割を果たしました。
WS2:IANA機能監督権限移管後も継続するICANNの説明責任強化に向けた検討
このように、IANA機能監督権限移管と併せたICANN説明責任強化提案の提出提案は完了しましたが、本件は長期的な検討を必要とする課題として、引き続き検討が継続しています。
現在は課題が以下の通り分類され、それぞれに特化したSub-Groupを設けて検討が行われています。
- Diversity(多様性の向上)
- Guidelines for Good Faith Conduct(理事メンバー・理事解任に伴う訴訟リスク対応)
- Human Rights(人権)
- Jurisdiction(ICANNが持つ法律権限の管轄の適正さ)
- Ombudsman(オンブズマン)
- Reviewing Cooperative Engagement and Indecent Process(CEP) (CEPの検証)
- SO/AC Accountability(SO/ACの説明責任強化)
- Staff Accountability(ICANN職員の説明責任強化)
- Transparency(透明性の向上)
2016年11月2日、インド・ハイデラバードで開催されたCCWT-ACCT会議では、テーマごとの議論と今後の対応が確認され、新ICANN CEOのGöran Marby氏が、1時間ほど会議に参加し、ICANNが信頼を得る形として透明性を重視していくことを語る一幕もありました。
これら検討課題のうち、誰もが参加しやすいICANNに向けた取り組みとして、JPNICでも着目している検討項目は「SO・ACの説明責任強化」と、「多様性の強化」です。
SO・ACの説明責任強化
それぞれの立場を代表する各SO・ACへの参加を通じた、ICANNでの議論への参加しやすさ・動向把握につながるものとして期待したいところです。
多様性の強化
ICANNにおける議論は、現実には現在英語・欧米中心の文化ですが、その他の言語・文化圏の人々が議論に参加しやすく、リーダーシップを取れるICANNとなることは、ICANNがグローバルなインターネット組織である立場から重要と考えられます。
これらICANN説明責任に関する議論は、メーリングリストと電話会議を中心に行われており、誰でも参加することが可能です。ICANNは遠い存在だと感じられがちだと思いますが、ICANNは誰にも開かれているICANNを目指しており、 例えば日本から参加する立場から多様性の観点において「こうしたらもっと議論に参加しやすい・ICANNの動向を追いやすい」といったコメントは歓迎されるはずです。
ICANNでの議論の最新動向をもっと知りたい方は、次回ICANN報告会を2017年1月に予定しています。詳細が決まり次第、JPNICからご案内いたしますので、ぜひご参加ください。