AFRINIC 26レポート [前編] ~全体概要~
ip_team IPアドレス 他組織のイベントAFRINIC (African Network Information Centre)の主催により、2017年5月27日(土)~6月2日(金)にケニア・ナイロビで開催された、AFRINIC 26ミーティングに参加してきましたので、本ミーティングのレポートを前後編に分けてお届けします。前編となる今回は、AFRINIC 26の全体概要をご紹介します。
AFRINIC 26へのJPNICからの参加者は、APNIC理事(Executive Council)の立場で参加した筆者(奥谷泉)と、ICANN理事の立場で参加した前村昌紀です。前村も、JPNIC News & Views vol.1507で会議報告を執筆していますので、併せてご覧ください。
地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)ミーティングの中でも、私自身AFRINIC会議は初めての参加であり、同じIPアドレスの管理を取り巻くコミュニティであっても地域によって、そのコミュニティの様子は本当に多様であることを実感しました。
■全体概要
AFRINIC 26は、アフリカ地域におけるRIRである AFRINICが主催しているミーティングです。
同時に、Africa Internet Summit (AIS) 2017カンファレンスとの併催イベントとして、今年の来場者は642名が記録されています。AISには、アフリカ地域におけるインターネットに関わるさまざまな業界団体が関わっており、AFNOG (African Network Operators Group)、AFTLD (Africa Top Level Domain Organization)、AfricaCERT等のイベントも開催しています。また、ICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)やISOC (Internet Society)が企画するセッションが設けられていたことも印象的でした。
■プログラム
プログラム全体:
AIS 2017のプログラムからは、カンファレンス全体として、多様な分野がカバーされていることが見て取れます。各分野における基本的なチュートリアルもあれば、Bitcoin Blockchain ForumやAndroid Apps Tutorialのような、現在の動向に応じたセッションも開催されていました。
私は今回、APNIC理事のミッションで会議に参加した立場から、アドレスポリシーやAFRINIC総会等、APNICの業務に関わるセッションを中心に参加しましたが、AFNOGやAfricaCERT等、運用に関わるトピックスでも多くのセッションを開催しています。例えば、今回はBest Current Operational Practices (BCOP)のHackathonを開催し、盛況だったとISOCの担当者から聞いています。
なお、アフリカ地域におけるNetwork Operator GroupであるAFNOGは、「success!」をスローガンとして掲げています。これを元に、オープンニングセッションではAFNOGチェアのNii Quaynor氏が「AFNOG!」と呼びかけると、「success!」と参加者が応えるやりとりが何度か繰り返され、気運を上げる一幕もありました。
着目されたトピック:
今回の会議で最も着目されていたトピックは、「インターネットシャットダウン」への対策として提案された、アドレスポリシーに関する議論の行方でした。
インターネットシャットダウンとは、主に政治的な背景からインターネットの遮断を行う行為を指します。AFRINIC地域では、過去数年間で複数の国によりインターネットの遮断が行われ、今年に入ってからはカメルーンでの遮断が話題になったことから、普段アドレスポリシーへの興味がない地域内外の関係者も含め、着目していたようです。
実際、インターネットシャットダウンについては急遽、パネルディスカッションセッションを設けて議論を行ったり、会議開催後にAF*およびAFRINICがそれぞれ声明を発表したことからも、大きく注目されていたトピックであったことが見て取れます。
- Common Statement By AF* on Internet Shutdowns in Africa
- Statement on Internet Shutdowns Policy Proposal
インターネットシャットダウンに関する議論は、次回のブログ記事で詳しくご紹介する予定です。
■議論の様子
会議全体の印象としては、非常に議論が活発であり、欧米での議論と比較して、自分の見解を直接的にはっきりと主張をしている様子が興味深く、刺激になりました。
地域内では、いろいろ複雑な事情(言語圏(英語圏、フランス語圏)による対立等)もあり、地域内の関係者に参加して面白かったとの感想を述べると、「それはどういう意味で?」という皮肉るような答えが返ってきます。また、一部の地域外の参加者は「激しい議論をしているが、みんな裏で誰かから指示されて、その特定の立場を守るために発言しているだけだ。」との洞察を示していました。
そのような事情を踏まえても、地域内でこれだけ活発な議論が行われ、鍛えられる環境であることを目の当たりにしました。
実際、地域外の会議において、アフリカ地域からの参加者は堂々と主張をしていることが日頃から印象的で、他の参加者がお互いに遠慮をするあまりに婉曲な表現で議論をする中、「ここはおかしい。こうするべきだ。」と直接的な発言をし、全体としてそれに従う流れにつながることがあります。
このように声に出して必要な主張をする姿勢は、それぞれの地域性があるため、そのまま同じように対応することが最適ではないとしても、アジア太平洋地域としても学ぶところがあるように思いました。
■決議事項
全体の動向としては、AFRINIC地域はまだIPv4アドレスの未分配在庫が枯渇していないこともあり、アドレスポリシー提案が合計8件議論され、このうち、1点がコンセンサスに至りました。
Lame Delegations in AFRINIC Reverse DNS | 継続議論 |
Route Aggregation Policy | 継続議論 |
IPv4 Softlanding | 継続議論 |
Softlanding SD | 継続議論 |
Inbound Transfer Policy | 継続議論 |
Anti-Shutdown | 継続議論 |
Internet Number Resources Review by AFRINIC | コンセンサス |
AFRINIC Policy Development Process BIS | 継続議論 |
APNIC地域にも影響を及ぼすものとしては、他のRIR地域からAFRINIC地域への、一方向のみのIPv4アドレス移転を認めるポリシー提案が行われましたが、コンセンサスに至らず継続議論となりました。
このような、AFRINIC地域に入ってくる一方向のみの移転が提案されている背景には、AFRINIC地域全体に分配されたIPv4 アドレスが他RIR地域と比較して飛躍的に少ない中、双方向でのRIR地域間の移転を認めると、地域外へのさらなるIPv4アドレスの流出につながる可能性が懸念されているようです。
この他、AFRINIC地域におけるASO AC (Address Supporting Organization Address Council)メンバー選出や、AFRINIC理事選挙も実施され、 ASO AC1席、理事改選3席に対して、現職理事1名の再選を除き、メンバーが一新される結果となりました。
選挙の様子は写真も含めてAISカンファレンス報告で紹介されていますので、そちらをご覧ください。
AFRINIC地域から新たに選出されたASO ACメンバー
Mukhangu Noah Maina氏(各RIR地域から3名)
■AFRINIC理事との意見交換
会議の最終日には、AFRINIC理事とAPNIC理事で、理事会の運営やIPv4アドレス在庫枯渇後の環境を踏まえた、重点対応について意見交換を行いました。この意見交換は非公式なものでしたが、会議を通して双方の理事による関係構築のきっかけにつながったように思います。
これを機に、今後も継続的な意見交換を行うことが双方の理事メンバーに支持されたことは、RIR全体として情報発信や連携が必要となっている今日の環境において、有意義であったと思います。
■参考情報
AFRINIC 26全体概要のレポートは、JPOPM 32ミーティングでも発表を行っています。資料はこちらに掲載されています。
また、AIS 2017のデイリーレポートが、写真付きでAIS 2017のWebサイトに掲載されています。ここでご紹介しきれなかったトピックスを含め、カンファレンスでの議論に関するより包括的な報告に興味のある方は、ぜひこちらのレポートをご覧ください。
文中でお伝えした通り、今回のAFRINIC 26ミーティングで議論されたインターネットシャットダウンに関する話題は、次回のブログ記事で詳しくご紹介いたします。