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AFRINIC 26レポート [後編] ~インターネットシャットダウンに関する議論~

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AFRINIC 26のご紹介は前後編に分けてお届けしており、前編ではミーティングの全体概要をご紹介しました。今回の後編では、会期中、特に着目されたインターネットシャットダウンに関する議論についてご紹介します。

■インターネットシャットダウンに関する議論を取り巻く状況

インターネットシャットダウンとは、主に政治的な背景からインターネットの遮断を行う行為を指します。

アフリカ地域では、今年に入ってから、カメルーンにおける英語圏の地域に対する90日以上に及ぶインターネットシャットダウンが、世界的にも話題になり、BBC等のメディアでも取り上げられました。しかし、これに限らず、地域内では過去に遡ると、インターネットの遮断を実施した国が他にも複数確認されています。

現在、日本ではあまり考えられない状況でありますが、インターネット全体の安定性を考えると、安易にシャットダウンに走った場合の影響を、十分に理解する政府を増やしていく働きかけ・理解促進が大切になってくるように思います。

同時に、政府によるインターネットシャットダウンに対して、私たち政府以外の立場の関係者が、どう反応するのかは非常に慎重な対応を必要とします。今回、AFRINIC 26ミーティングにて、インターネットの遮断に対する提案が挙がっていることについて、政府に対する民間からの制裁として解釈され、アフリカ地域に限らず、一部の政府関係者からは警戒をもって着目されていると聞いています。

■パネルディスカッション

本セッションは、当初はプログラムとして予定されておらず、インターネットシャットダウンに対するアドレスポリシー提案が地域内外から大きく着目されたことから急遽開催が決定し、オープニングセッションにて発表されました。

アフリカインターネットの父として知られているNii Quaynor氏がモデレータを務め、「政府」、「市民社会」、「AFRINICコミュニティの関係者」等、さまざまな立場のパネリストがシャットダウンに関する見解を示し、参加者も交えた議論を展開しました。

インターネット遮断の背景として、政治的な事情、国防のため等の理由が紹介された上で、「政府によるインターネットの遮断に対して、AFRINICのような技術コミュニティは制裁を加えることができるのか、また加えるべきなのか。加えた場合、めざしている効果が得られるのか。」との問いがモデレータから投げかけられました。会場からはさまざまな意見が表明され、すべての参加者が納得する明確な方向性を確認するまでには至りませんでした。

しかし、登壇者から最後に一言ずつコメントを求める中で、大筋としては「誰もインターネットシャットダウンを支持はしない。一方、感情的に批判するよりも、インターネットシャットダウンには経済的な影響があり、その点を十分に理解した上で政府が対応できるよう働きかけることが建設的」との方向で、議論が締めくくられました。

■アドレスポリシー提案

Anti-Shutdown」と題された本アドレスポリシー提案は、結論としてコンセンサスに至らず、継続議論となりましたが、非常に多くの議論を呼び、AFRINIC 26に先立ちハンガリー・ブタペストで開催されたRIPE 74会議でも、情報共有・議論喚起目的で発表されています。

提案者によるインターネットシャットダウンの定義:

本提案では、インターネットシャットダウンを以下のように定義しています。

Internet Shutdown: A government ordered blocking access to the general internet. Said definition does not preclude a government from censoring content that is not legally permissible within the laws of said country, on the provision that said censorship does not include a law that says “All content irrespective of its source or its nature”.

Partial Shutdown: The shutdown of a communication mechanism (e.g. WhatsApp, Social Media, Voice Traffic etc.), outside the standing law of the country.

提案概要:

インターネットの遮断を実施した国に対して、段階的にさまざまな対策を提案しています。いくつかの提案要素のうち、最も強い要件としては、過去10年間に3回以上インターネットシャットダウンを実施した国の政府機関(50%以上のシェアを政府が保有している組織も対象)から、IPv4アドレスをAFRINICが回収する内容となっています。

提案者・提案の背景:

提案者は、アフリカ地域初の商用事例として、南アフリカでIPv6の導入を行ったことでも知られているLiquid Telecom社です。提案理由としては、インターネットの遮断は経済および国民へのダメージを与え、インターネットへのアクセスという人権に抵触する可能性があると説明しています。また、セッション中に提案の背景として、政府から合法的な手段もなく、インターネットシャットダウンをISPが迫られる場合、経済的なインパクトがISPにあり、また、顧客に対して説明がつかないことを懸念事項として挙げていました。

提案への反応:

議論にあたってはマイクに長蛇の列ができ、会場のおおよその反応としては問題意識に一定の理解は示す意見はあるものの、ポリシー提案として対策を取ることには反対との意見が多かった印象です。そもそもポリシー提案として認めるべきではなかったとの意見もあり、それは判断が難しいところではありますが、意図を評価する意見は一定数表明されたものの、提案の実装を進めることにそれほど強い支持が見受けられたなかったことを踏まえると、継続議論となったことに私もやや驚きました。

この結果を受けて発表されたのが、次項「インターネットシャットダウンに関する声明」でご紹介する、AF*およびAFRINICによる声明です。

余談:

インターネットシャットダウンを実際に参加者が体験する効果を狙い、発表者は登壇中、会場ネットワークのアクセスを数分間遮断しました。IPv6接続は意図的に遮断されなかっため、私もその間、Facebook、Google等のIPv6対応のWebサイトにはアクセスできるものの、IPv4のみのものにはアクセスできなくなる状況を、非常に短い時間でしたが体験しました。

会場のAFRINIC担当者からは、「リモート参加への影響があるから二度としないでほしい」と、きつく怒られていましたが、インパクトのある試みではあったと思います。

Anti-Shutdownアドレスポリシー提案に関する議論:スタンドマイクへの長蛇の列

■インターネットシャットダウンに関する声明

AF*による声明:

アフリカ地域における各種インターネット組織が共同で発表したAF*としての声明は、政府によるインターネットシャットダウンを支持しないとの姿勢を示しつつ、本件に関するAFRINICに提出されたアドレスポリシー提案は、実際に適用することが現実的ではないとしています。

AFRINICによる声明:

これは「AFRINICがインターネットシャットダウンへの対策としてアドレスポリシー提案を提出している」との、一部政府関係者による誤解を受け、AFRINICではなく、コミュニティからの提案であることを明らかにすることを目的とした声明です。このため、本声明は、提案の中身について詳しく言及するのではなく、AFRINICにおけるアドレスポリシー策定プロセスの仕組みを中心に説明をしています。

これら一連の状況について、このような提案を誰もが行うことができると同時に、コミュニティ自身で提案の妥当性を判断し、適切ではない内容は支持されないというチェック機能が働いていることを、政府を含めRIRやNOG会議に普段参加している以外の関係者に理解してもらうことが、重要ではないかと思います。

そして、インターネットの安定的な運営に向けた適切な対応について、技術者以外の方への理解が広がっていくよう、みなさんと協力しながら、JPNICとしても貢献していければと考えています。

インターネットシャットダウンに関するパネルディスカッション

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