APNIC 45でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案ご紹介
ip_team IPアドレス 他組織のイベント2018年2月25日(日)~28日(水)の日程で、ネパール・カトマンズにおいてAPNIC 45カンファレンスが開催されます。春のAPNICカンファレンスは、APRICOTカンファレンス期間中に同時開催されるのが通例となっています。
APNIC 45 Webサイト https://conference.apnic.net/45
アドレス管理組織であるレジストリは、IPアドレス・AS番号の分配ルールを定めたポリシーの策定プロセスを、PDP (Policy Development Process)としてまとめています。PDPでは、ポリシー提案の提出から実装までが一連の流れとしてわかるようになっています。
APNICでのPDPは、IPアドレス・AS番号の分配ポリシーに関する議論を、ポリシーSIG (Special Interest Group)で行うこととしています。議論は主にポリシーSIGのメーリングリストで行われていますが、1年に2回開催されるAPNICカンファレンスにおいて、オープンポリシーミーティングという名称でオフラインでの議論の場を設けることとしています。多くの関係者がここに集まり、顔を合わせての議論を行います。
今回のポリシーSIGでは、ポリシーの変更提案4点の議論が予定されています。提案の詳細は、提案のタイトルに張られたリンクから確認することができますので、ぜひ一度ご覧ください。
また、継続議論になっている提案について、これまでどういう議論が行われてきたのかについては、JPNICのメールマガジンでご紹介しています。併せてご覧いただければ、参考になるかと思います。
JPNIC News & Views vol.1483
APRICOT 2017/APNIC 43カンファレンス報告 [第3弾] アドレスポリシー関連報告
JPNIC News & Views vol.1539
APNIC 44カンファレンス報告 [第3弾] アドレスポリシー関連報告
■prop-118「No need policy in APNIC region」
(APNIC地域のIPv4アドレス移転時における要件緩和についての提案)
この提案は、IPv4アドレス移転における手続きを簡素化するものです。ホーチミンシティ開催されたAPNIC 43カンファレンスおよび、台中で開催されたAPNIC 44カンファレンスで議論が行われました。議論の結果、いずれもコンセンサスに至らず継続議論となっています。
現在APNICでは、APNIC契約組織間の移転かどうか、北米地域を管轄するレジストリであるARINやJPNICなどのAPNIC以外のレジストリ契約組織からAPNIC契約組織への移転かどうかに関わらず、IPv4アドレスの移転を受ける組織(移転先組織)は、今後2年間の需要を元にしたIPv4アドレス利用計画を、APNICへ提出し承認を受ける必要があります。
ARINが、移転先組織にIPv4アドレス利用計画の提出を義務付けるポリシーを実装しているレジストリとのみIPv4アドレス移転を許可していることから、現在のポリシーが制定されました。
ヨーロッパ地域を管轄するレジストリであるRIPE NCCでは、APNICと同様に、移転先組織にIPv4アドレス利用計画の提出を義務付けるポリシーとなっています。
今回の提案では、RIPE NCCの基準に合わせるよう、以下の通りポリシーを変更こととしています。2018年2月19日時点では、APNIC 44カンファレンスでの提案内容から、修正は加えられていないようです。
- APNIC契約組織間のIPv4アドレス移転は、利用計画の提出なしにすべて受け入れる。
- 移転先組織に利用計画の提出を義務付けている地域からのIPv4アドレス移転は、移転後5年以内に移転を受けたアドレスの50%を利用する計画を示すこととする。
APNIC 44カンファレンスでの議論では、APNIC担当者から過去1年間に現行プロセスでも申請を通過できなかったケースはほとんどなかったことが報告され、その報告を受け、要件緩和の必要性を問うコメントが出されていました。
また、APNIC担当者によるチェックを行う現行プロセスが、虚偽の移転申請を防ぐことにもつながっているとのコメントも出されていました。
■prop-119「Temporary transfers」
(終了時期を定めたIPv4アドレスの一時的な移転提案)
この提案は、一時的なIPv4アドレス移転を行うことを可能とするものです。APNIC 44カンファレンスで議論が行われましたが、コンセンサスに至りませんでした。そのため、今回も継続して議論が行われます。
現在APNIC地域では、一時的なIPv4アドレスの移転は認められていません。そのようなこと実現する場合には、移転先組織へ一旦IPv4アドレスを移転した後に、移転元組織への移転申請を行う必要があります。
この提案では、以下の内容をポリシーに追加し、上記のケースのような、再度の移転申請を不要としています。2018年2月19日時点では、APNIC44カンファレンスでの提案内容から修正は加えられていないようです。
- 一時的なIPv4アドレス移転を希望する場合には、移転終了日を設定する。
- 移転終了日の延長について移転元および移転先組織の合意がない限りは、移転終了日をもって、対象のIPv4アドレスの分配先は移転元組織に戻る。
- 移転終了日時点において移転元組織が合併や買収されていた場合には、その後継となる組織に戻すこととする。
- 移転元組織のアカウントおよび後継となる組織が存在しない場合、対象のIPv4アドレスは管理元のRIRプールに戻すこととし、さらなる移転はできない。
APNIC 44カンファレンスでの議論では、APNICやJPNICといったインターネットレジストリの担当者の、負荷が増大することを懸念するコメントが出されていました。
また、分配先が容易に変わることによるデータベース登録情報の信頼性、手続き方法、費用の取り扱い方法など、多岐にわたるコメントが出されていました。
■prop-120「Final /8 pool exhaustion plan」
(「APNICにおける最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫」枯渇後の分配方法についての提案)
この提案は、APNIC 43カンファレンスで議論が行われた、prop-117「Returned IPv4 address management and Final /8 exhaustion」について、議論の結果、コンセンサスに至らず継続議論となった部分を抜き出して、改めて別の提案としたものです。
APNIC地域における、「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」の枯渇後の運用方法を、次のように定めるものです。
- 「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」から1組織最大/22、「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」から1組織最大/22の割り振り・割り当てを行う。
- 「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」からの割り振り・割り当てを行うことができなくなった場合、待機者リストを作成し、そのリストに基づき割り振り・割り当て行う。
APNIC 44カンファレンスで議論が行われましたが、コンセンサスに至らず継続議論となりました。議論を踏まえ、最新の提案内容では以下の点が削除されています。
(APNIC 44カンファレンスでの提案内容からの変更点)
- 「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」からの割り振り・割り当て終了後は、「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」へ一つにまとめる。
- 一つにまとめられた「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」から、1組織あたり/21の割り振り・割り当てを行う。
- プールが一つにまとめられる以前に/21まで分配を受けていない組織は、「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」から/21になるまで割り振り・割り当てを受けることを可能とする。
- 「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」から割り振り・割り当てを行うことができない場合、待機者リストを作成し、そのリストに基づき割り振り・割り当てを行う。新規契約者には優先的にリストに登録される。
議論では、新規参入する組織に対して、必要最小限の割り振りを行うことを目的とする「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」の考え方を尊重して、これまで通りの運用を行った方が良いとのコメントが出されていました。
また、「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」から1組織最大/22、「IANAから再割り振りされたIPv4返却在庫」から1組織最大/22、合計で1組織/21とするIPv4アドレスの分配量についても、再検討を行った方が良いとのコメントが出されていました。今後は、この点についても新たな提案が提出される可能性があります。
■prop-123「Modify 103/8 IPv4 transfer policy」 (「APNICにおける最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫」の移転禁止ポリシーの修正提案)
この提案は、APNIC 44カンファレンスでコンセンサスとなり、2017年12月にポリシー文書に反映された、「APNICにおける最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫」の移転禁止の条件を緩和するものです。
現在、APNIC地域では、「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」からの割り振り・割り当てIPv4アドレスは、割り振り・割り当てから最低でも5年を経過しないと、他の組織に移転・移管することができません。
上記ポリシーがコンセンサスとなった2017年9月14日以前に、「/8相当の最後のAPNICにおけるIPv4未割り振り在庫」から割り振り・割り当てが行われたIPv4アドレスについて、移転・移管を認めるようポリシーを変更する提案となっています。
(写真はAPNICのflickrサイトより)
写真は、APNIC 44カンファレンスでの様子です。議論は会場だけではなく、メーリングリスト上でも行われます。何気ない一つのコメントが議論の流れを変え、今後を左右する重要な要素へと育っていくこともあります。そこからまた別の提案が生まれたり、反対に議論が収束に向かうこともあります。こういったところが、ポリシー提案に関する議論の醍醐味かもしれません。
興味を持たれた方や、提案について意見のある方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。残念ながら現地での議論には参加できない場合には、リモート参加も可能です。リモート参加の方法は、APNIC 45カンファレンスのページをご確認ください。