パリ・コールとマクロン大統領の演説 – IGFパリで始まった大きなうねり
dom_gov_team インターネットガバナンス2018年11月12日から14日、フランス・パリで、2018年のインターネットガバナンスフォーラム(IGF)が開催されました。今回残念ながら、JPNICからはIGF会合への参加はなく、東京から様子を伺っていました。オープニングセレモニーは1日目11月12日の現地時間15:30から。日本時間では23:30と夜中でしたが、SNSを見ていると、マクロン仏大統領が行ったスピーチに関するエントリーが、IGFに参加したインターネット関係者から次々に並んでいきました。中には嫌悪感や不信感をあらわにしたものもありました。
オープニングセレモニーの模様は、録画と速記録で以下からご覧いただけます。
マクロン大統領の演説は、1時間のオープニングセレモニーのうち40分を占めました。その内容は、現代社会がインターネットなしには成り立たず、社会の重要な機能がインターネットに依存している一方で、インターネットとそれに依存する社会が、インターネット経由の悪意による攻撃に脆弱であることに対する危機感を訴えた上で、国際社会やインターネットのステークホルダーが、IGFに集って対話をする以上に、実効性のある対応を力を合わせて行っていくことを呼びかけたものでした。その意思が、会合テーマである “Internet of Trust” に端的に示されています。その上で、「インターネットには正しい規制が必要」といった表現が散見され、これらが参加者の嫌悪感を引き起こしたわけですが、短い言葉で言いきってしまうことなく、実に丹念に注意深く、「正しい規制」のありようが説明されていますし、巨大プラットフォーム事業者による利用者の権利の侵害への懸念、中国のインターネット統制モデルへの言及など、実にさまざまな側面が取り上げられています。A4で印刷すると16ページにもわたる長編ですが、一読いただけるとフランスの強い意志と、それを表現する能弁さがお分かりいただけると思います。
また、この演説の最後では、演説中示された呼びかけをまとめたパリ・コールが紹介されました。
パリ・コールは、正式名称を「サイバー空間の信頼性と安全性のためのパリ・コール (Appel de Paris pour la confiance et la securite dans le cyberespace)」として同日発表された宣誓文であり、発表時点で50カ国、民間企業や団体300組織以上が支持を表明しているようです。
在日フランス大使館・サイバー空間の信頼性と安全性のためのパリ・コール
インターネット関連団体では、ISOC、APNIC、LACNICが支持者に連なっていますが、ISOCからはパリ・コール支持に対する姿勢表明を公開しています。
Internet Society Media Statement on Paris Call for Trust and Security in Cyberspace Declaration
マクロン大統領の演説やパリ・コール関連の文書でも触れられていますが、今年のIGFは、第1次世界大戦休戦100周年記念式典に続く「パリデジタルウィーク」の一環として、パリ平和フォーラム、GovTechサミットとセットで開催されているとともに、2017年のIGFジュネーブ会合、2019年のIGFベルリン会合と、欧州3回連続開催も、この取り組みの流れとして捉えているなど、仕掛けの秀逸さも目立ちました。IGFベルリン会合に関しては、既にWebサイトも立ち上がっており、開催国ドイツのやる気が分かります。
「国が規制に乗り出す」というと、オープニングセレモニーの会場がざわめいたように、少し不安になる感じもします。しかし、マクロン大統領が指摘したように、インターネット上のさまざまな問題に手をこまねいているわけにも行きません。「待ったなし」というタイミングでのこの呼びかけが、今後のインターネットにどういう影響を及ぼしていくか、JPNICでも今後の動きに注視して行きたいと思います。
また、IGFパリ会合に日本から参加なさった方々を中心に、報告会のようなイベントを調整中だということも伺っています。具体的なことが分かり次第、ご案内する予定です。