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「忘れられる権利」を巡る裁判が終結 ~ Never Ending Story Google vs. France ~

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インターネットの検索結果から個人情報やプライバシーに関わる情報を削除してもらう権利が、いわゆる「忘れられる権利(Right to be forgotten)」です。欧州で2000年代中頃から登場した権利で、2018年5月に施行された欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)でも、「削除する権利(Right to erase)」として盛り込まれています。今回ご紹介するのは、同規則施行以前から始まっていた、Googleとフランス司法当局との間で裁判の話で、2019年1月に遂に結論が出ました。

『欧州連合(EU)の最高裁にあたるEU司法裁判所の法務官は10日、インターネット上の検索エンジンから個人データを消去するよう個人が要求できる忘れられる権利について、EU域外には原則として適用できないとの見解を示した。EU域内で認めている同権利を巡って仏当局が世界中で適用できると主張し、米グーグルと法廷で争っているが、仏当局の主張を退けた格好だ。』(日本経済新聞11面 2019年1月11日)

まず、本訴訟の経緯についてまとめてみることとします。

出典:グーグル、「忘れられる権利」で仏当局の決定に上告
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO02567110Q6A520C1000000/

1. 2014年5月

EU司法裁判所は、「個人は知られたくない過去の情報を検索結果から削除するよう求める権利(忘れられる権利)がある」と判断。

この裁決に従って、Googleは削除要請を受けた情報へのリンクを削除したが、削除の範囲は欧州域内に限られ、それ以外の地域のサイトでは従来通りリンクは検索結果に表示されていた。

2. 2015年6月

フランスのデータ保護に関する監督機関である情報処理・自由全国委員会(CNIL)は、域内限定の削除では不十分だとして、欧州だけでなくすべてのドメインにおいて忘れられる権利に基づく情報削除を実施するようGoogleに命じた。

これを受けGoogleはすべてのドメインでリンクを削除。但し、リンクが表示されないのは削除依頼者と同じ国からのアクセスで検索が実行された場合に限られ、他の国のユーザーが実行した検索では従来通り当該リンクを含むリストが表示される状態を保持した。

3. 2016年3月

Googleの対応がいまだ不十分と判断したCNILは、2015年の決定をGoogleが遵守していないとの理由で、同社に罰金10万ユーロ(約1千200万円)の支払いを命じた。

4. 2016年5月

Googleはこの命令が不当だとして、フランス最高行政裁判所に上告。上告の理由について同社の上級副社長Kent Walker氏は、「我々は事業を展開している国の法規に従う」とした上で、「フランスの法律を世界に適用すれば、より民主的ではない他の国が、情報を規制する自国の法律を同様に国際的に適用するよう要求しだすだろう」との懸念を示した。

今回の法務官の判断はEU司法裁判所としての正式な判決ではありませんが、過去のケースでは最終的なEU司法裁の判決と同じ結果となる場合が多いとされているようです。つまり、法務官の見解表明によって、足かけ6年にも及んだ忘れられる権利を巡る仏当局とGoogleとの係争が、終決を迎えたと考えてもよいのでしょう。

しかしながら、仏当局とGoogleの間の抗争に終わりはありません。2019年1月21日には、またしてもCNILが、個人情報利用について合意を利用者から取得する手続きが不適切だとして、Googleに対し5,000万ユーロ(約62億円)の制裁金を科すと発表しました。一般データ保護規則に基づく制裁が、グローバル・プラットフォーマー(いわゆるGAFA)に適用される初めてのケースです。制裁金の額も、忘れられる権利の場合の500倍と巨額となります。今後のGoogleの対応が注目されるところです。

欧州が鬼門と考えたわけでもないでしょうが、Googleは検索サービスでの中国への再進出を狙っているようです。中国向けには当局の検閲済みのデータによって検索サービスを提供するというものです。なお、同社は公式には開発プロジェクトの存在を否定しています。

出典:グーグルの中国向け検索プロジェクトが頓挫か–データ収集に社内から抗議
https://japan.cnet.com/article/35130262/

話を忘れられる権利に戻します。忘れられる権利を考察する際の論点の一つは、表現の自由や知る権利との間でどのようにバランスをとるかにあります。欧州の裁判では、Googleは知る権利が損なわれることのないように、忘れられる権利の及ぶ範囲を最小限に抑える姿勢を示してきました。一方、構想中と伝えられる中国向けの検索サービスには、中国人民の知る権利への配慮は感じられません。

各国の法律に従って事業を展開し、情報規制が国内に留まる限りはサービスを提供するというのがGoogleの基本ポリシーと考えれば、矛盾がないと解釈できなくもありませんが、ダブル・スタンダードのそしりは免れないでしょう。

なお、2019年2月6日付けの日本経済新聞では1面トップの扱いで、フランス政府を大株主とするルノーが日産と共に自動運転分野ではGoogle陣営に加わることを報じています。(「日産・ルノー、自動運転でグーグル陣営に参画 – IT軸に業種越え連携」)。フランス政府とGoogleが争うのは、あくまでも個人情報の扱いに関する分野に限ってのことなのかもしれません。将来的に自動運転の走行データも個人情報に含まれるようなことになれば、また話は違ってくるのでしょうが。