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APrIGF2019レポート

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2019年7月16日(火)~19日(金)にかけてロシア・ウラジオストクで開催されたAPrIGF (Asia Pacific Regional Internet Governance Forum) 2019の様子をご報告します。 

APrIGFは、アジア太平洋地域におけるインターネットガバナンスに関する議論を行う会議で、2010年より毎年開催されており、今回は10回目の開催となります。

1. 開催地について

ロシア沿海地方に位置するウラジオストクは札幌とほぼ同じ緯度に位置し、東京、ソウル、北京のいずれの都市にも直行の航空便で2時間半程度の距離で、日本からの国外出張としては最も楽な部類に入ります。一方、南アジア、オーストラリアなどからは結構時間がかかりますし、モスクワからの飛行時間は国内にもかかわらず8~9時間とかなり遠いようです。

2012年のAPECがウラジオストクで開催された際、ウラジオストクにはロシア政府により約1兆6500億円を超える投資がなされ、海峡を越える橋の建設や空港の改修などがなされました。APECの会場はウラジオストク市街地の対岸にあるルースキー島に約1300億円かけて建設され、会期終了後は極東連邦大学のキャンパスとなりました。このキャンパスが今回APrIGF 2019の会場となりました。キャンパスは広大で、キャンパス内移動のためのバスが頻繁に走っています。キャンパスには最大920名収容できるホールがあり、さらに学生寮とは別にホテルがあり、部屋数の合計は960室以上あると思われるので、参加者がキャンパスから一歩も出ることなく国際会議が開催できるというわけです。

極東連邦大学メインビルディングにある図書館

2. 開催概要

今回のAPrIGFは、今年設立25周年を迎えたロシアのccTLD管理組織(非営利団体)であるCoordination Center for TLD .RU/.РФがローカルホストとして主催しました。空港から/行きの送迎バス、初日のガーライベント、および全日の昼食およびコーヒーブレーク(毎日午前午後の2回)が無料で提供されるという至れり尽くせりな対応で、会議開催地募集要項によればすべての費用をローカルホストが持つことになっているため、スポンサーが2組織ついたとはいえかなりの出費だったのではないかと想像します。

今回のAPrIGFの事前登録者数は268名となっています。加えてフェローシッププログラムによるフェローが23名参加しています。

毎回併催されている、若手育成を目的としてNetMission.Asiaが運営するユースIGF (yIGF)が今回も開催されました。参加者はAPrIGFのプログラムのうち指定されたものに参加していましたが、専用プログラムもあり、与えられた課題について議論を行っていました。

3. オープニングセレモニー

まずローカルホストであるCoordination Center for TLD .RU/.РФのCEOであるAndrei Vorobyev氏の挨拶から始まり、次にロシア沿海地方の副知事(コンピューター化および社会圏担当)Sergey Moksimchuk氏、会場である極東連邦大学の副学長Victoria Panova氏からの挨拶の後、バングラデシュインターネットガバナンスの議長であるHasanul Haq Inu閣下からはデジタル経済における課税、インターネットへ接続する権利は人権であること、などについてお話しされました。次いでAPrIGF Multi-stakeholder Steering Group (MSG)議長であるRajnesh Singh氏からはモバイル通信におけるデジタルデバイドなどについて語られ、極東連邦管区に属し北半球の寒極を抱えるサハ共和国の首相であるVladimir Solodov氏からは同共和国がデジタル化及び国際化に関して先進地域であること、およびそのビジョンが語られました。

4. テーマ

今年のメインテーマは、「アジア太平洋のすべての人向けに、安全、安定、かつ遍在するインターネットをもたらす(Enabling a Safe, Secure and Universal Internet for All in Asia Pacific)」です。これに基づき、各サブテーマおよびそれらに関連するセッションが次の通り定められました。

4.1. Safer Internet, Cybersecurity & Regulation(より安全なインターネット、サイバーセキュリティ、規制)

4.2. Access & Universality(アクセスおよび普遍性)

4.3. Emerging Technologies & Society(新たに出現した技術と社会)

4.4. Human Rights Online(人権とオンライン)

4.5. Evolving Role of Internet Governance & Multi-Stakeholder Participation(インターネットガバナンスの役割の進化とマルチステークホルダーによる参加)

4.6. Digital Economy(デジタル経済)

5. 成果文書(Synthesis Document)

成果文書の作成は、ニューデリーで開催されたAPrIGF2014のMSGミーティングで提案され、マカオで開催されたAPrIGF2015で試験的に開始されました。以降APrIGFでの議論が反映されるよう、毎年作成されている文書です。これはAPrIGFにおいて参加者からのコメントを拾い、まとめたもので、多様なアジア太平洋地域を代表しようとする意図はない、としています。

2019年度の統合文書はすでに以下で公開されており、コメントすることが可能です。

https://comment.rigf.asia/

1回目のコメント期間は7月31日までとなっており、その後草稿執筆委員会がコメント反映作業を行った後、8月19日(月)にドラフト第一稿が公開されると共にオンラインセミナーが開催され、8月20日(火)から31日(土)までが第一稿の意見募集期間となります。最終版の公開は9月末から10月初が予定されています。

6. セッションピックアップ

プレナリーセッション以外はほとんどの時間帯で3つのプログラムが並行して開催されたため、すべてのセッションを聞くことはできませんでしたが、いくつかご紹介します。

6.1. Cyber Norms in Asia-Pacific アジア太平洋におけるサイバー規範

国連による枠組みとして、政府専門家会合(UNGGE)および2019年6月に最初の会合が開催された無期限作業部会(Open-ended working group on developments in the field of information and telecommunications in the context of international security)について紹介されました。議論では色々な観点から次のような意見が出ました。規範と規則は違うのではないか、規範で罰せられることへの懸念、国連の枠組みではまず加盟国内で議論を開始すべきではないか、などです。

6.2. Can we apply multistakeholder approach for governance of crypto assets? 暗号資産のガバナンスに関してマルチステークホルダーによる取り組みは可能か?

暗号資産(仮想通貨)のガバナンスについて、日本から提案されたプログラムです。同じ週に米国議会で公聴会が開かれていたLibraについても触れられていました。暗号資産に関する技術的動向、規制当局による議論の状況、各国の状況などが発表されたうえで質疑応答となり、マイニングで消費される電力が多大となってきていること、一部の暗号資産(ビットコインなど)の通貨との交換レートの変動が大きすぎること、トランザクションレート(1秒間に処理可能な取引の数)、およびマネーロンダリング対策、などが議論されました。

6.3. 10 years of Russian IGF/25 years of RUnet and lessons learned ロシアIGFの10年、ru ccTLDの25年、およびそれらの教訓

ローカルホストであるCoordination Center for TLD .RU/.РФが25周年、開催地ロシアの国別IGF(RIGF)が今年10周年をそれぞれ迎えましたが、前者については本セッションの前日の晩に開催された祝賀パーティに任せ、主に後者について対象となりました。

RIGFにはビジネス界、科学者、政府関係者、技術コミュニティ、900名以上の参加者があるとのことで、活発な議論が行われているとのことです。参加者からはRIGFに欠けているものの指摘を含む、辛口のコメントもありました。

7. 最後に

筆者はインターネットガバナンス系の会議としては、日本国内で開催されたIGF報告会IGF-JapanIGCJしか参加経験がありませんでしたが、APrIGFに初参加し様々な国からより広範囲の方々が参加しての議論を見聞して、(グローバル)IGFでの議論の広がりを想像するとともに、日本での議論を深めるためにお役に立つことができればと思いました。

中国から参加した小中学生くらいの生徒たちによる、より安全なインターネットに関する研究成果発表