IGF2019プログラム概要
dom_gov_team インターネットガバナンスドイツ・ベルリンで2019年11月26日から29日にかけて開催される第14回インターネットガバナンスフォーラム(IGF2019)の開催が近づいてきました。そこで本稿ではIGF2019のプログラムの概要についてお伝えします。IGFが何かということについては、JPNICニュースレターNo.47をご覧ください[1]。
なお、プログラムタイトルなどの和訳はJPNICによる抄訳で、正式なものではありません。
1. 重点テーマ
IGFのプログラムの選定(厳密にはプログラムとスケジュールについて国連事務総長に助言)などを行う、マルチステークホルダー諮問委員会(Multistakeholder Advisory Group, MAG)が定めた2019年の重点テーマは次の通りです。
- データガバナンス
- デジタル包含(Inclusion)
- セキュリティ、安全性、安定性、回復力
2. プログラムの種類
プログラム(セッション)は以下の3つに大別されます。
- ワークショップ
- ベストプラクティスフォーラム
- オープンフォーラム
その他に、メインセッション、新人向けセッション、ハイレベル(政府高官)セッションなどがあります。
2.1. ワークショップ
毎年都度募集され、上記重点テーマに沿って開催されるプログラムです。プログラムが多数あるため、各プログラムの説明は省略し、テーマ毎の概要のみ記します。IGF2019に提案されたワークショッププログラムの数は293、採択されたワークショッププログラムの数は60となりました。
データガバナンスに関するワークショップ(クリックすると各プログラムへのリンクが出現します)
- Data-Driven Democracy: Ensuring Values in the Internet Age
- Different Parties’ Role in PI Protection: AP’s Practices
- Assessing the role of algorithms in electoral processes
- Rule of Law as a key concept in the digital ecosystem
- Children’s Privacy and data protection in digital contexts
- Beyond Ethics Councils: How to really do AI governance
- Human-centric Digital Identities
- Human-centered Design and Open Data: how to improve AI
- Splinternet: What Happens if “Network Sovereignty” Prevails
- Data Governance for Smarter City Mobility
- Crossborder data: connecting SMEs in the global supply chain
- Public Interest Data: Where Are We? To Do What?
- Value and Regulation of Personal Data in the BRICS
- A universal data protection framework? How to make it work?
- Equitable data governance that empowers the public
- A tutorial on public policy essentials of data governance
- Making global data governance work for developing countries
- Enhancing Partnership on Big data for SDGs
- Data Governance by AI: Putting Human Rights at Risk?
- Solutions for law enforcement to access data across borders
- Unpacking Digital Trade Impacts: Calling all Stakeholders
- AI Readiness for the SDGs
人工知能(AI)や民主主義、法律、主権、普遍的なデータ保護の枠組み、途上国向けグローバルデータガバナンスなど興味深い内容が目白押しです。
デジタル包含に関するワークショップ(クリックすると各プログラムへのリンクが出現します)
- Let there be data – Exploring data as a public good
- Internet Accessibility Empowering Persons with Disabilities
- Inclusion and Legitimacy in Multistakeholderism at ICANN
- What operator model(s) for digital inclusion?
- Integrated Policy Framework Key to Realize Digital Inclusion
- Business Innovations Foster Digital Inclusion, Bridge Gaps
- Online Identity in the Multilingual Domain Name Space
- Inclusion & Representation: Enabling Local Content growth
- Do Internet services deserve a sin tax?
- Towards equitable and sustainable community-led networks
- Unlocking the Digital Potential of the DLDC Countries
- Sustainability of NRIs: Strategy for Future IGF
- Youth in IG for Internet ethics & digital inclusion
- Closing the Digital Gap for Marginalized Communities
- Sex work, drug use, harm reduction, and the internet
- Community Networks: Opportunities, Challenges and Solutions
- Inclusion online, diverse knowledge: new rules?
- Accessibility for disabled people: new participatory methods
- IPv6: Why should I care?
アクセシビリティ(障碍者による電子機器の操作をしやすくすることなど)について、およびJPNICに関わっている皆さんにとってはなじみ深いであろう、多言語ドメイン名、IPv6、ICANNにおけるマルチステークホルダーによるポリシー決定などが含まれます。
セキュリティ、安全性、安定性、回復力に関するワークショップ(クリックすると各プログラムへのリンクが出現します)
- How and why to involve perspectives of children effectively
- Tech Nationalism: 5G, Cybersecurity and Trade
- Digital Sovereignty and Internet Fragmentation
- Usual Suspects: Questioning the Cybernorm-making Boundaries
- Public Health Online: Shadow Regulation-Access to Medicines
- Tackling Cyberbullying on Children with Digital Literacy
- Quantifying Peace and Conflict in Cyberspace
- Kids online: what we know and can do to keep them safe.
- Towards a Human Rights-Centered Cybersecurity Training
- Tackling illegal content online: safeguarding digital rights
- IT security in the global supply chain
- Deliberating Governance Approaches to Disinformation
- Internet de-tox: A fail-proof regimen to end online sexism
- Public diplomacy v. disinformation: Are there red lines?
- Transparency and Control for the Internet of Things
- Should we tackle illicit content through the DNS?
- Roadmap for confidence building measures (CBM) in cyberspace
- Network disruptions across borders: a new cyber response
- IPv6 Independence Day: Rest in peace IPv4
サイバーいじめ、デジタル主権、偽情報、IoTの透明性とコントロール、不法コンテンツに対するDNSブロッキング、技術ナショナリズムなどが含まれます。
2.2. ベストプラクティスフォーラム
特定の課題に取り組むため、対話および新興/既存の事例を集積することを目的に作られた作業部会(ワーキンググループ、WG)で、マルチステークホルダーコミュニティが率いるIGF会期間のプログラムとして開発されました。成功事例を検証するためのプログラムでもあります。IGF2019では以下のフォーラムが準備されています[2]。
- ビッグデータ、物のインターネット(IoT)および人工知能(AI)(2018年より継続)
- サイバーセキュリティ(2016年より継続)
- ジェンダー(社会的・心理的な意味合いから見た性別)とアクセス(2015年より継続)
- ローカルコンテンツ(2017年より継続)
検討の成果はIGF2019で発表されるのはもちろん、文書としてまとめられ発表されます。なお、2015年から2016年にかけては、IPv6およびIXPに関するフォーラムも存在しました。
2.3. オープンフォーラム
インターネットガバナンスに関わる主要な組織向けに割り当てられたセッション枠で、前年の各組織におけるインターネットガバナンスに関連する活動について紹介・議論するためのものです[3]。オープンフォーラムは政府や条約ベースの国際機関、他グローバルな活動実態のある国際的な団体のみが開催することができます[4]。IGF2019向けに採択されたオープンフォーラムは以下の通りです。
- アフリカ連合オープンフォーラム
- 車両通信へのサイバーセキュリティ捜査(Innov-COM)
- 隔離の先を見据えて~内陸開発途上国(LLDC)および世界(パラグアイ共和国外務省)
- DNSの脅威と機会(ICANN)
- レバノンにおける包含に関するパートナーシップ(OGERO Telecom、レバノン政府)
- ラテンアメリカ・カリブ海地域がサイバーにおける挑戦へどれだけ準備ができているか?(米州機構)
- データガバナンスと競争(ドイツ連邦経済・エネルギー省)
- 人権とAIの悪事:誰に責任があるのか?(欧州評議会)
- 未成年利用者のオンラインにおける保護(中国サイバー空間管理局)
- サイバーセキュリティにおける協同的マルチステークホルダーアプローチ(英連邦電気通信機構)
- ビッグデータとAIの発展に関するポリシーの選択肢の策定(UNESCO)
- 個人情報保護(中国サイバー空間管理局)
- 人権とデジタルプラットフォーム – 明確な矛盾?(欧州評議会)
- アラブ地域におけるデジタル包含(国連西アジア経済社会委員会)
- インターネットの信頼、規範および自由(エストニア外務省)
- 技術関係の賞におけるEQUALS(国際電気通信連合)
- 技術的なプロジェクトにおけるビジネス及び人権(OHCHR)
- データガバナンスへの技術的なイノベーションおよび挑戦(中国サイバー空間管理局)
- 自由オンライン連合オープンフォーラム(Freedom Online Coalition Support Unit)
- 人工知能に関する倫理的な方針枠組み(ドイツ国際協力公社)
- 市民と共に、および市民のためのインターネットガバナンス(Missions Publiques)
- 公共サービスインターネット、メディアはどのようにサイバースペースを直すことができたか(欧州放送連合)
- 大規模な人道組織におけるデジタルの橋渡し(国際赤十字赤新月社連盟)
- ジェンダーのデジタルにおける平等に関するEQUALS研究オープンフォーラム(国連大学コンピューティングと社会研究所)
- AIと子どもの権利に関する政策ガイドラインの策定(UNICEF)
- デジタルセキュリティを通じたデジタルトランスフォーメーションの強化(インドネシア共和国情報通信省)
- 欧州連合向けの将来のインターネットガバナンス戦略(欧州委員会)
- インターネット経済における統合の影響(Internet Society)
- 人工知能~原則から実践まで(OECD)
- EU代表団および若手IGF運動(Together against Cybercrime International)
- 紛争予防、協力、安定に関するオープンフォーラム(欧州対外行動局)
- オンライン上での偽情報:危害の軽減、権利の保護(英国デジタル文化、メディアおよびスポーツ省)
- 情報共有:プライバシーとサイバーセキュリティ(イスラエル国家サイバー総局)
- ITU WSISオープンフォーラム(国際電気通信連合世界情報社会サミット)
2.4. 動的連携(Dynamic Coalition)
インターネットガバナンスに関する特定の課題を継続検討するマルチステークホルダーによるグループで、2019年9月現在では次のグループが存在します。IGF2019のプログラム一覧[5]で確認した限りでは、14. DC-PUBと18. YCIG以外はすべて1グループにつき1セッションが割り当てられています。
- アクセシビリティと障害 (DCAD)
- ブロックチェーン技術 (DC-Blockchain)
- オンラインにおける児童の安全 (DCCOS)
- コミュニティの接続性 (DC3)
- インターネットの核心的価値 (DC-CIV)
- ドメイン名システム(DNS)に関する課題 (DC-DNSI)
- ジェンダーとインターネットガバナンス (DC-Gender)
- インターネットに接続されていない人々を接続するための革新的アプローチ (DC-Connecting the Unconnected)
- 物のインターネット (DC-IoT)
- インターネットの権利と原則 (IRPC)
- ネットワーク中立性 (DCNN)
- プラットフォームの責任 (DCPR)
- 図書館における公共のインターネットアクセス (DC-PAL)
- 公共性 (DC-PUB)
- インターネットガバナンスの学校 (DC-SIG)
- インターネット経済における島嶼開発途上国 (DC-SIDS)
- ジャーナリズムとニューメディアの持続性 (DC-Sustainability)
- インターネットガバナンスにおける若者の連携 (YCIG)
2.5. NRI協働セッション
NRIとは、国別・地域別IGFの集まりのことを指します。NRI協働セッションは複数の地域にまたがる複数のNRIによって企画開催される対話的なセッションです。IGF2019では次のセッションが予定されています。
- 有意義なアクセスの達成: 脆弱なグループの包含、およびデジタルに関する能力開発
- インフラ提供者と利用者向けのサイバーセキュリティ、サイバー安全、および回復力に関する取り組み及び協力における国および地域単位の経験についての議論
- インターネットにおける人権:国および地域における優先事項
- 国および地域レベルにおけるデータ保護
- インターネットにおける有害オンラインコンテンツへの取り組み
- 国および地域レベルでのプライバシーの懸念
3. 最後に
ここまで見てきたように、IGF2019には多数のプログラムがあり、最大11プログラムが同時並行して開催されるほどになっているため、充実した会議になる反面、参加したいセッション全部をカバーするのは困難となりそうです。
これほど大規模なIGF2019には事前の準備が必要ということで、事前イベントを日本のIGF関係者有志が企画し10月25日に開催することとなりました。詳しくは以下のページをご覧ください。
[1] ニュースレター記事執筆後、国連総会決議65/141で2015年までのIGF開催年限が5年間延長されました。https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/RES/65/141
さらに、2015年のWSIS+10の成果文書でIGF開催年限がさらに10年延長されました。http://www.intgovforum.org/cms/Draft%20resolution%20on%20WSIS%20overall%20review.pdf
[2] Best Practice Forums (BPFs) https://www.intgovforum.org/multilingual/content/best-practice-forums-bpfs
[3] https://www.intgovforum.org/multilingual/content/igf-2019-call-for-open-forums
[4] 同上