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国連「デジタル協力に関するハイレベルパネル報告書」を受けた動き

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2019年11月下旬に開催されたIGF2019の場で、最も注目されたと思われるのは、国連デジタル協力に関するハイレベルパネル報告書を受けて開催されたセッションでした。その際に、2019年内に同報告書への何らかの対応が行われるとアナウンスされていましたが、2020年1月末になって、2019年12月にフォローアップのための円卓会議が開催された旨の発表がありました[1]。本稿では、主にこの円卓会議についてお伝えします。

HLPDCについて

デジタル協力(Digital Cooperation)とは、社会への恩恵を最大化し危害を最小化するために、デジタル技術の社会的、倫理的、法的、および経済的な影響について取り組むために協同作業を行う方法を意味するとされています[2]

国連デジタル協力に関するハイレベルパネル(HLPDC)[3]は、政府、民間企業、市民社会、国際機関、技術および学術コミュニティおよびすべての他の関連するステークホルダー間での、デジタル空間における協力を強化するための提案を提出するために、2018年7月に国連事務総長によって招集されました[4]。HLPDCの目的は、好例を発見し、セクター、専門分野および境界間での協調作業に関する提案を行うこととされています[5]

HLPDCは2018年7月の設立後、会合が3回開催されて議論検討が進められ、2019年6月に報告書[6]が公開されました。

HLPDCおよび2019年6月にHLPDCが公表した報告書の詳細については、IGF2019事前会合で発表のあった、望月健太氏による以下のプレゼンテーションをご参照ください。

国連デジタル協力に関するハイレベルパネル(HLPDC)報告書について

IGF2019でのセッション

IGF2019では、HLPDCおよびその報告書に関して報告・議論するメインセッションが会期中の2019年11月26日に開催されました。このセッションの内容についてはNews & Views vol.1740でご報告しています。また、JPNIC Blog記事でもごく簡単に触れています。

フォローアップ円卓会議の設置

IGF2019の際に、HLPDCに対する国連からの何らかのアクションが年内にはあるとアナウンスされていましたが[7]、IGF2019の直後にハイレベルパネルフォローアップ円卓会議(High-level Panel Follow-up Roundtable)がHLPDC報告書中の勧告に対応して8個設立され、2019年12月6日から19日にかけて、早速それぞれの第1回会合が開催されました[8]。バーチャル円卓会議とされているので、遠隔会議として開催されたと思われます。なお、以下で「勧告」とあるのは、HLPDC報告書第5章に記載された勧告の要約です。

勧告:2030年までにすべての成人がデジタルネットワークおよびデジタル対応の金融および保健サービスへの手頃なアクセスを有するべき

勧告:国連を含む幅広いマルチステークホルダー・アライアンスが、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)[9]の達成に関連する分野で、プライバシーを尊重しつつデジタル公共財を共有し、才能ある人々を引き込み、データをプールするためのプラットフォームを構築すること

勧告:民間セクター、市民社会、各国政府、国際金融機関及び国連に対し、女性および伝統的に疎外された集団のための完全なデジタル包摂およびデジタル平等を支援するための具体的な政策を採用するよう求める。国連などの国際機関の年次報告書において、デジタルの包括性に関する一連の指標が、世界的に測定され、性別データとともに詳細に示されることが緊急に合意されるべき

勧告:政府、市民社会および民間部門がデジタル分野の課題を理解し、デジタル技術の社会的および経済的影響に関連する協力を導き出す能力開発を支援するために、地域的および世界的なデジタルヘルプデスクを設置

勧告:国連事務総長に対しては、既存の国際人権協定および基準が新たなデジタル技術にどのように適用されるかについて、全体で見直しを行うことを要請。市民社会、政府、民間部門、一般市民に対しては、既存の人権条約をデジタル時代にどのように積極的かつ透明なプロセスで適用するかについての意見提出が求められるべき。ソーシャルメディア企業に対しては、各国政府、市民社会組織、および人権専門家と協力し、既存又は潜在的な人権侵害に関する懸念の理解および対応を求める

勧告:自律知能システムは、決定が説明可能な形で、また人間がその使用に責任を持つことができるように設計されるべきである。監査および認証スキームは、AIシステムの工学的および倫理的基準の遵守状況を監視すべき。自律的インテリジェントシステムにおける透明性や偏見のなさなど、これらの基準と原則の設計と適用のため、複数の利害関係者との強化された協力を求める。

  • 4 デジタル信頼性および安全性に関する全地球的公約(Global Commitment on Digital Trust and Security) 第1回議論の要約

勧告:ビジョン形成、デジタルの安定性の特質の特定、技術の責任ある利用のための規範の実施の明確化および強化、および行動の優先順位を提案するため、「デジタル信頼性とセキュリティに関するグローバル・コミットメント」を策定すること。

勧告:グローバルなデジタル協力のための新たなメカニズムを構築するための機敏で開かれた協議プロセスを進めること、およびデジタル協力アーキテクチャーのための共通の価値観、原則、理解および目的を定めるため、国連の75周年である2020年を「デジタル協力のためのグローバル・コミットメント」とし、当面の目標とすることを提案。また協力と規制のためのマルチステークホルダー「システム」アプローチを支持。

参加者は国連という場の性格上、組織単位となっていて各国政府が多くなっており、1C、4および5A/Bには日本政府が参加しています。インターネット関連団体からは、Internet Society (ISOC)およびICANNが入っています。参加者は中心的役割を果たすことになると思われる、「チャンピオン」(2~6組織からなる)と「重要メンバー(Key Constituents)」(30前後の組織からなる)に分かれています。なお、フォローアッププロセスに興味をお持ちの組織は、digitalfeedback@un.orgまで電子メールを送付してくださいとのことです。

まだ議論は始まったばかりですが、第1回パネル会合のうち、5A/Bの議論の中心となるIGF+についての概要をご紹介します。

報告書がIGF+モデルのいくつかの要素を考慮しており、本グループはそれらの要素が果たすことができる役割をさらに分析する必要があることが指摘されました。グループ間の交渉を回避するための熱心な努力により、コンセンサスによる結果である必要はないものの、長期的な資金調達に関する仕組みと、事務局およびより結果重視のフォーラムへの動きも考慮されるべき、となっています。

今後

2020年春に、これらの円卓会合は国連事務総長に対しフィードバックを返すことになっており、それを基に、パネルによる勧告への対処方策に関するロードマップを作成して加盟国に提示することになっています[10]。それまでに何回ずつか円卓会議の各グループで会合を開くことになると思われます[11]


脚注

[1] Update on Digital Cooperation Recommendations Follow-Up Process

[2] 同上

[3] https://digitalcooperation.org/

[4] Key Takeaways: Summary Presentation

[5] https://digitalcooperation.org/about/

[6] https://digitalcooperation.org/report/

[7] IGF 2019 – Day 1 – Convention Hall II – Digital Cooperation and Internet governance 発言録(Lynn St. Amour氏による最初の発言)

[8]国連事務総長による発表

https://digitalcooperation.org/recommendations-follow-up-process/

[9]国連の「持続可能な開発サミット」で2015年に採択されたもので、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のための目標(2030年が年限)。外務省による仮訳

[10] https://www.un.org/en/digital-cooperation-panel/; https://digitalcooperation.org/recommendations-follow-up-process/

[11]具体的な開催日程や回数は公開されていません。

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