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News & Views コラム:JPドメイン名紛争処理手続中断の顛末記

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メールマガジンで配信したインターネットに関するコラムを、このブログでも紹介しています。今月は、大野総合法律事務所の弁護士 山口裕司さんに、新型コロナウイルス感染症の流行が、JPドメイン名の紛争処理にまで影響が及んだいきさつなどについてお書きいただきました。

 


2020年2月以降の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大、そして4月から5月にかけての新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づく緊急事態措置の実施によって、それぞれの会社・団体は業務遂行の大きな変更を迫られることになりました。

私は、日本弁護士連合会と日本弁理士会が共同運営する日本知的財産仲裁センターの運営委員をしており、JPNICが策定したJPドメイン名紛争処理方針にづく紛争処理機関として、日本知的財産仲裁センターにおけるJPドメイン名(末尾が「.jp」のドメインネーム)を巡る登録者と商標権者等間の紛争処理業務の事件管理に関与しています。JPドメイン名紛争処理方針は、迅速な紛争解決のために事件処理の各段階で、当事者や紛争処理機関に対して一定の営業日以内に対応する旨の期間制限を設けており、日本知的財産仲裁センターも、期限の遵守には気を使っています。

2020年2月1日に新型コロナウィルス感染症が指定感染症に指定されてから、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく感染症の患者の入院やその職場の消毒のニュースが、たびたび報道されるようになりました。日本知的財産仲裁センターの事務局に配置されている職員は少なく、職員が万が一感染した場合を想定してみると、人員の配置換えが難しく、消毒のためにオフィスの閉鎖も必要になることから、JPドメイン名紛争処理業務を期限に沿って続けることは難しくなると予測されました。JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則2条(b)項は、「『営業日』とは、土、日、祭日その他本センターが定める日を除いた、本センターが通常の業務を行う日をいう。」と定めており、万が一の場合には通常の業務を停止し、営業日としてカウントしないようにせざるを得なくなるだろうと考えました。

幸いにも職員の感染という事態は発生せずに4月を迎えたところ、4月7日に緊急事態宣言が発出され、東京都知事から外出自粛要請がなされました。日本知的財産仲裁センターには、日本弁護士連合会と日本弁理士会の職員が配置されており、日本弁護士連合会では、職員を自宅待機とする方針が決まりました。その結果、日本知的財産仲裁センター東京本部も、4月8日から5月6日まで業務を停止することになり、係属していたJPドメイン名紛争処理申立事件も業務を停止した期間につき期限を延期しました。緊急事態措置の実施期間は5月4日に延長され、緊急事態が解除されたのは5月25日でしたが、日本知的財産仲裁センター東京本部は、申立受付等を待つ利用者も考慮して、5月7日から業務を再開しました。

翻って他の紛争処理機関について見ると、統一ドメイン名紛争処理方針(UDRP)の紛争処理機関である世界知的所有権機関(WIPO)仲裁調停センターは、新型コロナウィルス感染症が欧州で猛威を振るう中、業務を続けていて、coronaやcovid19を含むドメイン名についての裁定も既に出しています(*1)。

JPドメイン名紛争処理方針は、紛争処理手続を電子化するための改正を2020年度に予定して(*2)、準備を進めていたところで、緊急事態を通して、紛争処理手続をオンライン化する意義を再認識することになりました。申立書や答弁書に形式を問わず電子的な署名または記名捺印をすれば足りるように変わるなどの今回の改正が、緊急事態下においてテレワークが進む中で強まってきた「脱ハンコ」の議論、あるいはなかなか進まない民事裁判手続IT化の議論を先導する例となることも期待したいと思います。

(*1) https://www.wipo.int/amc/en/domains/search/text.jsp?case=D2020-0776
   https://www.wipo.int/amc/en/domains/search/text.jsp?case=D2020-0885
   https://www.wipo.int/amc/en/domains/search/text.jsp?case=D2020-0886
   https://www.wipo.int/amc/en/domains/search/text.jsp?case=D2020-0960
(*2) https://www.nic.ad.jp/ja/profile/com/2019.html#drp-com


■筆者略歴

山口 裕司(やまぐち ゆうじ)

弁護士(大野総合法律事務所)、日本知的財産仲裁センター副センター長。
1997年-2000年 株式会社東芝知的財産部、2001年 弁護士登録、2004年-2006年 外務省国際法局経済条約課課長補佐、2008年 コーネル大学ロースクールLL.M.修了、2015年-2016年 三井物産株式会社法務部。2003年-2004年、2015年-現在 日本知的財産仲裁センター本部運営委員。
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