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第109回IETF報告 [第1弾] 全体概要

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2020年に開催された第109回IETFミーティング(IETF 109)は、前回に続いて完全なオンラインで開催されました。IETF 109以前から使われていた、Meetecho、CodiMDといったツールが活躍し、YouTubeでセッションの録画を見られるなど、IETFミーティングのオンライン化が進んでいます。IETFミーティング開催に関わる、IETF LLCとISOCによるサポートについても報告します。


IETFミーティングに適したツールが活躍したオンライン開催

木村泰司(JPNIC)

IETF 109は前々回、前回に続いてオンラインでの開催でした。参加者がさまざまな国からリモートで参加するカンファレンスでは、プログラムの基準となるタイムゾーンをどこに定めるのかが重要になってきます。

IETFミーティングは、元々、一部の地域に偏りすぎないように配慮されて開催地が選定されることになっているため、本来の開催地であったバンコクの時間を基準にして各セッションの時間が定められることについて不満が出る状況ではなかったようです。ただ、夜中から朝方にかけての時間帯になってしまった参加者からはつらそうなコメントが出ていました。一方で、日本はバンコクの時刻より2時間早いだけの時差であったため、日本からの参加者にとっては、仕事中に参加できる良さ(もしくは日中帯であるがゆえの不便さ *1)があったようです。

(*1) セッションが仕事の会議と重なってしまったり、重なっていなくても間に休憩が取れないほどに会議とセッションが連続したりしてしまう、といったことがあったようです。

第107回と第108回もオンラインで行われていましたが、回数を重ねているためかオンラインでの議論に参加者が慣れてきている様子がうかがわれました。

  • IETF 107 Virtual (2020年3月22日~27日開催)
    https://ietf.org/how/meetings/107/
    – 新型コロナウルスの感染拡大の中、完全なオンライン開催が決定された会合。開かれたセッションは少なかった。
     
  • IETF 108 Online (2020年7月27日~31日開催)
    https://ietf.org/how/meetings/108/
    – 各セッションの録画がYouTubeで見られるようになった。

IETFには、完全にオンラインで開催される前からオンラインでミーティングに参加するために、Jabberチャット、MP3オーディオストリーミング、Meetechoといったツールがありました。MeetechoはIETFミーティングのために設計開発されたオンライン会議ツールで、IETFで策定されたXMPP、SIP、RTPといったプロトコルを使っています。IETF参加者自身によって開発され、IETF広島開催の頃から実験的に利用されてきました(*2)。IETFミーティングで見られるマイクの前の待ち行列や、チェアによる進行画面などが再現されており、IETFミーティングに参加したことがある人には、説明がなくてもわかりやすい画面構成になっています。

IETF 109でも全体会議のプレナリーからBOFに至るまで、Meetechoが使われました。質疑応答や参加者同士の議論のためにMeetechoのチャット機能が使われる事が多く、読み返すことができるため、筆者としても議論を追っていきやすく感じられました。

Meetechoを使ったIETF 109 プレナリーの様子
Meetechoを使ったIETF 109 プレナリーの様子

(*2) IETF NEWS, Meetecho: How We Turned an IETF Experiment into an IETF Tool, Date: March 1, 2014
https://www.ietfjournal.org/meetecho-how-we-turned-an-ietf-experiment-into-an-ietf-tool/

新型コロナウイルスの影響

IETF 109の参加登録者数は1,246名とオンサイトで開催されていた頃の水準に戻りました。日本からの参加者(登録者)は62名で、国別の内訳は、アメリカ 36.5%、中国 8.9%、ドイツ 7.1%、イギリス 5.5%、ついで日本 4.8%でした(*3)。IETFの活動としては変化があったようです。

(*3) IETF 109 Administrative and Operations Plenary
https://datatracker.ietf.org/meeting/109/materials/slides-109-ietf-sessa-ietf-109-administrative-and-operations-plenary-01

Internet-Draft投稿数の3ヵ月移動平均を取ると、-00ドラフトつまり新しく投稿されるInternet-Draftが減っていた模様です。一方、メーリングリストでのメールのメッセージ数は増えていました。

大きく減少しなかったInternet-Draftの投稿, IETFチェアスライドより
大きく減少しなかったInternet-Draftの投稿, IETFチェアスライドより
-00ドラフト、つまり初期のドラフトの投稿は昨年よりも少ない, IETFチェアスライドより
-00ドラフト、つまり初期のドラフトの投稿は昨年よりも少ない, IETFチェアスライドより
メーリングリストへのメール投稿数は若干増加, IETFチェアスライドより
メーリングリストへのメール投稿数は若干増加, IETFチェアスライドより

2020年4月以降、国によってはロックダウンの措置が取られるなど、生活環境に変化のあった参加者は多いはずですが、一定程度、策定に向けた活動が続けられたことから、参加者の取り組みに対する意識の高さが感じられます。

参加者が取り組んでいる活動への注目度を上げたり、一緒に活動してくれる人を募ったりする「HotRFC」は、オンサイトでは参加者の反応や雰囲気が良く感じられるセッションです。通常、20以上の発表が行われることがありますが、今回は7にとどまっていました。

HotRFCアジェンダと各発表の概要
https://datatracker.ietf.org/meeting/109/materials/agenda-109-hotrfc-05

プレナリーでの議論

全体会議であるプレナリーもオンラインになって回を重ねてきているためか、普段に近い雰囲気で行われていました。トピックを以下にまとめます。

  • 2020年のジョン・ポステル賞は、インドネシアにおいて郊外をはじめとするインターネットの普及と質疑応答などの情報共有の面で貢献されたオンノ・プルボ(Onno W. Purbo)氏に送られました。
     
  • IETFにおけるPKIの分野で、プロトコル策定のほかS/MIMEや電子証明書で使われる基盤的な仕組みCMS (Cryptographic Message Syntax)等の作成において活躍されたジム・シャード(Jim Schaad)氏が10月3日に亡くなりました。マイクロソフト社で実装されたS/MIMEのプログラムは今でも広く使われています。
     
  • 新型コロナウルスのネットワークへの影響に関するワークショップがIETF 109の前の週にIABによって開催されました。YouTubeでセッションの様子を見られるようになっています。今後、ワークショップ・レポートにまとめられる見込みです。

セッション1 計測と観測: https://youtu.be/RTJNaE7TnGA

セッション2 運用における出来事や課題: https://youtu.be/tleJg1_SGXM

セッション3 今後/総括/その他: https://youtu.be/KCwUBQAkEww

参加者が発言して議論できるオープンマイクの時間には、プレナリの途中で一部のユーザのMeetecho接続が切れてしまったこともあって、リモート参加の技術や運用の面が話題になりました。MeetechoはIETFにおけるボランティアによってメンテナンスされているため、不具合についても直していけばいいという意見が挙げられた後、RIPEミーティングのように商用サービスの利用を考慮してはといった意見も挙げられました。いずれにしても透明性のある、どのように動作する仕組みなのかがわかっている形が望ましいという結論になりました。

YouTubeとオンラインツール

各セッションは録画され、YouTubeで閲覧できるようになりました。アジェンダのページにあるビデオカメラのアイコンをクリックするとそのセッションの録画を閲覧できます。

IETF 109 meeting agenda
https://datatracker.ietf.org/meeting/109/agenda

このページで議事のノートを見ることもできます。多くのセッションではオンラインのエディットツールCodiMDが使われており、成形されて見やすくなっていました。

IETFミーティングの前に行われている「Code sprint」では、継続的にIETFのドキュメントやWG活動の記録などが閲覧できるツールDatatracker のメンテナンスが行われています。履歴が残されていくドキュメントの状態が調べやすくなっており、最近は書式の対応状況について指摘を受けることもありますが、依然としてオンラインでの標準化活動への参加のしやすさを支えるツールであると言えます。IETFで使われるオンラインのツールは下記のページにまとめられています。

Online tools, IETF
https://www.ietf.org/how/tools/

 


IETF LLCとISOCの対応

根本貴弘(東京農工大学)

世界的な新型コロナウイルス感染症が流行した今年、IETFが標準化活動を維持できた背景として、IETF Limited Liability Corporation (IETF LLC)(*1)と、Internet Society (ISOC)(*2)の役割が挙げられると思います。本報告では、それら2組織に焦点を当てて報告をしたいと思います。

今回のIETFミーティングに見られた特徴の一つとして、まず開催規模や参加者数が、現地開催される通常のIETFミーティングと同程度に戻ってきたことがげられます。IETFミーティングが初めて完全オンライン開催となった第107回IETFミーティングでは、その開催規模は、1日約4時間2セッション、一つのセッション時間に開催されるWGの数は一つ、二つ程度でした。それに対して、今回の第109回IETFミーティングでは、1日約6時間3セッション、同時開催されるWGセッション数も七つから八つと、オンサイトで開催されるセッション数に戻りつつあります。また、それに伴い今回の参加者数も1,246人と、オンサイトで開催する通常のIETFミーティングと同等の参加者数となっています。新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、移動や対面式のミーティング開催に制限がある中、IETFではミーティングをオンライン化することで標準化活動を継続できたことは、素晴らしいことだったと思いました。

今回のIETFミーティングのプレナリミーティングで、IETF ChairのAlissa Cooper氏から、Internet-Draftの新規投稿数が例年より減ったとの報告があったものの、年3回のIETFミーティングを中止せず、標準化活動が継続できる環境を維持できたことは、本当にIETFの活動に携わる多くの方の貢献によるものであると、IETFのメーリングリストにおける議論の様子等を見ながら感じ取っていました。

また、その中でも特に、IETFの活動を維持する上で重要な役割を果たしていたのが、2018年にISOCの子会社として設立され、RFC8711 (*3)に記載がある、 IETFのミーティングの運営や財務、資金調達、コンプライアンス等をはじめとしたIETFの活動支援を行う法人である、IETF LLCであったように思います。 今回のプレナリミーティングでも、IETF LLCのBoard ChairのJason Livingood氏から、IETF LLCの取り組みについて報告がありましたが、IETF LLCでは、 新型コロナウイルス感染症によって生じた想定外のミーティング運営や財務上の課題に対処し、オンライン化への移行や、IETFミーティング開催に係る費用の見直し、オンライン開催のためのスポンサーの確保等を行ったと報告がありました。また、通常、IETFミーティングは、開催時期の数年前から開催地を決定し開催に向けた準備が進められますが、今年は新型コロナウイルス感染症の流行により、それ以前に計画されていた第107回から第109回IETFミーティングすべてがオンライン開催となり、現地開催を想定し調整を進めていた会議場となるホテル等も、すべて見直すこととなりました。IETF LLCでは、この見直しに伴う会議場との交渉や、パンデミック保険の申請等も進めるとともに、2020年の予算を再編成し、財務上の影響を最小限に抑えて、 この変更を乗り切ることができたとの報告がありました。実際に著者自身も、第107回から第109回IETFミーティングに参加してみて、現地開催との違いはあるにせよ、標準化プロセスを進める環境は維持されていたように感じました。

また、Jason Livingood氏からは、IETF LLCのこれらの活動に加え、重要な活動をいくつか紹介していましたが、その一つとして、IETF LLC設立時にISOCと交わした2年間の資金提供に関する契約の、延長交渉について報告がありました。この契約によるとISOCは、2019年に500万ドル、2020年に500万ドルをIETFに提供することとなっており、今年のIETFの収入の半分以上は、この資金提供によるものであり、IETFの活動を維持する上でISOCからの継続的な支援が、現時点では必要であったことが報告されました。なお、今回のIETFミーティング終了後に、ISOCからは、2021年以降の6年間について総額4,140万ドルもの資金提供を、IETFに対して継続するとの発表がありました。(*4)

(*1) The IETF Administration LLC (IETF LLC) https://www.ietf.org/about/administration/

(*2) Internet Society https://www.internetsociety.org/

(*3) RFC8711 – Structure of the IETF Administrative Support Activity, Version 2.0: https://tools.ietf.org/html/rfc8711

(*4) Internet Society Continues Strong Support for the IETF’s Critical Work on Open Standards https://www.internetsociety.org/blog/2020/11/internet-society-continues-strong-support-for-the-ietfs-critical-work-on-open-standards/

では、なぜISOCがIETFの支援を行っているのかについて補足しますと、ISOCはそもそも、IETFの活動を資金や法務等の側面から支援することを目的として、1992年に設立された組織であるためです。ISOCは、設立当初のIETFを支援する活動は前述の通り継続していますが、現在は”The Internet is for everyone.”というビジョンのもと、オープンかつグローバルに接続され、安全で、信頼できるインターネットの発展、普及に係る活動を、国際非営利組織としてグローバルに行っています。2020年12月14日時点のISOCの会員数は全世界で75,373名、また支部やスペシャルインタレストグループ(SIG)の数は132個、企業会員数は97あり、さまざまな国や地域で活動が行われています。 また、ISOCには世界中に、Chapterと呼ばれる地域支部があり、各地で活動が行われています。なお、ISOCの支部は国や地域単位ではなく、コミュニティ単位で組成されていて、各支部がオープンで自由なインターネットに向けて、地域に特化した活動を行っています。この支部に求められる活動としては、 技術の普及や子供のインターネットの安全な利用など、インターネットに関連する問題を取り上げた教育イベントや、経済的に不利な立場にある方々や地域にいる人へインターネットアクセスを確保するための、環境構築に関するためのコミュニティプログラムがあります。また、インターネットの中立性や著作権保護、検閲、人権などの、インターネットの問題について政策等における意思決定者に情報提供を行うための公共政策プログラム、インターネット利活用に興味を持つ、人々の交流を行う場を作るネットワーキングイベント等があります。

なお、日本にもISOCの支部としてISOC日本支部(ISOC-JP)(*5)があり、ISOCの理念に従い活動を行っています。ちなみに、1994年に設立されたISOC-JPは、 ISOCの地域支部制度ができて最初に作られた支部です。その後、活動が停滞していた時期があり、「再活性化が必要な地域支部」というステータスになっていましたが、ISOCというインターネットガバナンスの階層構造上にある団体に対して、日本からの貢献を高めたい、また、そのような場所で活躍できる人材の増強を行いたいという背景から、支部の再活性化に向けた活動を行い、2012年に支部の再認定を受けています。なお、現在の会員数は428名で、 日本国内におけるインターネットの普及啓発や日本の状況の海外発信、IETFに関わる方々の情報交換の場の提供を中心に活動しています。なお2020年はISOC本部(*6)と連携した活動に加え、The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers (ICANN)(*7)やWorld Wide Web Consortium (W3C)(*8)、一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)(*9)等の、外部組織と連携した活動も行ってきました。

(*5) ISOC-JP Wiki: https://www.isoc.jp/

(*6) Kids, the Internet & COVID-19: How to keep our children safe online https://www.internetsociety.org/events/kids-the-internet-covid-19-how-to-keep-our-children-safe-online/

(*7) The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers https://www.icann.org/

(*8) World Wide Web Consortium https://www.w3.org/

(*9) 一般社団法人情報通信技術委員会 https://www.ttc.or.jp/

話が少しそれましたが、IETFが取り組んでいるオープンな標準化活動というのは、ISOCのめざすオープンでグローバルに接続され、安全で信頼できる、 すべての人のためのインターネットの実現に向けた活動の中心に位置しているため、ISOCはIETFの支援を行っています。なお、ISOC-JPでは、IETFミーティングに合わせ、日本からのIETF参加者向けの企画をいくつか継続的に行っています。今回も、日本からの参加者向けの情報交換を目的とした懇親会である、Get-togetherをオンラインで開催したり、IETFミーティング後には、ISOC-JPとJPNICが共催している、IETFミーティングに関するホットトピックを参加者から日本語で報告してもらう、IETF報告会(*10)を行います。今回のIETFミーティングに関する報告会は、2020年12月23日(水)に開催されます。 みなさまぜひご参加ください。

(*10) IETF報告会 (109th オンライン) https://www.isoc.jp/wiki.cgi?page=IETF109Update

 


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