JPNIC Blog JPNIC

「今後のインターネットと標準化」に関するアンケート結果

event_team 

IETFミーティングへの日本からの参加者が10年前から徐々に減ってきています。IETFは、さまざまな分野のプロトコルについて、多くの国の優れた技術者が切磋琢磨している場でもありますので、参加人数の減少は、日本の技術力を持つ人や企業に対する認知が、少なくともIETFに参加している技術者の間では下がっていくことを意味しています。

一方、IETFをはじめとする標準化団体では、2018年頃から話題になっているNew IPや2030年を目安にした今後のネットワークアーキテクチャに関する議論が行われています。国内の技術者や企業の国際的な認知が下がってしまうと、かつて「ガラパゴス」と呼ばれた現象のように技術の乖離が起きていくかもしれません。独自の技術開発はすばらしいことですが、蓋を開けてみるとほとんど使われていないという状況は避けたいところです。もし私たちが国際的に優れたサービスを「利用する」だけの立場になって、生み出す立場でなくなってしまうと、持っていると思っていた技術力はそのうち通用しなくなるかもしれません。今後を考えたとき、国際的な標準化の活動に私たちはどのように関わっていけば良いのでしょうか。またその課題には何があるのでしょうか。

本稿で紹介するアンケートは、この検討に向けた基本的な調査をするために2020年12月から2021年1月にかけて行われました。アンケートの他に標準化の活動に参加している方へのヒアリングを行っており、標準化活動への取り組みのあり方や、ホットなトピック、継続的な参加の課題などを明らかにしてく予定です。

今回のアンケートの対象は、JPNIC会員とIPアドレス管理指定事業者等のIPアドレスおよびAS番号に関わる方々です。当センターのメーリングリストを通じてお知らせを行った結果、76の回答を得ました。その結果を紹介します。

アンケート項目:「国際的な標準化団体(IETF、IEEE、ITU、ETSI、3GPP、W3C、CAブラウザフォーラムなど)での活動にどのように取り組んでいるか、ご自身の所属する組織やご自身のお考えに一番近いものをお知らせください。」

  • 国際的な標準化活動に参加されているのか、参加していないけれども関心を持たれているか、もしくは意識されていないかを伺う質問です。

選択肢 回答数 割合
1.標準化団体の具体的な会合に、人員を派遣している 1 1%
2.標準化団体の具体的な会合の情報を含むメーリングリストに参加しており、必要であれば人員を派遣する用意がある 1 1%
3.標準化団体の会合に参加していないが、標準化動向に関する報告会や報告資料を通じて情報を入手している 11 14%
4.標準化団体の会合に参加おらず、報告会や報告資料を見ていないが、ニュースメディアなどを通じて標準化に関する情報を入手している 21 28%
5.会社や所属組織において標準化の動向に関知していないが、個人的に情報を入手している 18 24%
6.国際的な標準化についてほとんど意識していない 22 29%
7.その他 2 3%

「国際的な標準化についてほとんど意識していない」が29%と最も多く、「標準化団体の会合に参加おらず、報告会や報告資料を見ていないが、ニュースメディアなどを通じて標準化に関する情報を入手している」が28%、「会社や所属組織において標準化の動向に関知していないが、個人的に情報を入手している」が24%、「標準化団体の会合に参加していないが、標準化動向に関する報告会や報告資料を通じて情報を入手している」が14%でした。

標準化団体の会合に参加していないものの、何らかの形で情報を入手している回答を合計すると66%になります。関心を寄せられていて本アンケートへの回答をしてくださっていると推測はできますが「意識していない」という回答がある中、大きい割合であると見ることもできます。

アンケート項目:「国内の標準化団体(TTC、ARIB、JCTEA、JATEといった団体など)での活動にどのように取り組んでいるか、ご自身の所属する組織やご自身のお考えに一番近いものをお知らせください。」

  • 国内での標準化に関わる取り組みを伺う質問で、国際的な活動と同様に、参加されているのか、参加していないけれども関心を持たれているか、もしくは意識されていないかを伺う質問です。

アンケート項目「国内の標準化団体(TTC、ARIB、JCTEA、JATEといった団体など)での活動にどのように取り組んでいるか、ご自身の所属する組織やご自身のお考えに一番近いものをお知らせください。」回答数

選択肢 回答数 割合
1.標準化団体の具体的な会合に、人員を派遣している 2 3%
2.標準化団体の具体的な会合の情報を含むメーリングリストに参加しており、必要であれば人員を派遣する用意がある 1 1%
3.標準化団体の会合に参加していないが、標準化動向に関する報告会や報告資料を通じて情報を入手している 8 11%
4.標準化団体の会合に参加おらず、報告会や報告資料を見ていないが、ニュースメディアなどを通じて標準化に関する情報を入手している 21 28%
5.会社や所属組織においては標準化に関知していないが、個人的に情報を入手している 13 17%
6.ほとんど意識していない 28 37%
7.その他 3 4%

前のアンケート項目と似た傾向が見られました。

最も多かったのは「ほとんど意識していない」で37%でした。「標準化団体の会合に参加していないが、標準化動向に関する報告会や報告資料を通じて情報を入手している」(11%)、「標準化団体の会合に参加おらず、報告会や報告資料を見ていないが、ニュースメディアなどを通じて標準化に関する情報を入手している」(28%)、「会社や所属組織においては標準化に関知していないが、個人的に情報を入手している。」(17%)を合わせると56%になります。

情報の入手に関して、国際的な標準化団体での活動と似た傾向があるように見えます。情報の入手にあたっては海外と国内を問わない、逆の見方をしますと、国際的な標準化の動向に関心を寄せている方は国内の情報も入手されていると見ることができそうです。

アンケート項目:「国際的な技術標準の策定に関わる考え方に合うものを教えてください。(複数選択可)」

  • 国際的な技術標準についてどのような形で関わる考え方が多いのか、もしくは関知しないのかを伺う質問です。

アンケート項目「国際的な技術標準の策定に関わる考え方に合うものを教えてください。(複数選択可)」回答数

選択肢 回答数
1.国際的な技術標準に関知しておらず、考えはない 24
2.担当者や研究者(有識者)が必要性に応じて議論に参加する 13
3.他社の人が参加し報告される内容を通じて動向を把握する 21
4.担当者や研究者が継続的に参加し、できれば議論をリードする 11
5.国内の標準化に関わる団体が意見を取りまとめ、国際的な議論に参加する 13
6.関係省庁が主導して意見調整を取りまとめ、国際的な議論に参加する 7
7.産官学連携のフォーラムで意見調整を取りまとめ、国際的な議論に参加する 8
8.その他 2

国際的な技術標準の策定の考え方についても「国際的な技術標準に関知しておらず、考えはない」の回答数が24と最も多い結果となりました。担当者や研究者が参加する、「担当者や研究者(有識者)が必要性に応じて議論に参加する」(回答数13)「担当者や研究者が継続的に参加し、できれば議論をリードする」(回答数11)を合わせると24となり、担当者や研究者が何らかの形で参加するという考え方が「考えはない」と同じ程度あるように見えます。

関係省庁もしくは産官学連携のフォーラムで意見調整をする、は合計15となり、取りまとめが必要という考え方が一定数あることが分かります。回答者が想定されている標準化団体の違いが出ている可能性もあります。

アンケート項目:「インターネットや、今後のネットワークアーキテクチャの標準化のあり方として、ご自身の所属する組織やご自身のお考えに一番近いものを教えてください。(複数選択可)」

  • 国際的に新しいアーキテクチャに関する標準化の議論が行われています。そのあり方に関する考えを伺う質問です。

アンケート項目「インターネットや、今後のネットワークアーキテクチャの標準化のあり方として、ご自身の所属する組織やご自身のお考えに一番近いものを教えてください。(複数選択可)」回答数

選択肢 回答数
1.関知しておらず、特に考えはない 4
2.サービスとして利用できればよく、標準化されたアーキテクチャが新しいかどうかは関知しない 28
3.各社の有識者が状況を把握し、国際的な標準化の議論に参加すべき 21
4.業界団体や国内の団体で意見を取りまとめて、国際的な議論の場に持っていくべき 28
5.関連省庁が主導して意見調整をすべき 10
6.産学官連携のフォーラムを組織すべき 10
7.学術的に研究に基づいて標準化の活動を行うべき 10
8.通信事業者の意見を反映できるように標準化の活動をすべき 22
9.メーカーの意見を反映できるように標準化の活動をすべき 16
10.その他 2

本項目については「特に考えはない」(回答数4)は少ない一方、「サービスとして利用できればよく、標準化されたアーキテクチャが新しいかどうかは関知しない」(回答数28)、「各社の有識者が状況を把握し、国際的な標準化の議論に参加すべき」(回答数21)、「業界団体や国内の団体で意見を取りまとめて、国際的な議論の場に持っていくべき」(回答数28)と、意見が分かれる結果になりました。「関知しない」を除く二つは、何らかの形で国際的な標準化の議論に関わりますが、有識者による状況把握か、団体が取りまとめるかが違っています。こちらも二つに分かれました。

アンケート項目:「継続的な標準化活動への参加にあたってのお考えや課題と感じられていることで一番近いことを教えてください。」

  • 標準化活動の場においては、しばしば継続的に参加する必要性が指摘されています。しかし継続的な参加に至らないケースは多く、その課題を伺う質問です。

アンケート項目「継続的な標準化活動への参加にあたってのお考えや課題と感じられていることで一番近いことを教えてください。」回答数

選択肢 回答数
1.会社や所属している組織で標準化が認知されていない 17
2.会社や所属している組織で標準化の重要性が認識されていない 20
3.標準化の活動が成果として認められにくい 9
4.継続的な参加のために時間を確保しにくい 17
5.継続的な参加のための資金を確保しにくい 6
6.継続的な参加の必要性を感じていない(その他の欄に、差支えない範囲で理由をご記入ください) 3
7.その他 4

「継続的な参加の必要性を感じていない」(回答数3)は少なく、多かった回答は「会社や所属している組織で標準化が認知されていない」(回答数17)、「会社や所属している組織で標準化の重要性が認識されていない」(回答数20)、「継続的な参加のために時間を確保しにくい」(回答数17)でした。標準化に関する所属組織での認知や重要性の認知が低いために、資金の確保につながりにくいということでしょうか。

アンケート項目:「日本から国際的な標準化活動の関与するために、欠けているとお考えの点につきましてご意見がありましたらお知らせください。」

  • 自由記述形式でご意見を伺う質問です。たくさんの回答を頂きましたのでここでは主な回答について簡単に紹介します。

言語の壁やプレゼンテーション、発信力が欠けているという回答が目立ちました。産学での情報交換の必要性を指摘する回答や、学生が興味を持っても社会人になると活動が途絶えてしまうといった状況を指摘する回答もありました。

結果を受けて

現在は状況が変わってきているかもしれませんが、国際的な標準化の活動に継続的に参加するには直接経費として分かりやすい参加費や旅費交通費が継続的にかかってきます。アンケートをお願いするにあたって、それらの資金が重要なのではないか、という見方が社内でありましたが、アンケートの結果からは、より本質的な、所属組織における標準化やその重要性に対する認識が関わってくることが見えてきました。

本アンケートが標準化に関するものであることから、回答してくださった方には国際標準や標準化活動の重要性を認識されている方が多かったのかもしれません。全体としては広く認識されているとは言い難い状況であるかもしれません。ただ、何らかの形で標準化の動向を把握し、日本から議論に参加してく、もしくは国際的な動向に関心を寄せていく必要性を感じている方が多数いるという実感は得られました。

このアンケートの他に、標準化の活動に参加している方へのヒアリングを行っています。標準化の活動の動機、継続的に参加する際の課題、所属組織における位置付けなどについてです。2021年1月27日(水)から29日(金)に行われるJANOG47のライトニングトークでは、ヒアリング結果についても紹介する予定です。

JANOG47 Meeting
https://www.janog.gr.jp/meeting/janog47/

このブログ記事とライトニングトークは、さまざまなご意見をいただき、また国内で事業をされている方との対話を通じて取り組んでいくための情報発信の位置付けでもあります。一緒に取り組んでいただける方のご連絡をお待ちしています

この記事を評価してください

この記事は役に立ちましたか?
記事の改善点等がございましたら自由にご記入ください。

このフォームをご利用した場合、ご連絡先の記入がないと、 回答を差し上げられません。 回答が必要な場合は、 お問い合わせ先 をご利用ください。