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World IPv6 Day 10周年

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今年「今から10年前」と言うと、恐らく2011年3月11日の東日本大震災のことを真っ先に思い浮かべる方が多いと思いますが、ちょうど10年前となる2011年6月8日に”World IPv6 Day”というイベントが行われたことを思い出す方も、もしかしたらいらっしゃるのではないかと思います。
本記事では、そのWorld IPv6 Dayから10年を記念して、この10年間のIPv6の普及状況を振り返ってみることにします。

World IPv6 Dayとは

2011年2月3日に、IANAが管理するIPv4アドレスの在庫をすべてのRIRに対して一斉に分配することによって、IPv4アドレスの在庫枯渇状態を迎えました。その2ヶ月後の4月15日には、APNICが通常の分配ポリシーによるIPv4アドレスの割り振りを終了しました。この状況を踏まえ、今後IPv6が本格的に展開していくことに弾みをつけるための試みとして、Internet Society (ISOC)が2011年6月8日の1日だけ、サービス事業者が一斉にIPv6を有効化してみることを呼びかけたのがWorld IPv6 Dayです。

なお、翌年2012年6月6日には、その日を境にIPv6を恒久的に有効にしようという”World IPv6 Launch”が呼びかけられており、当初立ち上げられたサイト”http://www.worldipv6day.org/”も、現在は”https://www.worldipv6launch.org/”にリダイレクトされるようになっています。
また、日本においてもインターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸氏が中心となり、国内向けの呼びかけが行われました。
http://www.attn.jp/worldipv6day/index.html

2011年と2021年の状況比較

さて、それでは今から10年前、2011年頃のIPv6普及・対応状況と2021年の最新状況を比較してどのような変化があったか振り返って見ていきましょう。

IPv6アドレスの分配状況

まずはIPv6アドレスの分配状況についてです。

2011年6月時点でIPv6アドレスの割り振りを受けているIPアドレス管理指定事業者の数は167組織でした。それが10年経過すると2倍近い数に増えて308組織となっています。


また、分配を受けているIPアドレス管理指定事業者の地域分布を比較してみると、2011年から東京の割合が若干減少し、東京以外の地域における分配の割合が増加していることから、10年の間に地域の事業者の対応にも変化が表れていると思われます。

さらに、IPアドレス管理指定事業者がユーザーに対して割り当てを行った件数を見てみると、2011年6月時点では368件程度だったものが最新の状況では2,831件と約8倍の件数に増加しています。

アクセス回線

インターネットへのアクセス回線として、NTT東西のフレッツサービスがPPPoE方式を2011年6月から、IPoE方式を同年7月から開始しています。
開始から半年経過した2012年12月から契約数の推計値が公開されており、2012年12月時点では契約数67,000契約だったものが、2021年3月時点では1,800万件を超え、フレッツ光ネクストユーザーの8割がIPv6対応となっています。
これはちょうどの10年でFTTHの普及が進んだことと、さらに光コラボによる乗り換えなどの発生が影響しているのではないかと考えます。またこれに加えて、IPv4/IPv6共存技術の普及もこの状況の後押しになったのではないでしょうか。

フレッツ光のIPv6普及率推移

https://www.v6pc.jp/jp/spread/ipv6spread_03.phtmlのデータより作成

KDDIが提供するauひかりでも、2011年6月時点ですでにIPv6対応を開始しており、2014年末までにはすべての契約者へのIPv6対応が完了しています。同様に中部テレコミュニケーションズが提供するコミュファ光についても、2019年9月にすべての契約者がIPv6対応完了しており、主に家庭向けの固定回線によるインターネット接続のIPv6はこの10年で大きく進展したと言えるのではないかと思います。

一方で、CATVにおいてもアクセス回線として利用されるネットワークとして、一部の事業者では2012年頃からサービスを開始していたようです。ただし地域の事業者におけるユーザ規模の違いもあり、対応は思うように進まない状況だったと認識しています。ユーザへのIPv6アドレス配布方式の見直しや、対応機器の普及などにより、本格的な対応はこれからといった状況かと思います。

携帯電話/スマートフォン

2011年当時は上記フレッツを始めとする固定系アクセス回線の対応が課題の中心となっており、携帯電話キャリアのIPv6対応に関してはあまり話題になっていませんでした。
ちょうどスマートフォンの普及期にやっと差し掛かった時期であり、モバイルネットワークにおけるIPv6対応は一部のデータ通信サービスのみに留まっていました。
しかしその後のスマートフォンの急速な普及によって、インターネットもスマートフォンを端末とした利用が顕著に増えていく中、固定系アクセス回線のIPv6対応がある程度進んできた2015年頃から、携帯電話キャリアのIPv6対応の議論が活発化していきました。

IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会(第36回)配布資料より引用

そして2016年末から2017年前半にかけて、大手携帯電話キャリア各社がスマートフォンのIPv6対応を順次開始して2020年夏頃には各社併せて3割以上の対応率になっているようです。今後この比率は前述したフレッツ光ネクストのように急激に増加していくのではないかと想像します。

コンテンツプロバイダー

そもそも2011年6月のWorld IPv6 Dayは主にコンテンツ事業者のWebサイトのIPv6対応を狙ってのものでした。
実際、GoogleやFacebookなど大手コンテンツプロバイダがWorld IPv6 Dayに参加し、翌年のWorld IPv6 Launchからは常時IPv6対応を行っています。特にYoutubeやNetflixなど動画配信系のサービスがIPv6対応は、IPv6トラフィックの全体を押し上げることにつながりました。
ただ国内のコンテンツプロバイダについては、海外大手コンテンツプロバイダへ追従してIPv6対応が進んでいくという動きはあまりなく、ISPのIPv6接続サービスが拡大していくのとは対照的な状況が続いていました。
しかし、2019年頃からコンテンツプロバイダーとその配信基盤となるデータセンター事業者の対応についての協議が進んでいる状況で、接続サービスのIPv6普及に目途が立ったこれからがコンテンツサービスの対応が本格的していくと期待されます。

企業ネットワーク

企業ネットワークのIPv6対応については、2014年に総務省から企業や地方自治体向けにIPv6対応ガイドラインIPv6対応調達仕様書モデルが公開され、推進していく動きがありましたが、この頃から企業におけるクラウドサービスの利用が拡大していくことで、企業向けのネットワークやシステムのIPv6化についてはあまり話題になってきていない印象です。
企業によるAmazon Web Service (AWS)やMicrosoft Azureなどのクラウドサービスの活用が増え、これまで社内システムとして設置していたものもSaaS、PaaSなどに置き換えられ、Google Workspace (旧G Suite)やMicrosoft 365などを積極的に導入し活用する動きが進んでいる中、さらにここのところの感染症禍におけるリモートワークの普及も影響して、オフィスのIPv6対応に関する問題意識が徐々に低下してきているのだと考えます。

変わったことと変わらなかったこと

ざっとこの10年の動きを振り返ってみると、やはりインターネット接続サービスのIPv6対応が急速に進んだことが顕著な動きでした。これには、IPv4/IPv6共存技術の標準化と、同技術を実装した家庭用機器の普及も大きく影響したと考えます。
アクセス回線という点では、スマートフォンやCATVの対応はまだまだこれからの展開になりますが、ある程度の見通しがついた状況にあると言えると思います。

一方、アクセスされる側のコンテンツサービスについては、対応しているメジャーサービスのおかげでIPv6トラフィックは年々増加傾向にあり、IPv6の普及を実感出来るようになったと思います。
しかし、対応しているサイト/サービスの数という観点でいうとまだまだこれからといったところで、10年前からあった問題意識はそれほど大きく変わっていないのではないかと思われます。

同様に、企業のネットワークについてもIPv6化ということについては当初は課題とされていて、ガイドラインなどによる対応を促す動きはあったものの、クラウド利用やリモートワークの普及により、「社内LANやサーバーなどのシステム更新タイミング時を利用したIPv6への対応」というシナリオが崩れて、まったく別の展開になってきています。

そして何よりIPv4によるインターネットは強固に残っており、それに必要なIPv4アドレスが現在もオークションなどで取引され続けているという現実もあります。

そしてこれからの10年に向けて

10年前に現在のこの状況を正確に見通せなかったように、今後の10年を展望することは困難です。ただしIPv6の普及はインターネットの未来には不可欠であることは間違いないでしょう。

10年前から考えるとIPv6でインターネットに接続しているユーザーは劇的に増加しているように見えますが、これをもって「IPv6が普及した」と考えるのはまだ早計で、インターネットに繋がるすべてのノードがIPv6による通信が可能になることを目指すべきだと思います。そして、インターネットが今後も円滑に利用出来るためには、IPv6プロトコルの仕様を正しく理解して運用することも重要かと思われます。

長いようで短い10年という時間の中で、IPv6インターネットが十分に普及し、多くの新たな技術やサービスがその上で発展されていく未来を、World IPv6 Dayから10年が経過した今、改めて期待したいと思います。