インターネットガバナンスに関する最新状況
dom_gov_team インターネットガバナンスMultistakeholder High-Level Body (MHLB) について
「デジタル協力」関連の最新動向で取り上げた、国連事務総長による「デジタル協力へのロードマップ」中の93(a)節「グローバルなデジタル協力」で創設が提案された、マルチステークホルダーハイレベル組織体(Multistakeholder High-Level Body, MHLB)についての意見募集結果が、2021年2月に開催された第1回マルチステークホルダー諮問グループ(MAG)オープンコンサルテーションの場で発表・議論されました。93(a)節の筆者による訳は以下の通りです。
既存のマルチステークホルダー諮問グループ(MAG)の経験を基に、戦略的で権限を与えられたマルチステークホルダーによるハイレベル機関を創設し、緊急の問題に対処し、フォーラムの議論に関する事後行動を調整し、フォーラムから提案された政策アプローチと提言を適切な規範的・意思決定を行う場に中継する。
MHLBの概要によれば、MHLBは次のステークホルダーからなり、任期は2年、候補者は公募し、国連事務総長がIGF事務局、国連経済社会局(UN DESA)および国連事務総長の技術使節(Envoy on Technology)の勧告をもとに選定するとなっています。
- 各国政府より大臣級
- 民間企業、技術コミュニティ、市民社会よりCEO/社長/事務局長レベル
- 一般参加(At-Large)メンバー=前述に当てはまらない卓越した個人
- 現在、過去、今後のIGFホスト国から3名の代表(大臣または省庁の首脳)
- IGF MAG議長
- 国連事務総長の技術使節
国連が作成したまとめ文書によれば、オープンコンサルテーションでは、MAG内にMHLBを設立すること自体は支持が得られたとしています。MHLBが持つべき機能についてはその後の意見募集の際にさまざまな意見が出ており、主なものは次の通りです。
- IGFでの議論や成果と意思決定の場や機関をリンクすること
- MHLBが戦略的な役割、例えば複数年度にわたるIGFの戦略計画の策定、IGF Plusモデルへの移行設計および実装など、を果たすべき
- 資金集めに寄与すべき
- IGFの成果をMHLBが政策勧告やガイドラインに翻訳すべき(反対意見もあり)
- メンバーをハイレベルにすべきかシニア/専門家レベルにするかで意見が割れた。両者のバランスをとるべきとの意見も
- MHLBに対するIGF事務局からの強い支持が示されたが、事務局はリソースが足りておらず追加の資金提供およびスタッフ増強が必要
- 資金源は強化されたIGF Trust Fundとする案が支持を集めたが、MHLBメンバーに資金提供を働きかける案、別の国連ファンドを作る案、および民間セクターに拠出を依頼する案などが提案された
その後、6月14日には国連経済社会局(DESA)およびIGF事務局より説明セッションがあり、MHLBとは何かが説明されたのち、参加者より意見が多数述べられました。新たな組織体としてMHLBを創設することに反対の意見もあり、MHLBはトップダウン構造でありIGFの精神に反するため、MAGがその役割を果たすべきという意見もありました。それに対し、IGFを強化しインターネットガバナンスの課題に関する議論と意思決定を橋渡しする意味でMHLBへの支持を表明する参加者もいました。MHLBが大臣級、社長/CEOクラスの人からなることにより、必要な時間を約束することが難しくなるので、参加者のレベルを下げた方が適切ではないか、という意見もありました。MHLBはチャタムハウスルール(参加者は会合の内容は会合外で自由に共有してよいが、誰が話したかは秘匿する)で開催されることになっていますが、オープンで透明性を持つというIGFの特徴に反するように見えるという意見もありました。
第2回MAGオープンコンサルテーション
6月22日にMAG会合(6月23日、30日に開催)に先立ちオープンコンサルテーション(広く一般に開かれた協議/相談の意)が開催されました。MAG会合そのものも誰でも傍聴できますが、本会合はMAG委員でなくても意見も言うことができます。
まずIGF 2021ホスト国のポーランド政府の代表が、IGF 2021の進捗状況についてホスト国の観点より報告しました。ハイレベル指導者トラックおよび議員トラックには、国連事務総長、ポーランドの下院議長、大統領、首相、EU、欧州委員、各国デジタル担当大臣などが出席する予定となっていること、ハイレベル指導者トラックの議題は次の通り提案されていることが報告されました。
- COVID-19パンデミック後のデジタル分野の進展
- パンデミック後のビジネスの新たな現実
- デジタル環境問題
- インターネットにおけるコンテンツモデレーション
- デジタルに関する能力開発
議員円卓会議で提案されている議題は、利用者中心のデジタル空間に関する規制の取り組み方となっているとのことです。
第16回IGF本番は12月6日から10日まで開催されますが、ポーランド・カトヴィツェの会場とオンラインでのハイブリッド形式となり、どちらの形態で参加しても差が少なくなるよう労力が注がれています。参加者のタイムゾーンを考慮して、1時間程度なら前後にずらせるようホスト国は準備してくれるとのことですが、それ以上ずらすことは難しいようです。
オープンコンサルテーションに先立ち、インターネットガバナンスエコシステムに含まれる次の団体より事前録画されたブリーフィングが公開され、これもオープンコンサルテーションのプログラムの一部となりました。JPNICにもなじみの深い団体も含まれています。
- CGI.br(ブラジルインターネット調整委員会):ブラジルのインターネット活動に関する方針などの策定、IPアドレスおよび.brドメイン名登録の調整などを行う
- Internet Society
- Number Resource Organisation (NRO):地域インターネットレジストリ(RIR)の連合組織
- DiploFoundation:インターネットガバナンス、外交、国際関係などの能力開発を主に行う非営利団体
- 国連軍縮研究所(UNIDIR)
- ICANN
- 欧州評議会(CoE)
- 国連事務総長の技術使節室(Office of the Secretary-General’s Envoy on Technology)
- 経済協力開発機構(OECD)
- 国際電気通信連合(ITU)
次いで国別・地域別IGF活動(NRI)の現状について紹介され、137の活動を含み、うち51が2021年に会合開催が確認できていること、IGF 2021で5つのプログラムを開催すること、各国議会や政府にNRIを紹介するためのパンフレットを制作したこと、などが紹介されました。その後の議論ではNRIがMAGの課題チームへ寄与する機会があるなど、IGF本体との調整の促進や、IGFの成果を各国に行き渡らせるためにNRIは欠かせない、従来はあまり表に出なかったコミュニティからより多くのステークホルダーをIGFに連れてくる際にNRIが重要、などの点が指摘されました。
翌6月23日のMAG会合ではワークショップの選定が主に行われることになっており、それに先立ち本会合で選定状況が報告され、203のワークショップ提案を評価したこと、選定作業は6月30日に完了する予定であることなどが伝えられました。
IGF 2021国内事前会合プログラムの公募を開始
IGF 2023に向けた国内IGF活動活発化チームのご紹介でも触れましたが、本年12月のIGF 2021に向けて、10月末頃に国内事前会合を開催する予定になっています。事前会合に向けて、このたびプログラムの公募を開始しました。IGFではプログラムを公募しており、それに倣った形となります。8月10日が締め切りですので、それまでに奮ってご応募ください。詳細な応募要領につきましては、「IGF2021国内事前イベントにおけるセッション提案の募集要項」をご覧ください。