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第111回IETF報告 [第1弾] 全体概要

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第111回IETFミーティング(IETF111)は、2021年7月、オンラインで開催されました。本来の開催地であるサンフランシスコ時間に行われたため、セッションの開始が日本時間の午前4時からになることがありました。

開催の概要とホットトピックをお届けします。

行われたミーティングと参加人数

IETF111ミーティングでは、WG会合と全体会合(Plenary)やBoFの他には、前の週にIETFハッカソンが行われました。

オンライン開催が主になる前の2019年頃までは、RIRからの参加者やDNSやBGP等の運用者や研究者が集まるIEPG(Internet Engineering and Planning Group)ミーティングが行われたり、ライトニングトーク会合であるHotRFC(Request for Conversation/会話のリクエスト)といったIETFミーティングで人が集まる機会を利用した会合が行われてたりしていました。WG会合で標準化の議論が進みますが、その他の会合も背景となる知識や関連研究等の活動を知る貴重な機会であり、復活が望まれます。

IETFミーティングの参加人数は回復しつつあります。オンライン開催では1,500名以上であった参加者数が、2020年に入って完全なリモートになると1,000名強にまで減りましたが、その後、徐々に増加して1,500名弱に戻ってきています(グラフ1)。RPKIや全体会合に主に参加している筆者の感覚としても、WG会合において良い議論が行われているときに必ずと言っていいほど参加されていたベテランの人たちが戻ってきて、良い議論が起こることが多かったと思います。

IETF108(2020年7月)頃から参加者数は徐々に回復しつつある。
(グラフ1) IETF108(右から四番目)の頃から参加者数は徐々に回復しつつある。(黄色は現地の参加者数、赤色はリモートの参加者数)
日本からの参加者は60を超えていたIETF101(2018年3月)前後に比べて減少し、50名程になっている。
(グラフ2) 日本からの参加者は60を超えていたIETF101(2018年3月)前後に比べて減少し、60名弱になっている。

日本からの参加者は60名弱で推移しています。オンラインになることで一段階減少したように見えます(グラフ2)。

オンラインになってからIETFでは議事メモがしっかりと取られるようになったり、チャットで話がしやすくなったりする傾向があるようです(*1)。2021年6月4日(金)に行われたIETF勉強会&座談会で参加方法やコツについての発表がありましたのでご覧いただければと思います。

(*1) リモート参加では、じっくりと議事を読んだりチャットで議論を追いかけていくことができるので、標準化活動における英語の習得が課題とお考えの方にも向いていると思います。

ホットな話題 ~IETF111で行われたBoF~

IETF111で行われたBoFを紹介します。

  • ohttp(Oblivious HTTP/記憶されないHTTP)

    現在のHTTPプロキシーは、やりとりされるメッセージを読み取ることはできないですが、アクセスしているWebブラウザ等を識別する情報はWebサーバに伝わるようになっています。ohttpは更にクライアントのIPアドレス等、クライアントが同一かどうかを識別できる情報をWebサーバに伝えないようにするプロキシーの仕組みです。WG設立の方向で趣意書の議論が進められています。

    Oblivious HTTP BoF, IETF 111, July 2021
    https://datatracker.ietf.org/meeting/111/materials/slides-111-ohttp-chair-slides-00

  • danish(DANE AutheNtication for Iot Service Hardening/IoTサービスを強くするためのDANEを使った認証)

    センサーデバイス等、IoTのノードへの接続時の認証を行うためにPKIを使おうとすると、さまざまなプライベートのPKIドメイン(ルートCAの異なる証明書ツリー)ができてしまうことが考えられます。ノードを特定する(discovery/発見)する仕組みや、名前の衝突を避けたりトラストを確立することも必要になってきてしまうため、DANE(DNS-based Authentication of Named Entities)を利用することが検討されているBoFです。IETF110に続いて二回目で、WG設立に向けて趣意書の議論が行われています。

    DANISH problem space(解決する課題の範囲や解決手法を確定する議論のための資料)
    https://datatracker.ietf.org/meeting/111/materials/slides-111-danish-danish-problem-space-00

  • madinas(MAC Address Device Identification for Network and Application Services/ネットワークとアプリケーションサービスのためのMACアドレスを使った識別)

    IEEE802のデータリンク層で使われるアドレスであるMAC(Medium Access Control/メディアアクセス制御)アドレスは、従来、物理的なネットワークインターフェースのメーカーによって割り当てられていましたが、グローバルに一意とするアドレス空間が枯渇してしまうため、またプライシーへの配慮もあって、ランダム化されたMACアドレス(Randomized and Changing MAC addresses (RCM)/ランダムで可変のMACアドレス)の利用が標準化される動きがあります。madinasではDHCP等のMACアドレスの変化が影響する仕組みを挙げて、依存度を分類する等の議論(draft-henry-madinas-framework)が行われています。

    draft-henry-madinas-framework
    https://datatracker.ietf.org/doc/draft-henry-madinas-framework/

  • apn(Application-aware Networking/アプリケーションを意識したネットワーク)
    帯域・遅延・パケット損失のレート・遅延の揺らぎ(ジッター)に対する要件を含めた属性(APN attribute)をヘッダーに持つことで、特定のネットワークの範囲(APN Domain)でそれらを満たされるようにする仕組み apn について議論しています。SRv6を使ったネットワークが適用例として挙げられます。IPv6 Flow Label等の他の仕組みとの比較が下記で述べられています。

    Why are existing mechanisms not enough?, Gyan Mishra
    https://datatracker.ietf.org/meeting/111/materials/slides-111-apn-existing-mechanisms-01

全体会合より

IETF111のプレナリー(全体会合)から三つの話題を紹介します。

〇エンドユーザーのためのネットワーク品質の計測ワークショップ(IAB)
(IAB Workshop: Workshop on Measuring Network Quality for End-Users)

新型コロナウィルス感染拡大の影響下、リモートワークやリモートで行われる教育が広まり、エンドユーザーの観点でネットワーク品質の重要性が注目されてきています。IABでは2021年9月14-16日に「エンドユーザーのためのネットワーク品質の計測ワークショップ(IAB)」を予定しており、下記の検討上の疑問に応えるべく議論が行われます。

ワークショップで議論される疑問点:

  1. UXをよくするために影響するネットワークの基本的な性質は?
  2. その性質を定量的に図るメトリックは?そのメトリックを集める実際の方法は?
  3. そのメトリックを解釈しディジョンメイキングに役立つためのベストプラクティスは?
  4. そのメトリックについてサービスプロバイダとネットワークオペレータとにコミュニケーションする方法は?
  5. どうすればそのメトリックを意味のある形でユーザーに見せられるのか?

日本でも通信速度の最高値がプロバイダーの比較のために使われることがありますが、エンドユーザーの観点での使用感は、通信速度だけでなく、パケット損失の割合や遅延のゆらぎによって大きく左右されます。このようなワークショップによって、より適切な評価の指標(メトリック)が求められ、ユーザーにとって快適なネットワークを目指す機運が高まることが考えられます。

〇Applied Networking Research Prize(ANRW)

ANRPは、インターネットの標準に関連する研究の成果に関して1年に1度、選考が行われ、贈られる賞です。今回は以下の研究に関して贈られ、またIETF112でも加えて発表されます。

  • Rüdiger Birkner, Dana Drachsler-Cohen, Laurent Vanbever, and Martin Vechev, “Config2spec: Mining Network Specifications from Network Configurations”, Proceedings of USENIX NSDI 2020.
    (Config2spec: ネットワーク設定からネットワーク仕様を導く)
  • Sadjad Fouladi, John Emmons, Emre Orbay, Catherine Wu, Riad S. Wahby, and Keith Winstein, “Salsify: low-latency network video through tighter integration between a video codec and a transport protocol”, Proceedings of USENIX NSDI 2018.
    (Slasify: ビデオコーデックとトランスポートプロトコルの間の密接な統合による低遅延なネットワークビデオ)
  • Thomas Wirtgen, Quentin De Coninck, Randy Bush, Laurent Vanbever, and Olivier Bonaventure, “xBGP: When You Can’t Wait for the IETF and Vendors”, Proceedings of ACM HotNets, 2020
    (xBGP: IETFの標準化とベンダーによる実装を待てないとき)

〇オープンマイク

参加者が自由に発言できるオープンマイクの時間に「Running code」の意味を問う議論がありました。IETFではドキュメントを作るだけでなく、その仕様で動作する実装が複数存在していることが、RFC化される条件となっています。これは実際には動作しないような仕様が作られることを避けたり、仕様の議論に終始したが役に立たないことを避けたりするためです。しかし、最近の実装にはスケーラビリティや復元性(resiliency)などが求められ、開発者にとっての実装の敷居が上がっていると言えます。会場では、実装のコストが高すぎるというコメントの他、「実装」といってもワンサイズではない、といった意見があげられていました。

2021年9月3日(金)に開催されるIETF111報告会が

2021年9月3日(金)17:00にオンラインでIETF111報告会が開催されます。IETF111報告会では、WebとQUIC等のWebトランスポート関連、IPv6関連の他、ディスカッションの時間があります。今回のテーマは「IETF以外の標準化活動を視野に入れた動向‐3GPP/モバイル‐」です。KDDI総合研究所の宮坂拓也さんを招いてお話しいたします。

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