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TWIGF参戦記

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JPNIC政策主幹の前村です。JPNICのいろいろなチャンネルでお伝えしているように、JPNICでは日本開催となるIGF2023を睨みながら、国内IGF活動の運営体制の構築に取り組んでいます。今回、台湾のIGF活動であるTWIGFの2022年会合が、2022年9月27日・28日の2日間にわたって開催され、登壇者として招待されたので参加しました。

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招待にあたっては現地参加を勧められ、隔離を含む入国規制が敷かれる中、主催者は政府に交渉して例外措置も調整して下さっていたのですが、現地参加は叶わず、27日のオープニングセレモニーでのご挨拶は録画で、28日のパネルディスカッションは遠隔登壇となりました。本稿では、このパネルディスカッションを中心にお伝えします。

28日のパネルディスカッションは2番目のプレナリセッションとして実施され、セッションタイトルは英語で、「The Challenge of Internet – and How The Future Internet will be」というもので、登壇者は以下の通りでした。

 モデレータ:  Kuo-Wei Wu TWIGF議長
 パネリスト:  Audrey Tang 台湾デジタル大臣
         Kenny Huang TWNIC CEO
         Becky Burr ICANN理事
         前村 昌紀 JPNIC政策主幹
         Paul Wilson APNIC事務局長

このセッションでモデレータを務めたWu氏は議長としてTWIGFを率いていますが、ICANN理事会においては私の前任者であり、その前にはAPNIC理事会でもご一緒していました。20年来の旧知の仲というところです。IP Meetingでご登壇いただいたこともあります。Wu氏は冒頭の導入部で、米国クリントン政権下の1997年に公表された政策文書、Framework for Global Electronic Commerceに遡って、それ以降、グリーンペーパー、ホワイトペーパーといったICANN設立につながる動き、そしてWSISからIGF設立につながる動き、さらに最近のEUにおけるGDPRやNIS2、DSAといったデジタル関係の法制など、公共政策とインターネットの関係にまつわる流れを説明しました。

続いて発言したBecky Burr氏は米国の弁護士で、現在ICANN理事を務め、2022年9月に3期目に突入しました。Burr氏はICANN設立に至るプロセスを米国商務省電気通信情報局(NTIA)の担当官としてリードし、ICANN設立後はNeustar社に移り、今度はレジストリ・レジストラ側からICANNのプロセスに貢献した方です。Wu氏から、今に至るまで25年間のインターネットの歩みを法律の観点から振り返ってどう考えるかという質問を受けたBurr氏は、学術の世界から飛び出したインターネットに対して大きな関心が寄せられるあまり、各国が過度な規制に、バラバラに走りやしないか、と心配だったと、当時を振り返って述べました。最近の状況として、先進各国それぞれにインターネットに関する民間主導を旨とするポジションを示しながら、各国ごとに懸念は細かく異なり、デジタル主権などの考え方にも違いがあること、デジタルは全員を幸せにするような期待があるものの、その発展は国によりまちまちであり、政策もさまざまであるなどと指摘しました。

続いて、Paul Wilson氏の発言です。Wilson氏は1998年からAPNIC事務局長を務めており、5つのRIRのなかで最長の在任期間となっています。JPNICトークラウンジにもお越しいただいて、今日に至るまでの歩みと想いを伺いました。Wu氏はWilson氏に、Burr氏同様、ここまでの歩みに関する考えを投げかけました。Wilson氏は、WSISのプロセスによってインターネット資源の管理体制に(国連組織による監視を付け加えるという)劇的な変更を加えられようとしたことに触れ、この試みは実現せず、それまでと変わらない民間主導の体制で発展し続けたこと、それによって今や世界の情報社会を支えるインフラとしての地位をゆるぎないものとして、世界の隅々にまで情報を行き渡らせることによって社会に対して劇的な変化をもたらしたことを指摘しました。主権の観点では、インターネットの語源「ネットワークのネットワーク」に触れ、運営組織それぞれが管理するネットワークが自発的な選択(Voluntary Adoption)によって相互接続されていき、最終的に単一のインターネットとなったという流れを確認、いわば「反主権」とでもいうべき流れ、相互接続のために独自性を改めて標準化するという流れを、それによる便益のために受け入れていると指摘しました。この観点から近年のEUのデジタル政策に関して、EUが「標準設定者」という立場を試みていると捉え、標準となるためには一方的な提示ではなく参加者との同意が醸成されるべき、としました。

その後を受けた私の番で、Wu氏からの質問はデジタル主権に関する日本での考え方、といったものだったのですが、これに対しては日本政府がマルチステークホルダーアプローチの支持者であり、信頼できる自由なデータ流通を提唱していると述べるに留め、2022年を通じてインターネット基盤が戦争に間近に向き合うさまを見て考えたことを紹介しました。つまりインターネット基盤である識別子を提供する立場にとって、ときに衝突も含みうる競争を繰り広げる場となる基盤を提供することが役目であり、権能である。ISPは顧客を接続する権能、政府は公共政策を施行し時には対立する国家姿勢を明確に打ち出す権能があり、好ましい社会のためにはこれらの権能が好ましく調整される必要があり、そういった検討のためにマルチステークホルダーアプローチを採るIGFの原則は示唆深い、としました。

私の次は台湾のデジタル大臣、Audrey Tang氏です。Tang氏はソフトウェア開発者として若いころから類まれなる才能を発揮するあまりデジタル大臣に抜擢され、感染症禍においてもデジタルによる対策を主導するなど、活躍している方です。Tang氏にはInternet Week 2020で、遠隔登壇していただきました。Wu氏からは他のパネリスト同様、インターネットの歩みとデジタル主権といった質問ですが、Tang氏には台湾政府としての考え方が求められました。Tang氏は最近の出来事として、TWIGF会合の2週間前に開催されたAPrIGFにTang氏が参加なさったことをプレスリリースする際に、「国連IGF配下のAPrIGF」と表現したことに関して、Wu氏から「APrIGFは国連IGF配下ではない」と指摘され修正したことを紹介。このような運営組織の多様性も、マルチステークホルダーアプローチの一端として捉え、さまざまなステークホルダーが一堂に会して議論を行い、必要十分なコンセンサスを得ようとするこのマルチステークホルダーアプローチを、多様性を持つ社会における方針検討のプロセスとして高く評価しました。また、ウクライナ侵攻や感染症禍という状況に際して、インターネットが経済活動や市民生活に欠かせないだけでなく、他で代替不可能な要素であり、それを閉ざすべきではなく、堅牢性とセキュリティを十分確保することが重要であり、政府としてもサイバーセキュリティなどにコミットしていく必要があり、TWNICとも協力して対策を進めている、としました。

最後に発言したのはTWNICのCEO、Kenny Huang氏です。Huang氏も1990年代から活躍する台湾インターネットのフロンティアで、APNIC理事を長年務めるほか、IDNに関する方針策定などでも活躍しています。TWNICはccTLD、IPアドレスのレジストリだけでなく、TWCERT/CCも擁する団体ですが、Tang氏のサイバーセキュリティに関する発言を受けてか、サイバーセキュリティやシステム脆弱性対策に触れ、あらゆる経済活動や市民生活に利用されるインターネットにおいてこれらの対策が非常に重要だと指摘しました。

パネリストの発言が一巡したところで、Wu氏は「たくさん質問を準備していたが全部使うことができない」と言いながら、”One World, One Internet”と公共政策や規制との関係、フラグメンテーションといった質問でもう一周しましたが、紙幅の関係で紹介は控えます。パネリストからのインプットはインターネットの歴史を踏まえ、社会システムの成り立ちを踏まえた非常に示唆深いものでした。セッションの様子の録画は、すべてYouTubeで公開されていますので、ぜひともご覧ください。

このセッション以外に、JPCERT/CCの小宮山さんが、このセッションの直前の重要インフラのサイバーセキュリティに関するセッションに、また、28日最後のセッションでは、個人情報保護に関する日本での取り組みが、JAIPAのモバイル部会の北村さん、安カ川さん、小畑さんをパネリストに、紹介されました。

本セッション
https://youtu.be/RuNPNMkiAfA

TWIGF2022プレイリスト
https://youtube.com/playlist?list=PLrOOx-G2sgeKmsY8l-gGoBbBQhj53F6CI

TWIGFはWu氏の力強いリーダーシップで、毎年海外からの登壇者を得て盛況に開催されており、学ぶところが多いところです。Tang氏の発言のところでAPrIGFが国連IGF配下ではないという点が触れられましたが、実は台湾は国連加盟国でないことから、グローバルのIGFには参加できず、従ってもしAPrIGFが国連IGF配下であったらTang氏の登壇も不可能でした。このTWIGFもNational Regional IGF Initiative (NRI)として認知されているわけではありません。そのような地政学的なポジションからも、デジタル主権やウクライナ侵攻などのテーマには非常に大きな関心が寄せられるようです。

 

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